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明け方の出来事


お久しぶりです。



気付くと、先の見えない暗闇が広がっていた。そこに私はいた。……いや、いないのかもしれない。ただ私の意識はそこにあった、わかるのはそれだけ。


自分の姿も見えない。もしかしたら自分の身体は無いのかもしれない。そんなくだらない事を思う。

ただ無限に広がる暗闇が恐くて目をキツく閉じた。けど、見える景色は変わらなかった。


少し経って、一瞬だけ瞼の外が真っ赤に染まり、また暗くなった。

恐る恐る目を開くと闇は無く、そこは知らない場所だった

目を疑う。信じたく無かった



これは夢、絶対に夢だ、そうに違いない

でなきゃ私は――



黒い空、死んだ大地、狂った人々の瞳

すべてが異常だった


辺りには死体がごろごろ転がっている。真新しいのも、腐っているのも、白骨化したのも。


人々はそれをゴミのように踏みつけ、蹴り飛ばす。四肢は吹き飛び、膓が飛び散って、死んだ大地を更に汚した。

死体から衣服を剥ぎ取っている浮浪者や、女達を押さえつけ無理矢理性交をする者、果てには殺し合いをする者までいた。


あの子が呟いた。なんて醜いのだろうと。



どこからか首が飛んで来て、私を空虚な黒い穴が見つめる。

それに私は怯え、あの人の足にしがみつく。目を閉じてしまいたかった。でも、反らすことも出来なくて。

堪えきれない恐怖に嗚咽が漏れる。あの人が優しく私の頭を自らの足に押し付けた。黒い穴だけが私の視界から消えた。


私の声に気付いた人間達は、口々にあの人へ批難の声を浴びせかけた。罵声、文明の名残であろう白い石、泥のような汚い何か、死体、様々なものが投げ付けられる。


―怖い


あの人は貴方達を守ったはずなのに、元々は人間がやったことなのに。


―怖いよ、助けて


全てを押し付けて被害者なのだと嘆く。なんて気持ち悪いんだろう人間は


―酷い吐き気がする


人間なんて、すべて消えてしまえばいいんだ!


死ね消えろ死ね消えてしまえ死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死


―やめて頭が割れる!!


自分の中から響く呪詛の声で狂ってしまいそうだ


反射的に耳を塞いだ。それでも消えなくて、首を必死に振り回した

景色は切り替わり、真っ暗な部屋と、むせかえるような鉄の臭いに包まれた部屋に移った


しかしそれは一瞬で認識した時には、夢はもう終わっていた




「―――っ!?」


飛び起きたルミの視界に、見慣れない壁紙と家具のぼやけた輪郭が薄暗く広がった。

息は荒々しく、金色の髪は顔や首にべったりと張り付いている。


「…何よ?なんなのよあれ…」


幼く可愛らしい声で発せられた不気味な呪詛の羅列を思い出し、ルミは怯えたように呟いた。

自分自身を抱き締めるように両腕を掴み、俯く。僅かに肩が震えていた。

膝を立てて丸くなり、胎児のような姿勢になって、荒い息を整え始めた。


「……ぅん…」


不意に聞き慣れた掠れた声がした。大袈裟にルミの肩が跳ねる。


「…」


ルミが起き上がったことで毛布がずれてしまったからか、ミミが寒そうに身体をよじっていた。眉間には少しばかり皺がよっている。

それを見て慌てて毛布をかけた。


そしてひんやりとした部屋の温度で、まだ夜も明けないような時刻だと気付く。思考に余裕が戻ってきたようだ。


毛布をかけたことで、穏やかな表情になったミミの頭に手を伸ばしふわふわの髪を梳くようにして撫でる。撫でながら、自分と似て非なる片割れの顔をじっと眺めていた。

穏やかな空気に安心したのか、いつの間にか震えは消えていた。


しばらく経ち、名残惜しげに髪を一梳きして、ベッドから這い出た。

何かを探すように室内を見渡す。肩が震えていた。

目当ての物を見つけ、床で寝ている二人に気を配りながら壁際へと歩く。


「……リンクごめん、これ借りるね」


独り言のように謝罪を呟く。

部屋にあった―おそらくリンクのだろう―薄手の上着を身に纏って部屋を後にした。



said-R



――さっぶ!ちょっ!?寒すぎだっての!やっぱし薄着過ぎた?

てかグリューンって山だか丘の上だったよーな…?…うん、寒くて当たり前か


納得しかけたところでふと思い付く。


…魔法使えば問題ないよね…?


