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箱庭からの逃走


すみません。編集だけして、あげるのを忘れてました。

―不思議な夢を見ていた。懐かしい、そう思うのは何故だろう。思い出せない位小さな頃みたいに、穴だらけな夢なのに


「………どうして?」


。少女は瞳に膜をはりながらぼんやりと白い天井を眺めていた。





ここはリベア王国。かつて神が居たといわれている国である。


この国には鬱蒼と茂った森に囲まれる城があった。どこか幻想的な雰囲気の古くて美しい城が。


その城の執務室で豪奢なソファに身体を預けて眠る一人の少女がいた。彼女はここリベアの王族の一人である。

腰の辺りまで伸ばしたクセの強い金髪。顔は腕で隠されていてよくわからないが、上品な王族らしい雰囲気を持っていた。どうやら仕事の合間の仮眠をとっているようだ。机にはキリの良いところでストップしている大量の書類と資料が散乱している。


「……」



そんな少女を無感情に眺めている眼鏡かけた少女のように見える少年がいた。彼も王族の一人である。


切れ長の翡翠色の瞳に、桃色がかった茶髪を肩にかかる程度に伸ばしている。寝ている少女よりは弱いがクセのある髪だ。

無表情だがとても整った顔をしている。



「起きて下さい。ルミ」


「……」


見た目より幾分か低い声で静かに声をかける。その声には焦りが含まれている。

しかし聞こえるのは少女の寝息だけだ。


何度もそれを繰り返す。少年の声はだんだん苛ついてきていた。


「起きなさい!早く!」


ゆさゆさと身体を揺すりながら大きな声を出す。彼を知る人が見たら驚く程の声量だ。


「ん…ん~」


寝惚けているのか、嫌々と顔をしかめてうなる。


「ほら早く!」


更に揺する。


「わかったから…もうちょい静かに起こしてよ…ミミ」


のそのそと目を擦りながら身体を起こす。

さっきはわからなかった容貌が露になる。髪と同じ金色の大きな猫目が印象的だ。


ミミと呼ばれた少年とルミはどこか似た顔だちをしている。彼等は双子の兄妹なのだが、二卵性にしてはよく似ている。


「……んー」


唸りながら自分と似た顔を眺めているルミ。

それを見て、ミミは珍しいと思った。寝起きは良い筈の妹が寝惚けている。


「……なにかありましたか?」

「……別に。なんでもない。ちょっと疲れちゃっただけ」


心配そうな問いにまだ眠気を孕んだ声音で返事が返ってきた。

確かにルミの顔には疲労の色が出ている。よく見れば目の端に白い跡が出来ていた。が、それは見ないことにする。


「そう。ならいいのですが…」


ルミのやんわりとした拒絶に、ミミは対して少し悲しい気持ちになった。

片割れの悩みは自分には解らない事なのだろうとわかってはいる。いくら双子といえど所詮は他人。性別も違うのだ。けれど、やっぱり寂しいし悲しいし辛い。自分達の間に隠し事をされるなんて。わかってはいるけれど納得がいかないのだ。我ながら矛盾した感情だと呆れる。


