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孤児院にて 1


難産でした。いろいろと

「ご飯だよー!」


リンクの声が階下から聞こえる。

元気な返事とともに慌ただしく階段を降りていく複数の足音が響いた。


ここはリベア孤児院。リンクがグリューンに来るなら泊まっていけと言ったので、俺達はお言葉に甘えることになったのだ。


現在、俺達は洗濯物を畳んでいる。ただで泊めてもらうのは悪いので何か手伝わせて欲しい、と言ったのはミミだった。


「意外に上手いな、二人とも」

「このくらいは出来ないととマズイでしょう?」

「流石にこのくらいはねー」


ミミもルミもなかなか手際が良い。お嬢様にそんなこと出来るのかと疑問に思ったがいらぬ心配だったようだ。


「血塗れのお兄ちゃん達ー、ご飯だよー!」

「今行くー!」


階下から元気一杯といった子供の声がした。

そしてルミが子供に負けないくらいに元気に返事をして部屋を飛び出していった。そのとき開いたドアの隙間から美味しそうな匂いが漂ってきて、空腹感が更に増した気がする。夕食が楽しみだ。


ちなみに血塗れの~とは、リンクを除く俺達三人ともが血塗れだったからだ。勿論俺の血で。孤児院に到着して、今思うと微妙に青ざめていた子供達に握手を求めたら泣いて拒否られたことは記憶に新しい。


特に俺なんか顔が血と泥でぐちゃぐちゃで顔立ちがよくわからなかったらしい。

我ながらそれは怖い。ホラー以外のなにものでもねーよ。出来れば言って欲しかった。

三人を恨めしげに睨んでしまった俺は悪くないと思う。





その後、リンクに身ぐるみを剥がされて浴槽もシャワーも無い水浴び場みたいな風呂に放り込まれた。


カピカピに乾いた血と泥を洗い流し終わり、リンクが置いてくれていたらしい吸水性の良さそうな布で水気を取って孤児院へと入った。入れ替わりにミミとルミも放り込まれてたけど。


まあそれはおいといて、俺は今リンクの服を借りている。ベージュのチュニック(のようなもの)と同系色のズボン。少しごわついた麻のような感触だ。丈はピッタリなのに上は袖、下は裾が余っている。

…屈辱だ。リンクとは身長はともかく体格は似たり寄ったりのはずなのに。足長すぎじゃね?


服といえば…俺の制服は大丈夫だろうか?リンクに身ぐるみを剥がされてそのままだから気になる。

洗うと言っていたが……水洗いな事を祈ろう。



風呂から帰還した双子も旅のしやすそうな上物の服は俺と似たような服に変わっていた。


「クロトさん行きますよ?」


観察という名の現実逃避で動かなかった俺を、不思議そうに見下ろすミミ。

何かを小声で呟いてから俺に手を差し出してきた。


「―――」


「あ、ありがと…っておおお!?」


掴んだ瞬間、左足に軽い圧迫感。そして後ろから押されるかのように身体が引っ張り上げられた。


「歩きやすいようにと思ったのですが…。驚かせてしまいましたね。すみません」

情けない奇声を出した俺に吃驚した後に、申し訳なさそうに謝ってきた。

こっちが礼を言うのが筋だろうに。腰が低いというかなんというか…。

その事と美少女に謝られている事が良心に響く。


「吃驚しただけだから平気平気。歩けるようにしてくれてありがとな」


軽く頭を撫でながら繋いだままのミミの手を引っ張る。抵抗は無いからきっともう平気だろう。


足が折れてるのに歩けているのも魔法のようだ。いろんな魔法があるものだ。


「二人ともー!早く来て手伝ってー」


下から食欲を誘う匂いとリンクの声がした。


「わりぃ。今行くー!」



◆◆◆◆◆◆◆◆◆


俺達が降りて食堂を覗く頃にはもうほとんど準備は終わっていた。


「結局全部やってもらっちゃいましたね…」


「あら~、いいのよ?気にしなくて」


気まずそうに呟いたミミの言葉に、気の抜けたような声が横から返された。子供の声ではない。


声の方を見ると凄い美人が柔和な笑顔でこっちを見ていた。漆黒って表現するのがぴったりなストレートの長い髪。同色の涼しげな瞳。なんというか…大和撫子といった感じだ。リンク達のような白人系の人とは違い、アジア系の人間に近い感じがする。肌は勿論白いけど。

