来る
「友達から聞いた話なんだけどさ……」
そう言って、Lは話し始めた。
「ソイツは、別の奴からその話を聞いたんだ。“話”ってのは大した内容じゃなくって、ただ“深夜二時、どこからともなく女の幽霊が現れて、それが段々近づいてきたかと思うと、ギュッ、と抱きしめられる”って話なんだ。……俺は聞いた時、バカバカしいって思ったよ。『たとえ幽霊でも、女に抱きしめてもらえるなんて最高じゃねぇか』なんつって、笑ってた。…………でもさ、それを聞いた日の深夜二時……俺、自分んちで寝てたんだけどさ。急に金縛りにあって目が覚めて……したら、本当にいたんだ。真っ暗な部屋の中に! 髪なのか服なのかわからないんだけど、とにかく真っ黒でさぁ……ゆっくり……俺を抱きしめたんだ。……これがもう、冷てぇのなんのって……! 全身の毛という毛が逆立って、それがパリパリに凍っちまうかと思った」
「……で。それを俺に聞かせると」
俺はそう言うと、Lを睨んだ。
「イヤ、ほんと申し訳ねぇんだけどもよ……あれはもう、二度と体験したくねぇ感じなんだわ……誰かに“この女”の体験談を話すと、その話聞いた奴んとこに行くらしい。……ほんと、ワリィな。こんど飯、奢っから!」
そう言うとLは俺を拝むように両手を合わせ、逃げるように去って行った。
*
「……っていう話なんだ」
「で。それを俺に聞かせると」
Mはそう言うと、俺を睨んだ。
「やめろよ! 俺がそう言うの苦手だっての、知ってるだろ! てかなんだよ! 話聞くだけで“くる”だなんて! ビデオ見たら呪われちゃうアレよりタチ悪いな!」
「別に殺されるわけじゃねぇんだ。ただ、抱きしめられるだけさ」
「そういう問題じゃねぇ!」
Mは吐き捨てるように言った。
「……てか、お前はそれさ……。聞いて……ソイツは、きたのかよ」
――俺は自分の顔が強張っているのを感じながらも、ゆっくりと頷いた。
「昨日の夜……」
「わぁー! わぁー! 聞きたくねぇー!」
「もう遅いぜ」
そう言うと俺は立ち上がり、Mの家を出た。
――腕時計に目をやると、深夜一時を回っていた。