そんなことよりも妹を起こさなければ。緩く首を振って気持ちを入れ替えると、ミミはふと思い付く。


「―――」


悪戯っぽく笑って、軽く指を振り何かを呟く。指先に小さな氷の粒が生まれる。それを摘まみ、ルミの襟の中へ入れた。


「ひょわっ!なになになになに!?冷た!」


一気に眼が覚めたのか、先ほどの眠たげな様子は欠片も見当たらない。


「~~っ!―――!」


ミミと同じように指を振り、何かを呟いて氷を服から出した。ルミはミミを恨めしげに睨み上げている。



ミミの声には若干の喜色が混ざっていた。


「覚めたわよ!!お陰様で!」


そんな珍しいミミの態度を不思議に思う。しかし問題の有りすぎる起こし方に文句の一つも言いたかった。



数分間怒っていたルミだが、急に真面目な顔つきになって問いかける。


「…で?どしたの?いつもなら仮眠中は起こさないのに」


ミミも楽しげな笑みを消して、話始めた。


「父上からの伝言がありまして…」

「伝言?なんなのよ…面倒臭い」


父からと聞いて途端にルミの表情が歪む。


「まあそう言わずに……。『明後日の昼より巡礼に行くことになった。今日明日は準備に当てろ』と」


ミミは神妙な声で言った。珍しいことに困惑の色がありありと見える。きっと彼もよくわからないのだろう。


「…マジで?」


低い声で言ったルミの短い言葉にも、やはり困惑の色が見える。


「マジです」

「うっわぁ…最悪ね。急過ぎよ。準備期間2日って。クソ親父め…何考えてんのかしら」


ルミは前髪を掴んで、父がついに可笑しくなったのかと少し疑う。


「…言い過ぎですよ」


ルミの言い分にやや間を置いてから、たしなめる。彼も少しは思う所が有るのかもしれない。


巡礼とは世界中七ヶ所に点在している神殿に赴き、そこで祝福を受けることである。

ここリベア王国では15歳になった王位継承者が、世界中の国を訪問することも意味している。

リベアには様々な風習が存在していて、巡礼もその内の一つなのだ。勿論王位継承者とはミミとルミだ。ちなみに継承権はミミが一位、ルミは三位である。



巡礼は長く過酷な旅になる。しかも王族。危険も多い。だから準備期間も一ヶ月以上かけるのが当然なのだ。いくらなんでも二日は時間が足りな過ぎる。


「あとこうも言われて…『この国から早く出ろ。何か不穏な動きがある。城の人間を信用するな。おそらく間者がいる』と。巡礼は逃がす口実に過ぎないのでしょうね」




その疑問にも伝言が答えてくれた。その事実にルミの柳眉が上がる。


「成る程。そういうことか。でもそれってアタシもなわけ?」

「…そうでしょうね。狙われているのは私達のようですから」


準備を急がないといけませんね、と呟いたその少女のような面には、感情の色は無く急いでいる様子は全く見受けられなかった。


「それにしても、護衛も無しとか……ふざけてんの?あんのクソ親父め…」

「仕方ありませんよ。予定が狂い過ぎていますから」


ミミは苦笑を漏らしながら、まあ当然かと思う。

そもそも巡礼は自分だけが行くものだったのだ。もう準備は始まっていて、予定は約一月後。

彼女が理不尽を感じるのも無理はないだろう。


「そりゃそうだけどー。信頼してる人もダメかな?」

「…やめておきましょう。無闇に危険を増やすこともありません。護衛は街で雇えばいいんですよ」


使用人や騎士達の中でも親しくしている人間はいるのだ。彼等に相談しよう。そんなルミの意見を否定する。

危険を増やすなどとは言ってはいるが、巻き込まないように、というのがミミの本音なのだろうとルミは思う。


「なら別に装備品と道具とお金だけでいいんじゃない?」


ルミは指をくるくると回しながら言った。


「何故ですか?」


ミミはよくわからないといった様子で聞き返す。


「へ?だって間者がいるんでしょ?チンタラ支度してる時間ないし誰も連れていけない。

だったらそれだけ持ってすぐにでも出発したほうが安全でしょ?」


と、察しの悪い片割れを意外に思いながら自分の意見を言う。

顔に出ないだけでけっこう動揺しているのだろうか。

それに、と付け加えて


「今は訓練の時間で人が少ないしね」

「…確かに貴女の言う通りですね」


ハッとしたような顔になったミミは肯定の意を示した。


「んじゃ、装備品とかとってこよ。終わったらアタシの部屋に。出口近いし。そしたらもう行こ」


立ち上がり出口へと向かう。


「…はい。了解しました。それと地味で動きやすい服に着替えないといけませんね」

同じく出口に向かうミミは自身の着用した服を、見下ろして溜め息混じりに呟いた。


「訓練用の服でいいっしょ」

「そうですね。あと金品に武器に…」


指折り必要な物を数えていく。


「ねー、食べ物は?」

「いりますか?」

「いるでしょ!」

「なら嵩張らない程度に、ですよ?」

「了解!」



◆◆◆◆◆



先程の会話から数十分後。二人はリベア城を囲む森の中にいた。

二人とも茂みの中で息を潜めている。


「そっちにいたか!?」

「いやいない!!」

「出てきて下さい!お二人とも!」


青い羽が刺繍された短い外套の騎士達が辺りを走り回っている。


「それで出てくる馬鹿が何処にいんだか…」



茂みの中で呆れた声で呟くルミ。


「そう言っては失礼ですよ?あの彼等なりに必死なんでしょうし…。そんなことより、どうします?」


それをたしなめるミミ。優しいようで、そんなこと呼ばわりである。

二人はなかなか手厳しかった。


「うーん……。引っかかってくれるかな?」

「何か秘策が?」

「こう、すんのよ」


ルミは傍に落ちていた手のひら大の石を数個拾うと、大きく振りかぶって投げた。


ガサガサッ!


「あっちにいたぞー!!」



森の中でも動けるよう軽鎧に身を包んだ騎士達は、叫びながら音のする方へ向かっていった。どうやら無事騙されてくれたようだ。


「行った?」

ルミは先程と同じくらいの石を持っている。


「おそらくは」


辺りを確認しつつ草影から出た双子は大きく安堵の息をつき、立ち上がった。


二人とも王族らしからぬ動きやすそうな格好をしている。上等な布地なので普通の旅人には見えないが。


ルミは袖の無い黒い服を着ている。肩からは灰褐色の外套を纏って身体を、頭に緑のターバンを巻いて鮮やかな金髪を、森から浮かないように隠している。腰には色違いの赤い布が巻かれていた。

手には厚手のグローブを着け、背中には杖を背負っている。


ミミは手首までを覆う黒い服と、ゆったりしたズボンを穿いている。外套は足まですっぽりと収まる長いものを着けていた。ふわふわの髪は、邪魔になるからと首の横で縛ってある。腰のホルダーには白い銃が四丁入っていた。