「……」


自分の馬鹿さ加減にちょっと悲しくなった


「ぅぅ……」




……どこに行こうかな。

寒さを感じなくなったところで、行き先を考える。

気分転換しに外に出たのはいいけど、グリューンの地理なんか全く知らない訳で。

何をしたいんだろうか私は。無謀にもほどがあるってものだ。

ここはどこなのだろう。薄暗いしなんか霧が出てるし……よくわからない。


とりあえず灯りを確保しよう。周りを照らせるくらいの小さな火を掌に出した。

明るくなった視界で辺りをキョロキョロと見渡す。


霧が濃くて苦労したけど、わかったことは孤児院が少し人里から離れていることと、周りが…だったはずと森に囲まれてることくらいだ。あとなんか臭う。何だろう?あんまり良い匂いじゃ、てか臭い。


周りを見ながら、でも少し俯きがちに歩く私の横を、湿った風が通り抜けた。温度はわからないが、ねっとりと肌に絡み付く風の不快さに背筋が粟立つ。


感じないはずの寒さを感じて、途端に恐くなった。逃げるように空を見上げる。そしてそのまま動けなくなった。


まだ暗いけど、グリューンの空は広く澄んでいた。城から見る狭い空でも、夢の中の黒い空でも無くて。視界に入りきらないくらい大きな雲にうっすらとグラデーションがかかっていて。

それは今まで見たどんな空よりも綺麗だった。脳裏に焼き付くほどに印象的で。きっと一生忘れない、いや忘れられないだろう。

何故か、空がぼやけた。



しばらく経って見るのを止めた。凝った首を回して、目頭を乱暴に擦って歩き始める。

行き先は丘の天辺に決めた。よくはわからないけど何か呼ばれるような感じがしたから。

さっきとは違い前を向いて歩く。

風はもう乾き始めていた。




しばらく…十分くらいか、歩くと丘の天辺に出た。かなり明るくなってきている。

丘の上で遮るものが無いから、なおさらそう感じるらしい。

もう必要は無いだろう、掌の小さな火を握り潰すように消した。


丘の上には木々は無く、少し濡れた膝くらいまでの短めの草むらがあるだけだった。チクチクと少しくすぐったい。


少し歩くとぽつんと一本だけ木が生えていた。とても大きな木だ。一人二人では両手を使っても囲い切れない程太い幹。無数に分かれた枝。リベア城周辺の森の木とは比べ物にならない。きっと私には想像も出来ない年数を生きているのだろう。

フラリと引寄せられるようにその木に近づく。

根本に着くと、地面を蹴って大きく跳ねた。太く丈夫そうな枝に掴まって一回転。我ながら見事だと思う着地をして座り、前を向いた。


「……!」


高くなった視点から観る景色は、言葉では言い表せないほどに衝撃的だった。


家も森も全てが朱に染まっていた。人々も動物もなにもかも。さっきの雲は桃色になり水色と橙色の空によく映えていて、地上とはまた違う美しい色彩をしていた。

少しずつ山陰から太陽が見え始める。だんだんと明るくなる里は活気に満ちていて、安心する。


その光景に何か胸に込み上げて来るものがあった。嬉しいような、哀しいような。

風を感じたくて魔法を切った。いくら日が出ているといってもやっぱり寒い。ちょっぴり後悔した。


「……寒っ」


肩の力を抜いて、冷たい空気を肺いっぱいに吸い込み、吐きだす。それを何度か繰り返した。

そしてもう一度息を大きく吸い込み、歌い出した。

旋律だけの歌詞の無い歌を。正確には私が歌詞を覚えていないだけだけど。遠い昔、誰かに歌ってもらった子守歌を。


何度も繰り返し歌う。声を出すことで、一緒に何かを吐き出したかった。表したかったから。

後ろから冷たい風が吹き、体温と歌を奪っていった。


side-?



