義理と寝顔、そしてお茶会
思ったより心田は弱かった。
ブランコの鎖に巻かれて宙づりになっている心田を見ながら私は思考する。
もし、私が巨眼との戦い、マリィコールズとの戦いに入った場合、この世界の最高戦力がこの転移者だった場合、マリィコールズがこの世界に送り込まれて暴れまわったら守り切れないか。
まだ二木がいるとしても、そちらにあまり期待しすぎるのもどうか。
実際に見てみないとわからないな。
あの場から逃げる時に観測用に何か置いてくればよかったか。
普通に測りに行ってもいいが、力を解放した状態だと巨眼にいつバレるかわからないからそんな時間は無いように思える。
「どうして、こんな事を、するの?」
ブランコの鎖をきしませながら、ボロボロの心田が私を見下ろす。
その目は負けた事への悔しさか、友人をさらわれる悲しみか、涙が浮かび、力を使いすぎて空になったその姿は弱弱しい、学校で見た自信にあふれた姿はどこへいったのか、私のせいだが。
「それに答える義理はない」
聞かれたところで答える事はないので戦う前に言った事と同じような事を言っておく。
さて、とはいえ、一度挫折を味わった者はそれを乗り越えた時強くなる、というし、実際そんな光景を見た事が多くあるので、彼女には私という大きい壁に当たって折れた心をゆっくりと強いモノ鍛え直しせる事を望んでおこう。
何なら私に似て非なる分身でも置いておいてそれを相手にしてもらうのもいいか?
いや、この転移者に世話を焼く必要はない、それこそ義理はない。
この世界を守る、また、初希を守るというのなら別の方法を取った方がいい。
「世界を隔離から戻す、海撃隊でも呼んで保護してもらえ」
力を完全に器にしまい込んでから世界を隔離から解く。
と言っても周りに変化はあまりない。
戦いによって地面に穴が開き、遊具の形が変わって遊具としての役割を果たしていないだけだ。
近隣住民が見たら通報するだろう。
すぐに転移しようか。
「では、もう会う事はないだろうな」
「待って!!」
「用が済んだらお前の友人は返す」
言い残し、転移する。
自分の家へ、これから発つ前に、最後に初希の顔を拝んで、起きていれば少し話そう。
見慣れた部屋の中に戻って来た。
静かだ、とても。
生活音は聞こえない、初希は寝ているか。
「収めよ」
部屋の中に私の声が響く、はためきだしたビリゥヴァを脱ぐと空中をふわふわと漂い始めた。
ビリゥヴァの自動収納機能だ。
こちらの意思に反応して指示した物をしまってくれる。
戦いに必要な物を選んで全てしまおう。
ビリゥヴァが指示した物を吸い込み始めたのを確認してから部屋を出て、初希の部屋に行く。
夜勤明けだ、寝ているだろうな。
ドアを開く、そういえばコーポィアスが焼いた天井はそのままだった事に気づくが、今はどうでもいいか。
閉め切られたカーテン、暗い部屋だがわずかに注ぐ光と寝息で初希がいる事を確認する
起こさないように静かに、息をひそめて足音を消して近づく。
そしてその顔を覗きこんだ。
ナイトキャップを被り、安らかに眠っているその顔に私の心も安らいでいくのを感じる。
この安らぎを守る為に戦うのだ、平穏の為にも。
「んん……ガゼル?」
「すまん、起こしたか」
初希が薄く目を開く。
できるだけ息をひそめたが、海撃隊だからか、気配に敏感だな。
「学校はどうしたの? 終わったの?」
「いや、少し色々あって、な」
聞いてくる初希に私は少し口ごもる。
まさか入学初日に退学して、しかもここから少しの間離れるとは言いづらい。
「……ちょっとお茶しよっか」
「……そうだな」
私の雰囲気で何かを察したのか初希が目をはっきり開き起き上がる。
「お湯を沸かしてくる」
「うん、ありがとう、わたしもすぐ行く」
まだ眠いのか、少し伸びをする初希を見て、私は先に初希の部屋を出た。
やかんに水を入れ、火にかけよう、初希は髪を整え、服を着替えるだろうから。