表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
118/132

涙と約束、そして抱きしめ……

「そう、ガゼルはまたどこかに行くんだね」

「すまない、また長く家を開ける」


 机の上にマグカップ二つ、向かい合う私と初希。

 一通り今日の出来事と私の決意を話すと、初希はうつむく。

 コーヒーを一口飲んで私は息を吐いた。

 うつむく初希の表情は私から見える範囲では複雑なモノで、心を読みでもしなければわかりそうになかった。

 しかし、ここで私は心を読むことはしない。

 初希は、私に行って欲しくない、と強く願っていたりするかもしれない。恋人が危険な目に会うのをよしとはしないだろう。

 逆に私に愛想が尽きて別れたくなっているかもしれない。私がよく家を開けて、あまり初希と一緒にいられないから。

 そんな心を読んだら私の決意は揺らいでしまう。

 だから、私は黙って初希の言葉を待った。

 初希はマグカップを両手で包むように持ち、じっとしていたが、少しの経って、一口紅茶を飲み、顔を上げた。


「帰ってくるんだよね」


 一言、他にもいろいろと言いたい事があるのだろうが初希は一言だけ私に聞いた。

 マリィコールズの規模は巨大だ、無数に生まれる世界に対して巨眼が手を出して、今も増えている。

 巨眼と戦うという事は無数に増えるマリィコールズ達と不毛な戦いをする必要もある。

 時間がかかるだろう、力尽きるかもしれない。

 不安はある、だが、平穏を求めるのならば戦わなければならない。

 何度も考え、決めた事だ。


「ああ、必ず」

「……そう」


 帰れなくなる、なんて今は考えない、帰る、それも決意の内だ。

 初希は目を瞑り、長い息を吐いた。


「なら、わたしは大丈夫、ガゼルが帰って来てくれるなら、わたしはいつまでだって待つよ」


 そして、そう言って笑った。

 ぎこちない笑みだ、それでも私を笑顔で送り出そうとしてくれている。

 私は立ち上がり、テーブルの向こう、初希の方へ回り、腕を広げた。

 初希は表情を少し歪ませながら私の胸に飛び込んでくる。

 私は受け止めて抱きしめる。初希は私の胸に顔をうずめ、小さくしゃくりあげ、シャツを涙で濡らしす。

 小さい頭に手をやり、長い黒髪をゆっくり優しくなでた。


「いつも不安にさせてすまない、帰ってきたら、またどこか、初希の好きな場所に行こう、どこへでも」


 遊園地、水族館、動物園、山、海、ショッピングは少し勘弁してほしいかもしれないが、初希と一緒であればどこでも、何なら世界の外へと旅行に行ってもいい。

 しかし、初希は首を横に振った、そして涙で濡れた顔で私を見上げる。


「ここでいい、どこにも行かなくていい、一緒にいられればいいから、だから、帰ってきたらいっぱい話を聞かせて、またお茶会しよ」

「……わかった、帰ってきたら、出来たらでいい、笑顔で迎えてほしい」


 私が言うと初希はただ笑ってうなずいた。

 涙に濡れていたが、その笑顔が私の心に活力をくれる、脳に消えないようにこの笑顔を焼き付けた。


 その後はまた色々な事を話し、いつも通りのお茶会だった。

 だが、それが心地良い、これが私の求めた平穏だ。

 心に焼き付けた笑顔と共に私は戦う。

 初希は夜から仕事があるだろうに、眠いだろうに何時間も私と他愛のない話をした。

 ついには眠気で舟をこぎ始めた初希を私は抱き上げてベットに運ぶ。

 ナイトキャップを渡すと初希は眠そうにしながらもそれをかぶる。


「では、行ってくる」

「待って、ガゼル」


 ベットに横になる初希に背を向けようとしたら引き留められた。

 見ると今度は初希が腕を広げている。最後にもう一度抱き合おうという事か。

 私は初希に近寄りかがんで初希の背に手を回そうとしたが、それより少し早く初希が天法を使う気配と共に飛び上がる。

 隙を突かれた私の眼前まで初希は一気に飛び上がって来る。

 それはもうぶつかる程の近距離に。

 そして頭が引き寄せられ、口づけが交わされた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