ミミは背中に、ルミは腰にそれぞれ袋を着けている。おそらく道具入れだろう。


「まず何処へ向かいますか?」


ミミは服に付着した汚れを払いながらルミに聞いた。


「んー。とりあえず国外に出ないとね。まずは早く森を抜けよ。んでそれから決めればいいじゃん」


と言った。要は考えてないのだろう。


「貴女は…。まったくど「いたぞー!!」…!行きましょう!」


さっきの騎士達が戻ってきたらしい。

ミミは逃げようと辺りを見渡す。しかし囲まれているのか、気配が全方位からした。これでは逃げられない。


ミミは腰のホルダーに手をかけた。


「ったく!メンドイ奴らー。たかだか十人位さっさと蹴散らすわよ!」


ルミもそれを見て悟ったのか、腰を落として臨戦体制をとる。


騎士達は何事か呟いていたが説得が無意味だと解ると、それぞれに武器をとった。

その瞬間に半数程のの騎士が倒れる。


「先手必勝です」


とミミのその場にそぐわない楽しげな声が響く。表情も満面の笑みを湛えている。


何をしたのだろうかと、騎士達は警戒を強めた。

彼の手には二丁の銃が握られていた。どうやら武器を構える数秒の間に撃ったようだ。


「アンタってホント容赦ないわ、ね!」

警戒を強めた騎士達。だが、守りの態勢に入るも、動揺を隠せない彼等の動きは遅い。その隙を逃さない手はない。ルミは笑いながら地を蹴った。


身を屈め一番手前の騎士の懐に入り、右拳で溝尾に一撃。よろめいたところで、更に回し蹴りをいれて隣の騎士もろとも吹き飛ばす。


「もらったぁ!」


強めの蹴りで、隙の生まれたルミの死角に入り込み、剣を振りかぶってきた騎士に反応が遅れる。


「やばっ」

「ルミっ!」


そう思って目を瞑る。だが予想した痛みは無く、変わりに剣が無機物に弾かれる高い音とミミの声が聴こえた。おそるおそる目を開けると、眼前の騎士の手に剣は無く、変わりに彼の籠手には不自然な凹みがあった。


「甘いんですよ貴女は。私を忘れないで下さいね?」


にっこり。そんな音が聞こえるくらい笑ったミミが言う。


ルミは驚きながらも騎士の顎を横に殴る。これでもう立てないだろう。


「助かった!」


言いながら他の騎士を殴り倒す。いつ移動したのだろう。けっこう離れているのに。ミミは暢気にもそう思った。


残りはあと一人。報告の為か逃げていたようで後ろ姿は小さい。


「草木で狙えませんね。どうしま「こーすんの、っと!」あら」


スッと構えた銃を降ろし、困り顔で訊ねるミミ。ルミは先程拾った石を投げた。

ガッ!と石が兜に当たる鈍い金属音が響く。騎士は前のめりになって倒れ伏した。


「……気絶したようです」「やったー!早く行こ行こ!」

「……もう。少し待ってて下さいね」

「はーい」


身体を動かしたからかルミのテンションは無駄に高い。

対してミミの声は暗かった。キョロキョロと辺りを見渡している。

少し経って警戒を解く。先に進もうとするルミを止めた。


「待って。彼等を拘束しな「もうやったわ」…早い。…なら行きましょう」


仕事の早さに内心舌を巻きながらルミを追って早足で歩き始めた。

もう薄暗い森の向こう側が見えていた。


追っては来ないらしく、もう森で騎士に遭遇することもなかった。


しばらく歩いて、森を抜けるとただただ広い草原が現れた。

爽やかな風が吹く。どうやら森は丘陵の上にあるらしかった。


「風が心地よいですね…」


ミミがポツリと呟く。


「確かに。ってあれ?」

「どうかしました?」


ルミの声が不自然に途切れる。訝しく思って彼女の顔を窺うが、よくわからない。


「なんでもな…!?ねえあれ!」


ひどく驚いた声で言って、走り出す。


「ちょっ、ルミ!?って…あれは!」


同じく驚いた声で走り出す。


「ねえ。ちょっとアンタ。大丈夫!?」


ルミの切羽詰まった声が聞こえる。彼女の横には見慣れない服装の少年がいた。彼の周りは真っ赤に染まっていて、もの凄い鉄の臭いがする。


「落ち着いてルミ。まだ息があります。貴女なら直せるはずだ」


ミミはあくまで冷静に、少年の首元に手をやった。

そしてパニックに陥った片割れを落ち着かせた。


「っ!うん。――――」


少し青い顔で、だがしっかりと頷く。何かを呟いた途端、ルミの手が輝きだす。

とても温かく優しい光だ。

その手を少年の傷口にそっとあてる。


ミミは服の上から判る程の傷に顔をしかめた。

こんな傷を治しているルミを心配そうに見る。


「……っはぁ。魔力、足んないかも。マズイわね」


ルミは大量の汗で濡れている顔を歪めて苦々しげに言った。


「私と貴女の魔力だけでは足りないんですね?」


その汗を拭ってあげてからルミの光る手に自らのを重ねる。


「うん。あと少しなんだけど」


思った以上に少年の傷は深刻だった。ただでさえ治癒魔法は魔力の消費が激しい。二人分では足りない。

どうすれば、そう思った時に


「あの!!どうしたんですか!?」




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