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悪魔の微笑  作者: 晴彦
2/7

亮と茉莉

 放課後、陶矢以外に数人が残っているだけのクラスに風見茉莉と一緒に現れたのは真柴亮だ。陶矢は複雑な顔つきで彼のクラスにやってきた二人を出迎えた。

「陶矢、誰が吹っ飛ばされたんだ?」

 亮は興味深々な様子で陶矢に迫ってくる。

「荒井だよ。荒井ミカ。ギャルな感じの」ブスだけどと心の中で思う。

「あの子ね。茉莉は知ってる?」亮が茉莉に尋ねた。

 ううん、と茉莉は下唇に人差し指を当てて目を上にやった。「裕子と仲いいからたまに話すけど、茉莉自身はあんまり親しくないかな」

 そっかあ、と亮はいい、再び陶矢に顔を向ける。

「で、今回も雨野は逃げおおせたと」

「まったく、警察は何してんだろうな」

「なるほどね」亮は右手を顎にやり、何かを考え込む仕草をする。

 陶矢はそろそろ帰ろうと思い、帰っても何をすればいいのだろうとふと考えた。それは純然たる恐怖だった。

「ま、陶矢は無事だったからよかったな」

 中学からの友人は屈託のない笑みを浮かべた。

 猛烈な嘔吐感。限界も近づいていた。

「まあな」

「陶矢なら大丈夫。その気になれば気配を完全に無くすことができるもの」

 茉莉の言葉に亮は頷く。

「そろそろ帰るよ。お前たちも帰れば?」

「そだな。帰ろっか」

 二人は頷きあい、じゃあねと言うと教室から去って行った。

 一緒に帰るかなどと誘いもしないんだな。ぼんやりと陶矢は思った。

 いつの間にか教室内には誰も残っていなく、陶矢一人だけが残されていた。

 狂人が再びここにきたら。ふと陶矢は胸の中で蠢く感情を逸らすためにかそんなことを思った。狂人がここにきたら自分はどう思う。彼の、雨野という男の心のうちはさっぱりわからないが、狂った人間の心理なんてきっと誰もわからないだろう。


 陶矢がいつもこんなに塞いでいるかというとそうでもない。陶矢はパンクロックが好きなのだが、それを聞いてくるときだけ高揚感が湧いてくる。自分は大丈夫。一人じゃないという思いが芽生える。曲が消えると、あの目を、茶色く輝く瞳を失ったことを思い出し、寒気がするのだが。

 ただの感傷だ。浸っているだけだ。わかっている。わかっているが、陶矢には無理だった。

 近くにいるのにな。曲を消して陶矢はため息をついた。今はすごく遠い。

 ──雨野、またくるだろうか?

 くるといいな。陶矢はそう思った。

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