頂上世界と悲願、そして喜び
豆粒のような生物達を眼下に、ノミ以下の生物達をさらにその眼下に、巨眼はそこに存在した。
動く事のない巨眼は死んでいるようにも見えるがその実生きている。
生きて、見下ろした世界に存在する無数のマリィコールズに指示を出し、素質を見出した生物を洗脳し、自分の手足を増やしていた。
自らの野望、巨眼に焼き付いたあの美しきマリィを手に入れる為に。
そのための手がかりを得るにはマリィを世界達から隠した張本人、ガゼルから情報を得るのが一番手っ取り早いが、マリィコールズではガゼルを拘束する事は難しい、その周りの人物に関しても人質に取ろうとすれば世界管理官だったり、ガゼルの味方をする者達に返り討ちにされる。
巨眼にとってはマリィコールズがいくらいなくなろうとすぐに補充できるものだから痛くもかゆくもないのだが、ガゼルを狙ってばかりいても手掛かりすら得られないので、マリィコールズを世界達の中に放ち、無数に生まれる世界全てを探してマリィを見つける方向にも手を出している。
しかし、マリィが産まれ、世界達に終焉をばらまいて行った当初の事を覚えている人間はいても、その後を知る人間はだれ一人おらず、終焉の足取りを追ってもマリィが隠された場所に繋がる何かの存在すらつかめない。
だが、いつかは見つかるだろう、と巨眼は考えている。
頂上世界にいる限り、巨眼の安全は確保されいているも同然。
誰もが届かない頂点、ここから落ちる事が無いように盤石な体制が築き上げられつつある。
頂点世界は多くの者が狙い、欲する場所だが、ここが完全に巨眼のモノとなれば、マリィ探しにもさらに力が入る事だろう。
マリィの美しさでも頂点世界ならば滅ぶ事は無い、と巨眼は考えている。
何せ頂点だ、巨眼が何をしようと、びくともしない世界だ。
ここにマリィを迎え、そして永遠にその美しさを楽しむ事こそが今の巨眼の悲願だった。
それゆえに巨眼は驚く、目の前にその悲願の手がかりが突然現れたことに。
「久しぶりだな巨眼、いつ以来か」
休みを知らない眼の前に、ガゼルはいつの間にかいた。
しかし、その姿はどこか不確かで、この世界には実際に存在していないようだ。
幻影の類か、巨眼はそう直感する、どこからか、と辺りを見下ろし、世界達に目を凝らしたが、巧妙に隠れているようで出どころは見つからない。
ガゼルは気楽に虚空から一つの紙のようなモノを取り出すと巨眼に見えるように放る。
その表情は無、何も読み取れない、巨眼を見ているようで見ていない、そこか虚空を見ているようなぼうっとした表情だ。
「宣戦布告だ、受け取ろうが受け取るまいが、私はお前を消す」
声は響く、気取らない、ただの敵意。
この言葉の後、少しの間ガゼルの視線が巨眼に向いて、その姿は元からなかったかのように消えた。
まるでいつも通りの朝が来るかのような自然さにしばらく巨眼は何が起こったのかさえ把握できなかったが、言葉の意味を理解し、また、ガゼルの置いて行った紙を見てマリィコールズに指示を出す。
全員集合、巨眼を守れ、と。
何が引き金でガゼルが怒りを覚えたのか、巨眼にはさっぱりわからなかったが、好都合、幸運だった。
いくらガゼルであろうと巨眼が手を加え、改造した世界を突破できるはずがない。
そしてガゼルを捕える事が出来れば、マリィの居場所の手がかりがつかめる。
生死は問わない、巨眼の力を持ってすれば死体だろうと記憶を探る事は可能だ。
巨眼は嬉しさに瞳孔を輝かせた。
望みが全て叶うのか、これが神の導きか、と。
巨眼が巨眼になる前に信じていた神の名をよぎらせる位に巨眼ははしゃぎ、戯れに適当な世界をつなぎ合わせて爆破した。