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孤児院にて 2



騒がしい食事を終えた俺達はさっきの部屋―リンクの部屋だったらしい―で各々寛いでいた。俺は部屋に敷かれた一組の布団に座っている。


「ん〜、美味しかったー。初めてあんな大勢で食べたけど楽しいもんねー」


部屋に一つしかないベッドの上で伸びをしながらルミが言う。食事中の事を思い出しているらしく満面の笑みを浮かべていた。


確かに沢山いたなぁ子供達。リンクに聞いたら20人位らしい。


「ええ。大勢での食事は賑やかで楽しかったですね。でもルミ、貴女は食べ過ぎです。遠慮というものを知りなさい。」


俺と向かい合いベッドに寄りかかって座っているミミが、軽くルミをたしなめた。

…当然だと思う。


「その身体のどこに入ってんだよ…あの量が」


ルミは一人で軽く二十人前は食べていた。

ミミ曰く、個人差は有れど魔法を使うと睡眠や食欲が増すらしい。要するに疲れるってことだよな。アレスさんも言ってたし。

ミミとリンクはそれが薄いみたいだったけど。


「治癒術士は比較的疲れやすい人が多いのよ。私もその一人ってわけ。まあミミは違うんだけど」


ミミの言葉を無視してルミが言った。

おーい、ミミが睨んでんぞー。


「なるほどー。って、ん?じゃあミミも治癒術使えんの?」


やっぱ双子だから使える魔法も似るのか?

治癒術を使える人は珍しいようだからけっこう凄いことだと思う。


「はい。ですがルミ程強力なものではありません。せいぜい軽い怪我を治せたり補助魔法を使えたりする程度ですね」


やっぱルミってスゲーのか。俺の怪我ほとんど治しちまったし。アレスさんもこればかりは才能だって言ってたしな。


「あーっと、あれね。攻撃魔法を使う人もけっこう疲れやすいみたいね」


人差し指をくるくる回したルミが他人事のように言う。視線はあらぬ方向を向いていた。どうやらミミに誉められて照れているようだ。髪の間から見える耳が赤い。


攻撃魔法か…。沢山魔力を持ってる人しかなれないんだろーな。


「へー。そうなんだなー」


と感心した声を上げた俺の方に、くるくる回していた指を止めたルミが


「ってコレ、常識よ?常識。便利だからってバンバン使っちゃ駄目なの。そんなことで倒れても恥かくだけよ?」


いい?と言って指を回すのを再開するルミ。癖だろうか。


どうやらこの世界では魔法は、俺達の世界の電気みたいに一般的なもののようだ。


俺も攻撃魔法使いたいな。やっぱし一度は憧れるだろ。



「常識……。クロトさん。クロトさんは魔法には大きく分けて二つの種類があるのをご存知ですか?」


魔法を使う自分を想像していたら、首を傾げてミミが問いかけてきた。


二つ…。一つはたぶんアレスさんのとこで使った感じのだよな。もう一つって…駄目だ。わからん。

うんうん唸っている俺を見かねてルミが口を開いた。


「…一つは魔力を集中させて行う魔法。日常的に使われるものから戦闘まで、様々な種類と発動の仕方があるわね。

もう一つは大量の魔力と材料で巨大な術式を書いて行う大規模魔法。ま、対した違いは本当は無いんだけど一般的には分けて教えてもらうの。」



おお、なかなか解りやすい説明だ。

どうやら俺の使った魔法は前者だったみたいだ。


「大規模魔法って?」

なんなんだろ。かなり気になるので聞いてみることにした。


「大規模魔法ですか?えと…、例えば、貴方はこちらの世界に来てしまったでしょう?そのように対象物を離れた所に移動させる魔法があるんです。転移魔法といいますが…。それは大規模魔法の一つですね。」


いい例えが浮かばなかったらしく少し悩んでから言った。


転移魔法か。テレポートみたいな感じか?

