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四手先






ヨシオとガブリエルはとある断崖の行き止まりに立っていた。


そこには銃を向けられたフリーマンとセリザワの姿。


断崖に手を上げられたまま立たされた二人はふいに下を覗く。  


下はどう飛び越えようとも越えられないほどの岩場が存在する。


「こんなとこから落ちたら体が10ブロックになるぜ……」


フリーマンの声にガブリエルは応えた。


「回収してどこかの国に売りさばいてやるよ。ただし俺らの要求に答えれば別だ。」


セリザワは小便をチビっていた。


一体何をしようというのか。


ヨシオは銃を向けながらもガブリエルの声を聞いた。


「俺らの仲間になるか、それかお前らの家を隠れ家にするか……そこから飛び降りるか……」


ガブリエルは銃を構えたままフリーマンとセリザワに近付いた。二人は恐怖にたじろぐが、もう後はない。


「……なんでこんなことをする。ミナガワさんはお前を助けてくれたんだぞ。」


セリザワの返答への答えは簡単だった。


「……だが親父は助けてくれなかった。」


金のために……殺された。


ヨシオもガブリエルに負けじと声を出した。


「金のために死んだ人間の復讐。そして暴君に虐げられている者の救出。それに強力してほしい。」


フリーマンは「……俺は都合のいい方につく。名前の通りミナガワだけの俺じゃないからな」と殺される恐怖か正当な理由かはわからないが話をのんだ。


「……それと……聞きたいことがある……」


フリーマンは痛む体に耐えて声を出した。


「てめえら病院で俺に何した?おまえらのせいで協力もままならないよ。」


それについてはヨシオが口を開く。


「病院の床が痛んでたから落とし穴を作ったんだ……」


嘘だろ……そんな罰ゲームみたいなのに引っ掛かったのか……


「おまえはどうする?セリザワ。」


セリザワは頭でガブリエルたちとミナガワを天秤にかけた。まだ死にたくない……だがどっちにしろ……死ぬ。


「……俺は家を貸す。だがミナガワさんに殺されたくはない。……命を保証しろ。」


ガブリエルは押し付けた銃をおろし、「ミナガワからならな。それ以外は無理だ。」と突き放した。


ヨシオは二人を車へ連れていき、ガブリエルはその間に、あるところへ電話をいれた。


「マーチン、落ち着いて聞け。死にたくなければ家を離れ遠くへいけ。運が良ければまたあえる……」








エリコは子供たちを親に預け、パートに出た。


結婚して初めて働く。近くのコンビニなのだがまともに働いたことのないエリコには不安でしかたない。


「早くこうしてあげればヨシオがあんなことにはならなかったのに。」


エリコがコンビニへつくと、店長から業務説明などを受けさっそく働き始めた。


立ち仕事には慣れてないが意外に家事より楽かもしれない。


少しなれてきた。次のお客にはもっと元気に接しよう。


「いらっしゃいませ。」


エリコがハツラツの声は残念ながらその客には届かない。


「動くな……」


男はエリコに銃を向けた。あまりの非現実な状況に呼吸もままならない。


「……お金なら持ってってください。」


店長に教わった強盗対策マニュアルの通りの対応。


だが初日にこんな目に遭うとは……


「金じゃないことはわかってるはずだ。ここにきた

理由がわからないなら……旦那のこと話そうか?」









セリザワの家は用心の為の武器が沢山あった。


だが銃ではなく、催涙スプレーやスタンガン、警棒などの護身用具ばかり。


「なんでこんなにあるんだ?危ない仕事してるからか?」


ガブリエルの声に「今の仕事につく前から持ってる」と返してきた。


まあ……用心深いのだろう。

 


