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コーポィアスと世界の狭間、そして私

「どういう意味だ、コーポィアス」

 天井に浮かぶ炎獄の王は私に話した事は驚くべき事だった。

コーポィアスの住む世界は下層世界と呼ばれる世界達の中にある、そこには燃え続ける黒い炎は太陽すら及ばない温度で、全てを燃やし尽くすまで消えることはない。

 そんな中で、コーポィアスはたった一人で生きている。

 黒い炎の中で自らを燃やしながらも、朽ちずに、死なずに生きている。

 あの白い不定形な体は焦げ落ちる事と再生を続ける事の無限連鎖によって作られているのだ。

 そんな奴しかとても住まうことのできない世界に入り込み、しかも主を締め出して支配するなどという行為ができる奴がいるとは全く驚きが隠せない。

 だから私は詳しく話を聞くためにそう聞き返す。

「ミレバワカル、ツイテコイ、ハヤクキテクレイマスグニ」

 だというのにコーポィアスはそう切り上げると、黒い炎に身を包み、先程出てきた黒い穴に吸い込まれるように消えた、開いた黒い穴も少しすると世界の修復力でそよ風をふかしながら閉じた。

 まったくもって強引でせっかちな奴だ、初めに出会ったころからさっぱり変わらない。

あいつは、私がこの世界での体を作る前からの仲だ。

 長い付き合いの親友とも呼べる奴が、言っても変わらない事はよくわかっているのでため息しか出ない。

「まぁ、行ってやるか」

 一人そう呟き、私は準備をするために自分の部屋に戻った。

 友を助けるのは当然の事である。

それに奴が出てきたとき焦がした初希の部屋の天井について文句を言わなければならないしな。

                      ・

 準備といっても大したことをするわけではない。

 部屋着として着ている黒いジャージの上にタンスから取り出したこれまた黒いマントをつけるだけだ。

 誰に見られるわけでもないのでファッションについては気にしない。

 ちなみにわが彼女様は私のこの姿を見るとちょっと怒る。

 すまない初希、だが急ぎの用なのだ、許してくれ。

 ぷんぷんという擬音がぴったりな彼女様に心の中で謝りながら準備を完了させる。  

 私はコーポィアスの後を追うためにこの世界の外へと出るのだ。

「開け扉よ、あの世界達よ、我は知る者、我、詠唱す」

 翻訳するとおよそそんな意味の言葉を発する。

 詠唱、自らの魔力を使い世界に語りかけ世界の理を曲げる、それが私が生まれたどこかの世界の人々が使っていた力。今やどこにあるか見当もつかない世界だがな。

 詠唱に応じて私の目の前の空間に波紋が広がる、私の部屋と世界の狭間がつながったのだ。

 そして、見た目は変わらないが私の身体はこの世界で使っているものから、世界達の間を飛び回る私の元の身体に変身する。この身体が私が生まれた時から使っている身体であり、初希より数十倍、いや数京倍も年上である。もちろん初希にはこのことは秘密だ、そのために身体を使い分けているところもある。

 広がる波紋の中心に触れると、周りの景色が変化する。

 真っ暗で何も見えない場所。

 コーポィアスの世界のある下層世界への世界の狭間の風景はこんなものだ。

 ちなみに私の住んでいる世界は位階世界と呼ばれているのだが、外側から見ると光の注ぐ塔の形をしていて、明るい光に包まれた草原が広がっている。

「我は宙を泳ぐ、我、詠唱す」

 暗闇の中で飛行の詠唱をして浮き上がる。

 闇の向こうにコーポィアスの光る赤い双眸がゆれ、それを頼りに私は飛ぶ。

 私を待たずに移動していたコーポィアスに速度を上げて近づく。

風は無く、コーポィアスが通った後の熱い空気が体を包む。

 コーポィアスの横に並び、飛びながら話しかける。

「おいコーポィアス、いくら焦っているからといってもあの態度はどうかと思うぞ」

「スマナイ、ガゼル、ワガトモヨ、ユルシテホシイ、ホントウニアセッテイルノダ」

 コーポィアスの光る眼が激しく点滅する。

 これは奴が本当に焦っているときの癖のようなものだ。

「だが説明ぐらいはするべきだ、人に何かを頼むのならそれぐらいしろ、私はまぁ、いつも通りだなと怒りを通り越して呆れと諦めを感じているが、それでも最低限そういう説明は欲しいぞ」