……おーい!ルミってばー!!」

「――っ!?なに!?」


いきなり聞こえた大声にルミの肩が跳ね、歌が止まる。


「誰だっつの…もー」


ルミは憮然とした顔になって、不粋な輩を確かめるべく下を向いた。

そこにいたのは見慣れない杖をついたクロトだった。何故か二枚も外套を羽織っている。少し暑そうだ。


「……!クロト!歩いちゃダメだってばー!!」


クロトは、ルミが一から治す始めての患者である。もう城のあれこれといらない口を挟む煩わしい教師達も、優しく注意してくれる幼馴染みもいない。

だから出来るだけイレギュラーな行動は控えて欲しかった。


「え?……あ」


すっかり忘れていたらしい。


「…まあいいか。ねぇ、木の根元まで来てくんない?」

「へ?」

「いいから来て!」


クロトの顔が困惑で歪む。自分でも相当矛盾した発言だとは思ったが、自分の見ている景色を誰かと共有したかった。

クロトは戸惑いながらも素直に歩いていき、ルミの視界から消えた。


「着いたぞー!」


クロトの声が真下から聴こえる。ルミは枝にしっかり捕まって逆さまになった。髪と上着がだらんと垂れて、頭に鈍い重みを感じる。


「……って危ねーぞ!?何してんだよ!?」

「大丈夫よ?別に」

クロトは本気で心配しているようだ。事も無げに返すルミの声色は少し嬉しそうでもあった。


「…ならいいか」

「ん?なんか言った?」


クロトの口元が動いたように見えたので聞き返す。


「なんでもねー!てか、こっからどーすんだよ?」

「え?んーと…そっからジャンプしなさーい」

「出来るわけねーだろ!?」


クロトの問いかけに無茶を言うルミ。クロトの反応は当然のことだろう。


「大丈夫だから!」


胸を張って言うルミ。何故か妙に説得力がある。


「……嘘だったら恨むからな!」


クロトは覚悟を決めて、勢いよく地面を蹴った。まあ片足なので大した跳躍でもなかったが。

来るであろう衝撃に目を瞑る。

しかしそれは無く、身体が地面に着く前に、クロトは自身の身体が謎の浮遊感に包まれるのを感じた。


「ん?……ぅええ!?」


おそるおそる目を開けた。さっきより視点が高い。下を見ると自分の足は未だに地面から離れていた。というよりかだんだんと地面が離れていく。


「クロトー上、上!」

「へっ!?」


戸惑っているところに簡潔な指示が入り反射的に上を向く。人間焦っている時は意外と素直なものである。


ルミは先程の体勢のままクロトに手を伸ばしていた。おそるおそるその手を取ると、物凄い力で引き上げられた。


「ぃよっとー!」

「おわっ!?」


見た目からは考えられない力で、自身とクロトを枝に乗せた。凄い腹筋である。


「ふう…。足は大丈夫?痛くない?」


少しふらつく頭を撫でながら、クロトに訊ねる。細心の注意を払った筈だが、もしもという事もある。


「……」

「クロト?」


反応が無い。覗き見ると、大口を開けたかなり間抜けな表情をしている。


「……」

「ねえってば!」

「……あ、悪い…」

「どうしたの?……あ!もしかして痛かった?…だったらごめん」


ルミの表情が不安そうに陰った。それにクロトは慌てる。


「ちげーから!その、なんか感動してさ…。足も平気だ」「そうなの?ならいいんだけど…。

まあ、確かに初めて浮かぶのって感動するよね。わかるよ」


うんうんと腕を組んで頷くルミ。なかなか親父臭い仕草だ。


「ホント凄かった……」

「そんなに凄い?」


先程の間抜け面は欠片も無く、クロトの表情は子供のように爛々と輝いていた。その様子にルミは懐かしそうに笑って訊ねる。


「ああ!超スゲーよ!!なあ、あれって俺も出来るようになる?」

「わっ!?ちょ、近いって」


期待に染まる瞳でルミに詰め寄るクロト。ルミは少々押され気味だ。とりあえず肩を掴んで押し返す。


「あ、ごめん。でもどうなんだ?」


少し落ち着いてきたらしく、大人しくルミから離れた。それでも瞳がルミの返答を急かしている。

その待ちきれないといった様子が、城で見た犬という生き物によく似ているな、とルミは頭の端でぼんやりと思った。


「んーそうねぇ……結論から言えば出来ると思う」

「マジで!?」


クロトの声が弾む。


「あくまで結論よ。多分努力次第だと思う。アンタの潜在能力はそれなりに高いし」


すぐさま釘を刺すような言葉が飛ぶ。

ならば何故結論から言ったのだろう。ルミは自分の発言を少し後悔した。


「…ってことは空飛ぶのはけっこう難しいのか?」


クロトの頭には努力次第という言葉が色濃く残ったらしい。弾んだ声色が萎んでいった。


