恨み
そもそも雨野という名前を何故陶矢たちが知っているかといえば、雨野は陶矢たちの在席する武蔵原学園の元教師だからだ。そして何故彼は自分が教鞭を執っていた学校の生徒を襲撃したのかも、陶矢を始め大抵の生徒は察している。
雨野は去年までこの学校にいた。担当は物理学。頑健な体に生徒思いの情とユーモアを備えており、何より教育熱心で、生徒が助けを求めれば誰にも隔たりなく教える。そんな教師だった。
だが彼はある過ちを起こしてまう。とある女生徒と、関係をもってしまった。そして事が露見し、彼女と一緒に投身自殺を図り、失敗。女生徒は死んだが自分だけが生き残った。彼には妻も子もいたのだがその事件によって離婚されている。
その事件によって雨野は頭がおかしくなってしまった。事が露呈されたのはその女生徒が言いふらしたからで、雨野はそのことにかなり腹を立てているのではと推測された。だから女生徒ばかりを襲うのではないだろか。彼は自分の人生を奪った女生徒が憎かったのだろう。
しかし無差別な暴行を許容していい理由には全くならない。彼はもう、哀れだがたちの悪い犯罪者へと変化してしまった。もともと生徒から好かれている教師だったのでそのことを悲しむものも多かった。
陶矢にとっては、元教師の変貌と伴う暴行も、些細なことたった。人はどうして変わってしまうんだろうと彼は考えていた。授業は真面目に受けていた。前は面倒くさがって彼女の家で勉強を一緒にやる羽目になったものだが、今は勉強をすることが陶矢の心の支えになっている。もう三年の最後のときになって陶矢は勉学に務め出していた。
また雨野はくるかもしれない。女生徒はみんな痴漢用のスプレーを持って武装している。力を持たない彼女たちだ。女生徒の頭部に容赦なく凶器を振るう異常者に対し自己防衛するのは当たり前だった。
だが雨野は現れず、いつくるかわからない恐怖だけが残った。