フリーマンの銃は取り上げ、警棒とスタンガンを渡した。


まだ信用はしてない。


ヨシオは銃を腰ポケットにしまいソファに座った。


「もう夜中の3時か。少し眠らないか……色々有りすぎて疲れたよ。」


ガブリエルはフリーマンとセリザワを護身具の中にあった手錠で拘束し、ヨシオの声に従い眠る……








ミナガワは自宅の寝室にいた。


高級住宅に似合わない和装を着衣し、ブランデーをのみほす。


うまくない……それもこれも……あいつのせいだ。  

グラスを壁に叩きつけ、言葉にならない言葉を叫んだ。


その時、インターホンが鳴る。


そこには部下と目隠しをされた女がいる。


「チェルシー、よくやった。入れ。」


何重にも重なった門に扉はこんな仕事をしてるからと警戒心で作った。


備えあればなんとやらだ。


チェルシーは会社の秘書だが格闘技経験もあり、何より警察とも直接的に繋がっている。


「よくやったチェルシー。」


女をソファーに投げやるとチェルシーはチップを受け取りその場を後にした。


「……ようこそ。田沼エリコさん。」


名前を呼ぶと同時に目隠しと猿轡をはずした。


「やめてください!!助けてください!!」


エリコの叫びは空を切った。


いくら泣きわめこうがどこにも届かない。


「何でここにいるかはわかってますね?」


エリコは怯えながら「お金は返したでしょ!」と座ったまま後ずさる。


「ええ。そのはずです。」


エリコにはその半端な解答の意味がわからなかった。


確かにあの日系人に渡したのに。


エリコのその表情に全てをよんだミナガワ。


「やはりガブリエルは島に渡る前に金を受け取っていたんだな。」 


エリコは島というフレーズに反応した。


だが何が起きてるのか。ヨシオはどうなった。


「エリコさん……あなたの旦那は確かに悪いことをした。殺されても仕方ない。だが何故か生きてる。うちの専属の処理屋と一緒にね。」


生きている……よかった。


処理屋が何かは知らないけど、あの日系人とどこかに逃げたということ?なぜ?


「おそらく私を殺しに来るでしょう。どちらにしろあなたには人質としてここにいてもらいます。痛いことはしませんから」








明朝7時。


ヨシオはガブリエルの指示に従い予め買っておいた地図を見ていた。


そこに赤マルでマグネの場所が印されている。


ここから10kmほどの場所でいくつかの工場地帯の一角をになっている。


ここの社長のヤザワは裏社会とも繋がりがありミナガワの顧客でも一番厄介な男。


表向きは縫製工場だが裏では麻薬などにも手をつけているらしい。


「ガブリエル……お前のお陰で度胸がついた。不思議と怖くない……」








ガブリエルはフリーマンと共にマグネの西出入口付近まで来ていた。


車中からその様子を覗く。中から沢山の女性従業員が出てくる。


「みんな夜勤明けか?」


フリーマンの問いに「全員昨日の朝から出勤した者だ。」と返した。


厳重にガードされた塀に、警備員が各入り口に2人。


特殊なカードが無ければ中へは入れない。


フリーマンは「今日は無理だ。すぐには忍び込めない。準備が無さすぎる」といきり立つ。


だがそんなものガブリエルには関係なかった。


「こっそりヤザワを殺すつもりはない。」


その言葉にすべてつまっていた。


自分も死ぬ覚悟を。


「じゃあ、俺も道連れか?」


「中に入れればお前に用はない。大好きな女と朝まで呑んだくれてろ。」









しかしすごい計画だ……相変わらずヨシオは驚いていた。


将棋で言えば4手先を読むといった感じか。


だが本当にうまくいくのか。


その時拘束されたセリザワは口を開いた。


「……やっぱり俺も協力する。お前らの計画聞いたらここに黙ってられなくなった。」


裏家業の人間の心変わりはヨシオにはわからない。


だが協力してくれるといっている人間をそのままにできない。


ヨシオは銃を向けたまま手錠を外した。


「俺にも銃をくれ。」


「残念だがダメだ。ガブリエルにあんたには武器を近付けるなと言われてる。」


セリザワはそれに従った。


ふいにヨシオが下を向いた……そのとき、セリザワは机下のボタンを押した。







午前9時30分、すでに従業員の出入りはない。あるのは業者のトラックのみ。


西出入口前にてフリーマンは車をおりた。


そのままガブリエルの乗った車はどこかへ消えた。


業者のトラックの出入がやんだ。


同時にフリーマンは警備室に顔を出す。


「すいません通行証忘れたんですけど。」


「通行証が無い人は絶対に通れません。」


その声に、フリーマンは後ろを向いた。


もう一人の警備員がこちらを凝視している。


フリーマンはセリザワ宅にあった秘密兵器を取り出した。


そのスイッチを入れた瞬間、二人の警備員にフリーマンは二丁の銃を向けた。


直ぐ様手をあげる警備員。二人とも大汗をかいている。銃を向けられたことなど無い証拠。


「そこのやつ、ここへこい……」


裏の警備員を警備室内に閉じ込め、スタンガンで気絶させた。


もう一人には銃を向けたまま聴取をする。


「おまえんとこのバカ社長は今日は来てるのか?」


警備員は怯えながら頷く。相変わらず汗は滝のようだ。


すぐに急遽登録したSNSでグループ送信を行う。


(ヤザワは中だ。)


警備員に新たな指示をする。


「門を閉めろ。西口だけでいい。」


警備員は室内のスイッチを入れた。


すぐに門は閉まるが、入ろうとしたトラックのクラクションはなりやまない。


「矢沢につなげられるか?」











矢沢は部下に怒り狂っていた。


「なぜ生産数がこれだけしかいかない!!ちゃんと女共は働いてるのか!」


部下の一人が声をだす。


「……全員に17時間労働をさせています。これ以上なら死人が出ます。」


「構うもんか。全員にプラス6時間働かせろ。だが金は無い。時給を50円下げろ。」


すぐに部下たちはその場を離れた。


矢沢はふかしていた葉巻をかじり押さえられない怒りを噛み締めていた。


「麻薬もコカインも売り上げが少ねえ。本職の縫製までこれじゃ世の中壊れちまうよ。」



……その時、社長室の電話が鳴り響く。


なぜ社長室に直接かかる。


秘書室で止まるはずなのに。


「もしもし……」


(矢沢社長……正義の味方ですけど)









