威圧と一旦の別れ、そして入学
「いえ~、特に何もなかったですよ~、勘違いではないですか~」
「そんなワケないじゃない! 確かにここから反応があったんだから!!」
退下は興奮した様子で高い声で喚く、うるさい。
そして私の方をにらみつけて、指をさした。
「あなた、怪しいわね、たしか……ガゼル、どこかで聞いた名前」
「は?」
ちなみに前に会った時の記憶は封印し、適当なつじつま合わせをしたので私とは初対面だと思い込んでいる。そのはずなのだが……そういえば退下が海撃隊で何の仕事をしているのかを聞いた事は無かったな。
もしかしたら法術を教える為に一時的に高校にいるのかもしれない。
都合の悪い事がよく起こるモノだ。
私に真っ直ぐ近づいてくる退下、明らかに私を疑っている目だ。
そこにサハダールが私の前に立って遮った。
「ここには何もありませんでしたよ~、わたしもいましたし~」
「そうなの? 本当に?」
「ええ、どころかとっても才能のある人ですよ~」
サハダールが威圧も少し入った笑みでそう言った事で退下は釈然としない顔をしながらも足を止めた。
そしてサハダールがそう言った事で私はこのまま帰って二度とこないという選択が出来なくなりそうだった。
笑みで気おされたのか知らないが退下は踵を返す。
「あなた、本当にどこかで会った事ない?」
「さあ」
「……そう、わかったわ、ごめんなさい、お邪魔しました」
私が首を傾げると退下は納得はしていないながらも部屋から出て行った。
「……ありがとう、サハダール」
「どういたしまして、海魔神様」
「今はガゼルでいい、どこで聞かれているかわからないからな」
「それでは~、ガゼル様~」
出来れば様付けもやめてほしい所であったが、こちらを崇拝する対象であると誤解しているので、それを込みでここが落としどころなのだろうな。
「わたしはこれからどうしたらいいでしょうか~」
海魔の姿の時とがらりと変わって朗らかにのんびりとサハダールが私に問いて来た。
どうする、か。
私がこれからしばらく教育機関に身を置くことになってしまった以上、誤解を解かないまま、利用させてもらおう。
「このままここで仕事を続けてくれ、私は目覚めたばかりだ、この学校に入り、現在の状況を観察させてもらうよ」
「かしこまりました」
「私が目覚めた事は極秘だ、他の奴に報告するなよ」
海魔総出祭り上げられて、さらには全面攻勢と調子に乗って被害を出されても困る。
他にもいろいろと私の素性がばれないように言ってから私は一旦家に帰る事にした。
とりあえず、法術の適正ありという事で学園に通う事になったので、その事を初希に報告すると同時に、マリィコールズが潜んでいる事を警戒するなら準備が必要になるな。
「では~、わたしは大体ここにいるので~、何かあれば何なりとお申し付けください~」
「お前も何かあれば報告を頼む」
「はい~!」
サハダールが人間の顔でにっこりと笑ってこちらに頭を下げる。
それを見て、背を向けて私は部屋を後にし、学園から出て、家に帰った。
学校に通うなんていつぶりだろうか、私が生まれた世界では教育機関に通える人間は貴族とかそういう富を持つ者で、一般人は通う事は出来なかった。
私が生まれ住んだ場所の近くに偶然詠唱を使える者がいて、その人に頼み込み、雑用をしながら学んだモノだ。
考えると世界を転々として来て、そういう教育の場に行き、何かを学ぶ事はあまりなかった。
いつも大体世界で使われている力を目にして、観察し、見よう見まねでやったり、その世界の住人に教えてもらったりは下が、学園、だとか学校に入った覚えはあまりないな。
覚えていない、という事は大したことは学んでいないだろうから別に今思い出す事でもなかろう。
袖を通した新品の制服に似せて作った色々と加工した制服もどきの内ポケットに取り付けた異空間収納の調子を確かめながら教室の前、教師から呼ばれるのを待つ、入学手続きをして、私はここにいる。
体の年齢、この世界での年齢として二十に近い年なのだが、法術に関しては初心者という事にいなっているので、一年からの編入となった、
ついでにマリィコールズがいたらそれを今度の頂上の巨眼との戦いに利用しよう。
それくらいでないと割に合わない。
実際、法術を学ぶ必要なんてないので、マリィコールズを探す事をメインとするか。
戸が横にスライドし、教師が顔を出す、眼鏡をかけ、光を照り返す頭、くたびれた顔から哀愁が感じられる。
さて、そう言えばこういう時には何らかの挨拶が必要だったな、今から考えよう。