ん?俺が来たようにって…。


「…!その転移魔法って奴を使えば元の世界に帰れるのか!?」


思わず身を乗り出してミミの細い肩を掴んだ。


「わっ!?え?あ…確かに…!でも確証は持てませんよ?」


どうやら気付いて無かったようだ。かなり吃驚している。…俺が肩掴んでるから余計かもしれないけど。


「…ですが、転移魔法の記された術式、そうですね、…転移術式を見つけることが、目的への一番の近道と言えますね」


がんばりましょうね。そう言ってミミが微笑んだ。


にしても希望が見えてきた…。転移術式かー。図書館とかの蔵書にあんのかな…。


「……盛り上がってるとこ悪いけどさ、クロト。」


ルミが釘を刺すように言ってきた。

なぜかちょっと恨めしげに俺を見ている。


「何?」


「術式のことで喜ぶのは解るけど。アンタが知らなきゃいけないのは戦いから身を守る術よ。喜ぶ前に知識を身に着けなさい!」


ビシッ!と俺の方に身を乗り出して、指を指してくるルミ。しっかりとベッドの端を掴んでバランスをとっているところが抜け目無い。


「ああ。わかってるよ」


返事をしながらも自然と顔が緩む。

なんだかんだ言って俺のことを心配してくれている。良い奴だな、本当。


「ま、まあホントにわかってんならいいんだけど…」


俺の考えてることを察したのか顔を赤くし、そっぽを向いてしまった。そのまま乗り出した身体を起こそうと腕に力をいれた。

だがそれが悪かったらしい。ぐらりとルミの身体が傾いた。


―勿論、俺の方に。




「わっ!」「ちょっ、えっ!?」「危な―」



俺は咄嗟に近くの物に腕を回してキツく目を瞑った。



ドサドサッ!と大きな音が響いた。仰向けに倒れた俺の視界に、鮮やかな金色と薄く汚れた天井が広がった。


「いったー…」


と、呻くルミ。俺の目の前に顔がある。もう少し近かったらキスしてたかもしれない。

……少し残念だと思ったのは気のせいだろう…多分。



「ルミ…。近いんだが」


「あ、ごめん!重かったっしょ。すぐ退くから。」



と言って退いたルミ。

異性とあんなに近かったのにルミには照れも恥じらいも無かった。

お嬢様とかそれ以前に女子としてどうなんだそれは…。


「大丈夫かー?ルミ」


「アタシは大丈夫だけど…。アンタさっさとミミ離してあげなよ。けっこうマズイ光景だしさー」


ルミが声色こそ軽いが少し低い声で言った。

「は?」


言われたことがわからず間抜けな声を上げた俺。

ルミが退いたはずなのに身体に何か乗っている。


そういえば咄嗟になんか抱き締めたような…。あれ?さっきミミの肩を掴んだままだったよな?俺って。


首だけ上げて腕に抱いているものを見る。案の定ミミだった。しかも俺がしっかりと腰回りと肩をホールドしてしまっている。確かに端から見たらマズイ光景だ。

あ、目が合った。


「き、気付いたのなら早く離してください…。うぅ…痛い…」


何処か痛むのか、眼鏡越しの眼にはうっすらと膜が張っていた。


…なんかいろいろヤバイような気がするのは気のせいだろうか。


「い、今退くから!!!!」


パッとミミから手を離す。テンパってて言っていることがおかしくなっているようだ。


「いや…。退けないでしょーよ」


はい…ごもっともでございます。


自分のアホな発言に呆れながら、ミミをどかすために右手でミミの肩に手を置いた。



「ねえ!さっきの音何!?何かあったの……って、あ、そのぉ、お邪魔だったかな…?」



けたたましい足音とともに、もの凄い勢いでドアが開いたと思ったら、大層慌てた様子のリンクが入って来た。そして部屋を見わたしたリンクが気まずそうに俺から眼をそらした。


ってちょっと待て。


「誤解だからね!?これ事故だから!!なあルミ!…眼ェそらすなぁーーー!」



数分後


「…そうなの?誤解かー。あぁびっくりした」


必死に事情を説明した俺。

こっちの世界に来た時よりも取り乱した気がするぜ…!


心底驚いたといった感じで目を丸くするリンク。実に遺憾だ。


「ま、まあ誤解が解けて何よりです…」


苦笑しながら言うミミ。先ほどから目を合わせてくれないのは気のせいだと信じたい。


「ねえクロト?いくらアタシのミミが可愛いからってさー。アタシの目の前で手ぇ出すのは関心しないなぁ。次やったらブチのめすから覚悟なさい。ね?」


素晴らしく良い笑顔を浮かべているルミ。ね?の強調が超恐いです…。


「…りょーかいでございます!あのさ、ミミごめんな?野郎なんかに抱き締められて。それにどっか痛くないか?」


どう謝っていいかわからない。

しかしとりあえず言えることはルミの視線が刺さりそうなことだろう。


「いえ…。大丈夫です。クロトさんもその…重かったですよね?足とか大丈夫ですか?」


と、心配そうに足を見る 。そういえば足、折れてたんだっけか。


「ああ、痛くないぞ?気付かなかったくらいだし。」


「そうですか…。それはよかった」


へらへら笑って足を指す。ミミはホッとしたような笑みを浮かべた。

辺りにほのぼのとした空気が漂う。よかったー、怒ってなくて。


「でもあれって端から見たら犯罪だよね~」

リンクが楽しそうな声音で言った。


「……蒸し返さないでくれ、リンクさんよ」

そう言った俺の声は自分でも吃驚するくらい悲しそうだった。


「ごめんごめん。ところで何を話していたのかな?」


軽く笑ってリンクが話を変える。どうやら俺をからかっていただけのようだ。


「魔法の話よ。」


ルミが短く返した。


「ああ、属性とかのこと?」


「はい、クロトさんには覚えていただくことも多いですし、まずは魔法の基礎知識からですね」


ミミが明日の予定を言うみたいに淡々と答える。


「ふーん。なら僕も一緒にやっていい?基礎とかわかんないし」


「構いませんよ。貴方と勉学を共にするのも楽しそうですし。」

一緒にと言ったリンクにあっさりとミミは頷いた。人にものを教えるのが好きなのかもしれない。


「意外ね〜。リンクって頭良いと思ってたのに。基礎も知らないって。」


ルミが少し目を大きくして言った。俺もそう思う。


「魔法は見よう見まねで魔物を倒せるくらいは使えたからね。あんまり支障は無かったかな。それに孤児院じゃ十分な教育を受けるのって難しいし」


リンクが頬を掻きながら苦笑した。


やっぱり十分な教育って難しいんだな。馴染みが無くてよくわかんないけど。


「そうなんですか?それは凄いですね。だとしたら貴方の潜在的な力はとても大きいのかもしれません。」


ミミはどことなく羨ましそうに言った。

まあ見よう見まねで使えるのって凄い才能だよな。


「確かにねー。それに丁度いーんじゃない?今覚えてあんたが子供達に教えれば」


ルミも驚いていたが、優しく笑ってリンクに提案した。


「…そうだね。そうさせてもらおっかな」


リンクもやっぱり優しく笑ってルミに返す。

やっぱり美人だよなー二人とも。時たま見える残念さがそれをわかりにくくしてるけど。


「なら始めましょうか。まずは―



皆さんミミさんのことは女性として扱っているので、ときどきミミさんの三人称が彼女とかになるけど気にしないで下さい。

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