「矢沢社長ですか。私正義の味方ですけど。」


(ふざけてんのかテメーは)


「お宅、また無茶苦茶な仕事ばかりしてますね。すいませんが悪は死ぬべきなんです。あなたに代わり新しい社長を立てようと思いましてね。そのために力技であんたをブタ箱へ入れようかと思いましてね。」 


(……誰だそれは)


「……言わなくてもわかってるはずだ。あんたと一番の悪友にて、一番の取引相手……」









矢沢は電話を切った。


「まさか……ミナガワか!?」


それしか考えられなかった。


大幅の投資をしてもらったがマトモに返せたことはない。


だがそれでも手を出されなかったのは組織力が上だったからだ。


あの野郎……殺してやる。


「リムジンを回せ!」









フリーマンは警備員を気絶させ、監視カメラを見ていた。


そこに一台の白いリムジンが通る。


「餌にひっかかったな。そのまま東口へ行け」








ガブリエルはSNSを確認した。


(白いリムジン 東口へ)


それを確認し、SNSを打ち返した。


(助かった 解放を頼む。)

 

東口付近に車を回すと、言われたリムジンが顔を見せる。


中を確認しようとしたが、やるまでもなく矢沢が外をキョロキョロと覗いている。


「おまえら二人とも墓場行きだ。」







矢沢はリムジン内で電話をかけようとした。


だがかからない。


部下と共にミナガワの会社へ乗り込もうとしたがこれじゃ分が悪すぎる。


運転者の電話も不通で「この役立たずが!」とフロントガラスへ投げつけた。






フリーマンはセリザワの家にあった、秘密兵器を叩き壊した。


「さすが特殊妨害電波装置。アマの無線や携帯にはもってこいだな。」


フリーマンは予めスタンバイしていた情報屋に指示を出した。


「中にいる中国人労働者を解放しろ。全員解放したら一人20万円のボーナスだ。」








ミナガワは自宅へいた。


仕事の方は部下たちやチェルシーがどうにかしてくれる。


ただエリコは自分の目で見たかった。


最後にたどり着く場所は間違いなくここだから。


エリコは妙に震え出すミナガワを警戒していた。


その時、部屋に仕込まれているベルが鳴り出す。


それは緊急の際鳴らすように部下たちに渡しておいた赤いスイッチだ。出所を確かめる。


「セリザワ……ガブリエルが家に帰ってきたのか?」


ミナガワはエリコを持っていたスタンガンで気絶させた。


「俺が直接殺してやる……覚悟しろガブリエル……田沼ヨシオ……」







マヤコは知り合いから銃を手に入れた。


死んだ父の為に兄が立ち上がった。命を投げ捨てて。


兄のお陰で大学へ行かせてもらった。


だが兄のいない人生に面白味はない。


「私も戦う。ガブリエルだけに辛い思いはさせない。」


知り合いの店主は口を開いた。


「ガブリエルはおまえさえ生きてればといつも言ってたぞ。」


……わかってる。自分が兄なら同じことを言う。だから兄を死なせない。二人で生きていく。


店主はその顔に覚悟を見いだした。


自分で決めたことだ。


「無茶するなやマーチン」


「ありがとうカグロウ」









ヨシオはセリザワを案内役にしルートアップの前にいた。


ついにやるときがきた。


「セリザワありがとう。もういい。後は俺だけでできる。」


セリザワはその声に離れていった。


ルートアップが見えなくなるとすぐに電話をかける。


「ボスですか?田沼ヨシオはルートアップを乗っとるつもりです。そしてボスとヤザワを殺そうとしています」










ルートアップの受付嬢二人に銃を向けた。


「野蛮なことはしない。ただちょっとの間眠っていてください。」


二人をスタンガンで眠らせた。


そして裏にあった倉庫に隠す。


受付を占領したヨシオは受付の下を探った。


「あった……」


その時、入り口前に白いリムジンが止まった。


「きたか……」








セリザワは焦っていた。


「あいつら、ヤザワも殺すつもりだったのか」


それは自分が殺されるよりも危険なことだった。


「うちの取引先は8割がヤザワの配下だ。それがうちの殺し屋に殺されたとなれば……」


セリザワにとって1億円はもうどうでもよかった。


どうにかヤザワの殺害を止めなければ。


そうか……占拠してるのは、田沼ヨシオだ。


セリザワは後部座席に横たわるエリコに目を向けた。


セリザワのその目に怯えるエリコ。























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