「らしいよ?アタシにはよくわかんないけど」


対するルミの声は軽い。


「なんでだ?」

「んー天才だからじゃない?」


さらりと自慢ともとれる事を世間話のように言う。


「自分で言うか?普通」返すクロトは呆れ顔だ。


「事実だからいーのよ」


ルミにとって自身が天才であることは当たり前の事なのだろう。クロトは溜め息をついた。後で真偽をミミに訊ねようと胸に誓って。


「…てーっと、つまりルミにとって空を飛ぶことは簡単で難易度がわからない、ってこと?」

「そういうこと。それに空を飛ぶこと自体は工夫次第でなんとかなんのよ。脅すみたいに言って悪かったわ」


と言ってクロトの顔色を窺う。


「へー。んじゃなんであんな言い方したんだ?」


全く気にしていないようだ。よかった。


「さっきのみたいな物質を掴む…っじゃない、ただ浮かばすことが難しいのよ。アンタはあれが出来るようになるかって訊いたから。簡単なのはねー、んと……、例えば風を起こしてそれに乗るとか。これも立派な空を飛ぶ、でしょ?」


クロトにも、というより魔法の感覚を知らない者にも解るように言葉を選んで話す。

自分の考えを解りやすく、伝えるのは存外骨が折れることだということをルミは初めて感じた。


「成る程。なんとなくだけどわかった」


クロトは少し申し訳なさそうに頷く。


「今はそれでいいのよ。始めから全部理解出来る奴なんていないし。アンタがわかんない事は、また追々解るようになるから」

「…そっか。ありがとな」

「それは何に対するお礼なの?」ルミにはその言葉の真意はわからない。


「んー…なんだろーなー」


クロト自身もわかっていないらしい。

言い方はともかく声のトーンが沈み気味だ。


「……そう」


適当に相槌を打って周りを見る。

空気が、というかクロトの纏う空気が重くなったのを右側の肌が感じる。


「ねえ、それ何?」

「…どれだ?」

「それよそれ」


視界に入ったクロトの握っているそれ―杖―を指差す。

少し無理のある話の反らし方だっただろうか。ルミは不安になる。


「これは孤児院出るときにセツカさんに会ってさ、歩きにくそうだからって貸して貰ったんだ」


クロトは説明している間に沈み気味だった声が元に戻る。

おそらくルミの気遣いを察したのだろう。


「見せてー」

「ん、ほれ」


手を伸ばし、クロトから木製の年季の入った杖を受け取った。

杖は先の部分に、少し色の付いた透明の球体が木に覆われるように入っている。それ以外には見た目は特に変わったところの無い物だ。


「これって……」「何かあるのか?」


ルミが驚いたような声をあげる。


「うん。この杖は、すごく貴重な物だと思う。多分だけど、癒しの杖じゃないかな」

「癒しの杖!?」


いきなりRPGの武器のような単語が出た。クロトはルミの想像意上の食い付きを見せる。


――なんというか喜怒哀楽が激しいっていうか、よく分かんない奴ね


「い、癒しの杖ってのは無属性の神殿の中で祝福を受けた水に、長い間漬け込む事で出来る杖のことよ。名前の通り治癒の力を帯びていて、持ち主の治癒力を上げてくれるの。アタシも持ってるよ」


ルミの多少引き気味になりながらの説明は、クロトにはよくわからなかったらしく、首を捻っていた。だろうな、とルミは感じた。


「無属性の神殿ってなんだ?」


ルミはやっぱりそこかと思いながら用意していた答えを言う。


「それはアタシ達の旅の目的の一つでもあるから、ミミに聞いてくれると助かるわ。正直、上手く説明出来そうにも無いしね」

「…わかった」

納得いかなそうな表情を浮かべながら渋々とクロトは頷く。


「んじゃこれ、返すね」

「あ、ああ…。なんか説明聞いた後だと、俺なんかが持っていいのかわかんねーな。緊張する」

「バーカ。あくまで仮説だっつの。まあ貴重な物なのは本当だけどさ」

「フォローになってねーよ!?」


杖を両手で受け取ってガチガチになったクロトに笑いながら付け加える。逆効果のようだ。


「ごめんごめん」


更に固くなったクロトにとうとう笑いが抑えきれなりそうだ。


「…笑うなよ」


無理だった。肩が隠しきれないくらい震える。身体を丸めて声を押し殺すように笑い続ける。


「ごめ…む…りだってば。アハハハ!」

ルミの笑い声が辺りに響き渡る。クロトも諦めたのか吊られるように笑った。



更新停滞の理由


・携帯の故障

・テスト期間

・アイデア不足

・とあるジャンルに大ハマり


駄目だこりゃ…


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