「セツメイシヨウニモワタシニモアマリワケガワカラナイノダ、フツウニクラシテイタラ、トツゼンオイダサレ、ソトガワニイテ、ハイロウニモナニカニオオワレテイテハイレナイ、ソレグライシカ」

 普通に説明できるではないか、といちいち怒っていても仕方ないので、私はいくつか浮かんできた疑問を投げかける事にする。

「お前の炎ではその覆っているものは燃やせないのか?」

「モヤセル、ダガモヤシツクセナイ、ナゼカキエテシマウノダ」

「お前の炎が消えるのか?」

 コーポィアスの纏い操る尽きない黒い炎が、覆っている何かに触れて、一時は燃え移るが、燃やし尽くせずに消えてしまう、それは明らかにおかしいことだ。

 黒い炎は燃え移るとそのものが塵になるまで消えることは絶対ない。

 それが何に燃え移ろうとだ。

 水に燃え移り蒸発するまで消えず、大地に燃え移りその全て地下に至るまで燃やし尽くし、世界とその外側との壁さえ燃やして崩す、そんな灼熱という言葉でさえ生ぬるい、核分裂も太陽も及ばぬ熱量と威力を誇る炎、そんなコーポィアスの黒い炎が消える訳がない。

 いや、世界は無数に存在しているので、もしかしたらそのどこかで消す事ができる方法が生み出されているのかもしれない、その可能性もあるが、私はなんとなく違う気がした。

 勘がよく当たる訳ではないが、それでも私はその可能性以外の可能性を考える。

 それに誰が何故そんなことをしたのかも気になる。

 長い間生きてきたが、色んなことを一度に考えられるほどに頭がいいわけではない。

 私は背中にはためくマントを手繰り寄せ、その裏地に手を当て、魔力を込める。

 するとマントの中に手が入っていく。

 このマントは私が住む世界を探して放浪している時に助けた名だたる裁縫屋がお礼にくれた自身の最高傑作、異空間収納機能付き防御術式織り込み高機能マント、名を向こうの世界の発音で「ビスュン・ィ・リゥエピェヴァ」といい、私は長いので「ビリゥヴァ」と呼んでいる。

 その中に手を入れて私はメモ帳とボールペン取り出し、軽い情報を書き込む。

 コーポィアスから他に何か情報がないか聞いてみたが、語ったこと以外に情報は無かった。

 移動を続け、狭間の出口が近づいてくる。

 といっても辺りはまだ闇に包まれ、何も見えない。

 ただ、向こう側に引っ張られるのを感じるだけ、だがそれでわかる。

 下層世界の最奥に蠢く全てを食らう穴の引力だ。

「モウスグワタシノセカイダ」

 コーポィアスがさらに速度を上げる、いきなり勢いが上がったので黒い炎が飛んでくる気配がして首を振って避けた。

「危ないな、炎が飛んできたぞ!」

 思わず私は声を上げた。

 せっかちとはいえ、コーポィアスは世界を奪われた程度でこんなに焦る奴ではない。

 何かがおかしい、奴がこんなに焦っている理由は何か。

 浮かんだ疑問について考える前に闇が晴れた。

 そこに広がるのは下層世界、遥か下にはおそらく穴が蠢いているだろうが見えないくらい高い、辺り一面の景色は暗闇とそこに光る無数の下層世界に属する世界達。

 まるで宇宙の星々のような世界達の中、コーポィアスが住む世界へと飛ぶ。

 そして私にも奴の住処が見え、遠くから見てもその異様さがわかった。

 いつもは絶えず黒い炎の噴き出ているコーポィアスの世界への入り口からは全く炎は噴き出ておらず、そこから代わりに何かが出てきている。

 近づくとわかる、出てきているもの、それは赤、黄、青、奇妙な色をした大木。

 大木は私達が近づいていく間もどんどん成長していく。

 あの大木どこかで見たことがある。

 私は近づいてくる大木に既視感を感じた。

 長く生きてきた私の膨大な記憶の中を探る、その中であの大木の存在を探る。

 そして見つけた、しかもそれは私の中ではとても馴染みのある記憶だ。

 その大木は炎を浴びて育つ知能を持つ木、それが生えているのは懐かしき世界。

 私の生まれた世界の木だった。

 ということはこれを持ってきた奴は十中八九私の世界の奴だろう。

 思い出した私はその事をコーポィアスに話しながら大木へと飛ぶ。

 コーポィアスの世界はすぐそこだ。

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