名の無い夢 1
良く晴れた空と雲のコントラストが美しい。
そんな空の下、木陰に腰掛けている幻想的な雰囲気の少年がいた。彼は長い銀髪に仄暗い夜のような色の瞳を持った、一見少女ような美しい容姿の少年だった。
疲れているのか少々眠たげな表情をしている。
「風が心地よいな」
ポツリと漏れた声は少年の発したとは思えないほど低く、威厳に満ちていたが、可憐な容姿にはおよそ似合わないものだった。
彼が木陰で風に目を細めていると、一際強い風が吹き彼の衣服を揺らした。
翻った灰色の外套の中には、胸元を覆う白地に青の羽をモチーフにした紋章の入った薄い軽鎧と、同じ色合いの金属製のブーツが見えた。腰には鎧と同じ模様の鞘に納まった剣と短刀があった。
誰の目から見ても仕立ての良いそれは、身分の高さを窺わせる。
全体的に白い物が多い彼は、自身の銀髪と相まって、白昼夢のように消えてしまいそうな印象を受ける。
ザアザアと木の葉が揺れる。その音に眠気を誘われたのか彼の頭は船を漕ぎ始めている。
彼が心地よいまどろみに浸っていると
「 さまぁ~」
ふと幼く愛らしい声が聞こえた。
「……?」
声の方へ気だるそうに目をやると、見事な鞍を付けた栗毛の馬が此方に走って来ていた。
「 さま ここにいたんですかぁ!」
「 様やっと…見つけ…ました…っ!」
そこに乗っていたのは、猫っ毛な金髪の幼い少女と、真っ直ぐな黒髪の少年だった。
黒髪の少年は慣れていないのか、たどたどしく馬を操り、後ろに少女を乗せて此方へと駆け寄ってきた。
「…お前達は必ず私を見つけてくれるのだな」
とまだ眠気を孕んだ声で少年が呟いた。どことなく嬉しそうな声音だ。
「なにかいいましたかぁ」
いつ馬から降りていたのだろうか。
首を傾げる金色の少女に
「いや、何でも無い。何かあったのか?」
と少し疑問に思いながら、黒色の子供に問うた。
「おきゃくさまだよぉ」
と金色の幼女が舌っ足らずの声で言った。
いまいちよくわからない。が、そうかと頭を撫でる。ふわりとした猫っ毛の触り心地が気持ち良かった。少女も気持ち良いのか猫のように目を閉じている。
何故か口元が汚れていたが気にしないでおこう。
「もうすぐお客様がいらっしゃるんですよ」
と黒色の少年が言った。どうやら自分も撫でて欲しいようで、羨ましそうに少女を見ている。
仕方ないと薄く笑って少年の真っ直ぐな髪を撫でてやる。幼女とはまた違う、さらりとした感触が気持ち良い。
少し顔を赤くしているが嬉しそうだ。気持ち良いのだろう。目を細めている。
「…ハッ!? ってこんなことしている場合じゃありません!お客様がみえるんです!急がないと!」
と我に帰った黒色の少年が叫ぶように言った。
「わすれてたよぉ!はやくはやくぅ」
そういえばそうだと二人が混乱し、辺りでわたわたと慌てている。
彼は苦笑しながら口元に指をあてると
ピイイィィィ
と高らかに音を鳴らせた。
「行くぞ。お前達」
と言って木陰から出て、樹の無い開けた場所に向かって行った。
そこにはとてつもなく大きな鳥がいた。鞍が付いているのでおそらくはこれに乗って来たのだろう。
「うわぁ~!すご~いがるーらだぁ」
少女が興奮しながら言った。
「でも、僕たちには馬が…」
と少年が戸惑っている。
「離しておけばよい。あれは賢い。自力で戻れるだろう」
と言って三人が乗れるように鞍を整え始めた。
◆◆◆◆◆
「うわぁ。たかいぃ」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!速いぃぃぃぃぃぃ!!!!!死ぬぅぅぅぅ!!!!!?」
「城まで全力で頼む」
「まだ速くなるんですかぁぁぁぁ!!!!!?いやぁぁぁぁぁ!!!!!!」
黒色の少年の悲鳴と、さりげなく無理を言う自分の主人に呆れながら、ガルーラは城へと羽を動かした。
美しい神がいたと言われる、白銀の城へと。
晴れ渡る空に少年の悲鳴と、力強く羽ばたく翼の音が響いていた。
三人称の方が楽だった。これはどうなんだろ…