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管理官と炭、そして娘

 戦いが始まった。

 始めやがったよガゼルがさあ。

 ここ最近連絡入れようとしてもまったく繋がらないから何か起こすのかと思ったら、案の定起こしたよ。

 世界管理官であるわたしに一言も通さないとは一体どうゆう用件なのか。

 こっちを巻き込みたくないのはわかるけど、こっちは巻き込んでほしいんだけど。

 あ~ちくしょう、むかむかして来た。

 地団駄ふんだら床にひび入ったし、何なんだよちくしょう、また修理頼まなきゃいけないじゃないか。

 落ち着け、落ち着け、わたしは深呼吸をする。

 深呼吸自体にわたしを鎮める効果はないが、ジェスチャーによる思い込みで押し込める。

 こちとらガゼルと一緒に救いに行った世界群のアフターケアまでしたっていうのにこんな楽しそうな事にわたしを誘わないなんてなんてひどいんだ。

 もしかして、今までのわたしの横柄な態度から友好関係を切りたくなったのだろうか。

 それはあり得る、情緒不安定は自覚の上だ、治らないけど、直すつもりもないけど、これがわたしだから。

 ガゼルは冷たい人間じゃないけど切り捨てる時のばっさりとした感じはたまに恐ろしくなる。

 その時の何も考えてないうつろなめで虚空を眺めながら淡々とこなす姿に世界達に多大な被害を及ぼす奴だったら間違いなく指名手配になるだろう危険度も感じた。

 そういえば今回の件、あまりにも唐突だなあ。

 もしかしたらガゼルはマリィコールズに、巨眼に対して今、そんな感じになってるのかもしれない。

 巨眼の、マリィコールズの勢力はあまりに巨大、それを消すつもりでいるのなら、その間に挟まる無害な世界もいくつか切り捨てるか。

 始まった戦いに無理に入ればガゼルの邪魔になるかもしれないし、そっちのケアでもしとこう。

 あわよくばこれを貸しにしてまた仕事を手伝ってもらえればなおよし。

 んじゃ、いくか。

 



 暗いようで明るい、黒い炎に包まれた世界、その中で透明な箱の周りを蠢く何かがいた。

 揺れる黒い炎が箱の周りを円を描くように取り囲む、その中にちらちらと見える白い何かが体を引きずる音がする。

 その度にその周りの炎が活性化し、天まで上る程に大きく燃え上がった。

 ぞれに呼応するように箱が光る、何度も何度もそれを繰り返す、その生物はしばらくして、動きを止めた、その炎に包まれた奥から赤い光が二つ。

 コーポィアスだった。

 常時発光を始めた透明の箱に一度目線をやった後、そこから飛び立った。

 透明な箱は光りながら燃えることなくその場から消えていく。

 コーポィアスはそれを振り返らずに飛んでいく、そしてまた透明な箱を見つけて、その周りで黒い炎を撒き始めた。

 コーポィアスの後ろの空に吹雪が浮かび上がり、その中に氷塊が現れ、コーポィアスに声をかけた。


「ナニヲシテイルノ、コーポィアス」

「テツダイダ、トモノ」


 コーポィアスは振り返らずに答える。

 氷塊は別の下層世界の住人であり、コーポィアスとよく遊ぶ、ロォウィンッポと呼ばれる氷塊、全てを閉ざす吹雪の閉じた世界で外に出る事は無いが、近くの世界ならこうやって会話をすることが出来る。


