失敗と学校、そして検査
率直に言おう、普通に間に合わなかった。
少しのミスが命取りとはこういう事か。
私は静かな朝のバスの座席から流れる海の景色を眺めながらため息を吐いた。
退下の記憶の消し忘れは完全なミスだ。
初希が落ち着いた事に満足してすぐに出て行った退下を気にかける事を何故忘れていたのか。
ヤツも初希と同じく海撃隊の一員、使えそうな人材がいたら連絡して当然だろうに。
という事で、私が記憶を消しに行く前にすでに幹部の方に連絡は行っていたようで、あの日から数日後、私の元に通知が届いた。
曰く、術法を使える才能がある者として教育機関にて検査をする、との事。
呼び出しから逃げて隠れる事は出来るが、初希に悲しい思いをさせたくないし、今回は自分の魔力を封じ込め、力も抑えてできるだけ無能を装う方向に決定した、面倒くさいがな。
バスのアナウンスが目的地への到着を告げて私はバスから降りる。
国立法術第二高校、器の年齢設定的にはここに通っていてもおかしくないが、いかんせん中身が釣り合っていない、が、行くしかない。
憂鬱にため息を吐き、マリィコールズとの決戦の事を考えながら私は学校の門を通り、敷地に足を踏み入れた。
校内のイメージは、まあ、よくある廊下、と言った感じで、天井から蛍光灯が黄色い光で廊下を照らし、行きかう生徒が談笑したり、端末を小脇に抱えて早歩きでどこかに向かう教師。
その中を歩く私服姿の私は少し周りから浮いて、生徒からちらちらと目線を向けられていて、少し居心地が悪かった。
まあ、こんな思いはこの世界では今回限りだ、問題ないだろう。
通知に同封されていた校内の地図を頼りに私は指定された場所に向かってゆく。
目的地に近づけば近づく程、生徒や教師の姿は見えなくなり、ついには長い廊下の上、私の足音だけが響く程に静かになる。
さて、ここか?
指定された場所には確かに検査室と書かれた表札のついた扉があった。
とりあえず、控えめに二回ノックをしてみる。
「はいはい! どちら様!?」
高めの声の大きな返答がドアの向こうから返ってきて、こちらに走ってくる泡だたしい足音の後、勢いよくドアが開く。
ドアはすさまじい強さで開かれて、大きな音が誰もいないし静かなせいかそこら中に響き渡り、思わず耳を塞ぎそうになった。
ドアの向こうから顔をのぞかせたのはやけに大きい丸眼鏡をかけた白衣の女性が姿を見せた。
胸から下げたネームホルダーに大きく 澤田 春 と名前が書いてある。
検査を担当する教師か何かだろう。
「今日こちらに呼び出されたガゼルです」
「あ~、え~っ……っとそうか、そういえば連絡があったね、ガゼルくん、苗字は若井、ハーフなのかな?」
「まあ、そんなもんです」
「じゃあ~、早速検査しようか、こっちに来て」
導かれて検査室に入る、ああ、早速やってとっとと終わらせよう。