少し親近感が湧いた。


「二人ともーご飯冷めちゃうから…あれ?セツカさん帰ってたの?」準備が出来た事を伝えに来たらしい、リンクが食堂から顔をひょっこり覗かせた。そして女性を見て意外そうな表情になった。

彼女はセツカさんというらしい。名前も日本人のみたいだ。


「今日は朝からだったから早いのよ~」

「なるほどー」


多分仕事の話だろう。


「それで~…この子達は誰なの?」


セツカさんがごもっともな疑問を抱く。むしろ顔を会わせた瞬間に聞かなかったのか謎だ。


「ああ、この人達は…じゃあクロト君からで」


俺からかよ…。


「……っと、俺は鷹羽黒斗って――


俺達がセツカさんに軽く自己紹介をしようとしていると、


「ちょっとー。早くしてよ。せっかく美味しそうなご飯なのに冷めちゃうで…、って誰?」


むくれたルミが文句を言いながら食堂から顔を出す。セツカさんの後ろ姿を見て不思議そうな顔をしている。


「あ、ルミさん。この人はね、ここの孤児院の管理人のセツカさんという「ちょっ!!マジタイプな美人なんですけど!あのあの、私ルミっていいます!セツカさんでしたよね!?ご結婚はなされてます?恋人は?まあいたとしても関係無いけど!!略奪愛って燃える展開だよね!!ヤバイ!興奮してきたんですけど!?結婚を前て「ちょっと待ったーー!?お前何言ってんの!?」……人で…」


リンクがセツカさんを紹介しようとした矢先、ルミがマシンガントークでセツカさんを口説き始めた。

遮られたリンクは衝撃で固まっていた。

え?何コイツこんなんなのか?


「何って…、美人みたらとりあえず口説かないと!男だろうが女だろうが!!」


スゲェ…言い切った。

ガッツポーズすんなよ。んなドヤ顔で。めっちゃキラキラしちゃってるよ。

隣でミミが深い溜息をついていた。…苦労してんだな。


「あらあら可愛い子ねぇこの子も。リンク、お姉さん嬉しいわ~。こんな可愛い子が三人も泊まってくれるなんて」


ルミの発言を気にした様子も無く、緩い声で喜んでるセツカさん。それを見てリンクも深く溜め息をついていた。



「ルミ恥ずかしいから止めて下さい…。リンクさん、騒がしくてごめんなさい。普段は良い子なのですが…」


「いや…こっちも大抵ズレてる人だから。気にしないで。…良い人なんだけどねホント…」


二人の疲れたような会話に哀愁を感じた。


「美人か…んじゃリンクにもさっきみたいなの言ったの?こいつもスゲー美人系じゃん」


でもさっきのあれを見て驚いてたし初見か?


「状況が状況だったしねー。口説こうにもできなかったのよ。リンクもクロトも」

「いや…俺もかよ」

「当たり前でしょ?ま、一番はミミだけどねー。見た目も雰囲気もなにもかもダントツで!」


「それに関しては同意だけども」


「そ、そんな話はいいですから!ほらせっかくの夕食が冷めてしまいますよ!?」


顔を朱に染めながら、グイグイとルミを食堂の方に押している。

そんなミミを見てルミはにやけている。シスコン拗らせてんなー。確かに可愛いけど。


「そうだね。早く行こっか。ほらクロト君も」


ミミの言葉に頷いたリンクが、俺を押しながら食堂に向かう。


「あらあら、仲良しねえ」


嬉しそうなセツカさんの声が後ろから聞こえた。

その声に振り返って見た彼女が少しだけ悲しそうな諦めたような、なんともいえない笑顔を浮かべていたのは俺の見間違いなんだろうか。


ルミさんのキャラがやっと出せた。ずっとやりたかったよこのネタ

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