「トモッテアノガゼル?」

「ソウダ、ナニヲシテイルカはダレガキイテイルカワカラナイカラオシエナイ」


 作業中であるのか、コーポィアスの態度は素っ気ない。

 しかし、ロォウィンッポはそれが気に障った様子はなく、少し黙ってコーポィアスが何かをしているところを眺め、そして二回甲高い割れる音を響かせた。


「ナニヲシテイルカワカッタ、テツダウ」


 そう言うとロォウィンッポはコーポィアスの返答を待たず、震える突風の音が吹いたかと思うと、コーポィアスが周りを回っていた透明な箱にロォウィンッポの吹雪が降り注ぐ。

 すると、箱はコーポィアスに炎で包まれた時と同じように光を放ち、その場から消えていく。

 突然のロォウィンッポの行動にコーポィアスは二つの赤い光をゆっくり点滅させた。

 しかし、すぐに点滅を止めるとロォウィンッポを見上げる。

 ロォウィンッポは得意げに笛の音のような高い長い音を二回鳴らす。


「ドウ? アッテルデショ、テツダウ」

「……ナラムコウノホウヲタノム」

「ワカッタ」


 吹雪と共にロォウィンッポはコーポィアスの指した方向飛んでいく。

 それを見送った後、コーポィアスは逆の方向に飛び立ち、目を二、三回点滅させた。


「マア、テガフエテハカドルカライイカ」




「でりゃあっ! 大パンチ!!」


 黒い獣に拳がめり込み、大きく鈍い音が響き、声も立てずに崩れ落ちる。

 パンチの主は黒い獣が口から吐いた体液が手について勢いよく飛びのく。


「うわっ! バッチい、きったな! どぅえっ」


 とっさに手を振って体液を振り払いながら着地失敗し、地面に後頭部を強打する。

 パンチの主、ココココ子は地面に後頭部から血を流しながら空を見上げた。

 何もない草原にはココココ子と黒い獣以外何も存在していない。

 その黒い獣も地面に溶け込むように消えていき、ココココ子は一人になった。

 荒い息で胸を上下させながら、強かに打ち付けた後頭部に手をやると手にべったりと血が付くが、その血が出ていた傷は既に塞がっている。ココココ子、脅威の再生力である。


「あ~づっがれたああああああ!!」


 声を上げて腕と足を広げて大の字になる。

 先程までココココ子ここで複数の獣やら人やらの集団に襲われていた。

 それを一人で全てさばききったのだ、疲労するのも当然である。

 ココココ子がいる世界はよくある剣と魔法と世界、街から離れた広い平野だ。

 その中にあって何故ココココ子が襲われたのか、特にこの世界で罪に問われるようなことはしていない。

 どころか街を助けて人に感謝され、もてなされて街を出たばかりだった。

 因縁をかけてくる組織に狙われる筋合もない、盗賊やその他諸々の集団でもない。

 この世界の中では襲う者はいない、中では、世界の外からやって来た者は別である。

 そしてココココ子は襲ってきた集団に覚えがあった、マリィコールズだ。

 マリィの一部だった者ともとれるココココ子はもちろんマリィコールズに狙われないワケがなく、過去に何度も狙われ、捕獲されかけたりもしている。

 ゆえに顔つきだ、とか雰囲気だとかでよく割れるココココ子の頭にもマリィコールズの姿は染みついている。

 それにしても、とココココ子は振り返る。

 今回襲ってきたマリィコールズはいつものマリィコールズとは少し様子が違ったな、と。

 いつもより、なんというか必死さがあった。

 まるで何かに駆り立てられるかのように、その表情には焦りと怒りが見て取れた。

 何があったのか、ココココ子には考えてみてもわからなかった。

 そんな事よりもマリィコールズに見つからずにココココ子が世界を旅できるのはガゼルに存在を偽る力を貰っているからで、今回マリィコールズに見つかったのもそれが切れてしまったからだ。

 ガゼルにもう一度貰わなければいけない。

 ココココ子は安全のため、ガゼルの住む世界にすぐ転移できる道具を貰っている。

 思い立ったらすぐに行動しよう、と、ガゼルさんはどうせいつも通りに部屋の中で寝てるだろう、とタカをくくってココココ子は立ち上がり、ズボンの中に手を入れ、裏地に縫い付けた小さいリングを取り出す。

 それを握り締めて一つ唱える。


「飛べ! あの元へ! キューサイガン!」


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