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短編シリーズ

婚約を断る練習に付き合ってくださったのは、お相手の伯爵様でした

作者: 泉華
掲載日:2026/10/04

「ええと。わたくしには分不相応かと思いますので、今回はお断りさせていただきたく……とかどうかしら?」


わたくしはエルフィーナ・リンベル。

ただいま王都の植物園の裏庭の長椅子で、空を仰いでいる。

ちなみに背もたれに頭を預けているので、姿勢なんてとんでもない。

お母様に見られたら、「なんてこと!」と絶対に叱られてしまう。

けれど、そんなこと気にしていられない。わたくしは絶賛お悩み中なのだ。


今日は植物園の茶室で顔合わせ。

お母様が張り切ってはやく出発したおかげで、約束の時間まで余裕ができた。お母様に断りを入れて、庭を散歩していたのだけれど、ちょうどよく長椅子を発見したので、くつろいでいたところだ。


田舎の子爵家の三女。

つい先日、20歳を迎えた。どうにかして今回の縁談を断りたい。

貴族として、婚約を結び、結婚をし、子を産む。それが自分の役目だとわかっている。

わかっているけれど、とんでもないうっかり者。そのうえ、令嬢として至らないところばかりなのだ。

わたくしの令嬢教育を受け持ってくださる先生にはいつも、「ギリギリの及第点です」と言われるくらいだ。


「お相手は伯爵様でしょう。わたくし、立派な伯爵夫人になど、なれるはずがないもの」


几帳面で非常に厳格な方だと聞いている。

そのような方相手に、わたくしはご迷惑をおかけするだけよ。


「お断りをするにしても、お相手を傷つけず、わたくしも嫌な人だと思われないようにするにはどうしたら……」


生け垣の向こうから足音がして、小道を歩いてきた男性が現れた。

バッと上半身を起こし、男性を見上げた。柔らかなハニーブラウンの髪の毛に、翡翠色の瞳をしている。

わたくしよりも年上ね、大人の男性だわ。

淡い黄色のドレスをささっと整え、令嬢として姿勢をただし、微笑む。


「ごきげんよう」


「こんにちは。ご令嬢、ハンカチを落としておりますよ」


そういって男性は、わたくしの目の前の地面に落ちてしまっていたハンカチを拾い、さっと土ぼこりを払ってくださる。

姿勢を正すのに必死で、膝の上に置いていたハンカチを落としてしまったようだ。

丁寧に差し出してくださったハンカチを受け取り、慌てて頭を下げる。


「あ!失礼いたしました。ありがとうございます」


「それで、ご令嬢はこちらでなにを……?」


あきらかに戸惑っている。それはそうよね。崩れた姿勢から急に澄まし顔で挨拶をされたのだもの。


「ええと。少々、練習をしておりました」


「練習……?」


「はい。わたくし、縁談をお断りしたくて。その練習を」


「ああ、ご令嬢はお若いですし、どなたか他に憧れの方でもいらっしゃるのですか?」


「いいえ、わたくしがとんだうっかり者ですから。お相手のために」


「ほう、お相手のために、ですか。よろしければお話を聞かせていただいても?少し時間を持て余しておりまして」


「特に面白いお話ではないのですけれど、良いのでしょうか?あ……、よろしければわたくしの練習相手になってくださいませんか?」


「ええ。もちろんですよ」


「まあ、ありがとうございます!男性の意見を伺いたいと思っておりましたの。お隣に座ってくださいな」


わたくしが長椅子の空いているところを指し示すと、男性は腰かけ、こちらに身体を向けた。


「わたくし、刺繍がとっても下手なのです。先日お父様にお渡しするために鹿の図案を刺したのですけれど、『犬のハンカチをありがとう』とお礼を言われたほどでしたの」


「ほう。私の母も刺繍は苦手なようで、侍女に代わりに刺してもらったものを父へプレゼントしているのだと聞いたことがありますよ」


「……そうなんですの。けれどわたくしは、指を刺してしまうことも多く、令嬢として手に傷を負うのなど、いけないことでしょう」


「それは、頑張った証なのではないでしょうか」


そんな風に言っていただけるだなんて。

嬉しくて、にやけてしまいそうになるのを隠すために膝に置いている指先を見つめ、きゅっとハンカチを握った。


「そうでしょうか。わたくしには姉が二人おりますけれど、とっても綺麗に仕上げて旦那様に贈ることもよくあると聞いているのです」


「御姉君がお二方いらっしゃるのですね、人には得意不得意がありますよ」


優しい声色に、パッと顔をあげると、眼差しまで優しい。

わたくしのうっかりはそれだけではないのに。


「そ、それに!わたくしは侍女のアリスに、起こすのに一時間もかかると呆れられるほどのお寝坊さんなのですよ。将来旦那様になる方を、起こしてお世話して差し上げることができません」


「お相手の身の回りのことは、使用人に任せればよいのではないでしょうか?」


「そうなのですけれど、わたくしの母は朝から父を甲斐甲斐しくお世話しておりますから……」


「ご夫婦の仲が大変よろしいのですね、我が家は使用人に任せっきりですから、家庭によるのでしょう」


それを聞いて、確かに、と思った。

わたくし、両親やお姉様方のお話しか聞いていないかもしれない。

けれど、先生からの評価もありますもの。


「そうかもしれません。わたくしの先生には、その……ギリギリの及第点というご評価をいただきますの」


「そうなのですか。こうしてお話ししている限りでは、気になる点はまったくございませんから、厳しい先生なのではないですか?それに、合格をいただけているのなら、良いという考え方もありますよ」


「先生が厳しい可能性ですか……考えたこともありませんでした。わたくしは田舎の子爵家の者なのですよ?どちらかというと、甘い気がしますわ」


ふふっと笑って、隣の男性を見上げると、なんだか思案中のような表情をしている。

どうされたのかしら。


「……そうなのですか。失礼ですが、御姉君方はどちらに嫁がれたのか、お聞きしても?」


「姉たちは二人とも、侯爵家に嫁いでおりますわ」


「それはまた、珍しい。子爵家から侯爵家に嫁がれることはなかなかないことでしょう」


「身内ながらに、姉二人は優秀でしたから」


「先生のご指導は、もしかすると御姉君基準になっていたのかもしれませんね」


「姉二人が侯爵夫人だからと言って、わたくし、とても伯爵夫人になれる気がいたしませんわ。とにかく不安なのです」


はあ、と小さくため息をつき、頬に手を当てていると、隣の男性がこちらを凝視している。

なんだか様子がおかしいわ。


「……?伯爵家との縁談を予定されているのですか?」


「えぇ。本日、こちらで」


「ご令嬢、失礼を承知でお聞きします。あなたは、リンベル子爵令嬢でしょうか」


「!まあ、どうしてお分かりに?わたくし、家紋は身につけていないはずですけれど、髪留めかしら?」


アリスが気を利かせて、家紋付きの髪留めをつけてくれたのだろうかと思い、淡いピンク色の髪の毛に触れる。当たり前だけれど、見ることはできない。

わたくしが『見えないわ』なんて呟いていると、男性が急に立ち上がり、姿勢を正した。


「どうされました?もしかして、お時間でしょうか。わたくしのお話が長いばかりに、申し訳ありません。どうか、お気をつけてくださいませ」


「いえ!そうではなく……」


翡翠色の瞳には、戸惑いの色が浮かんでいた。

けれど、なにに戸惑っていて、そんな気まずそうな表情をされているのかわからない。

本当にどうしちゃったのかしら。


「リンベル子爵令嬢。名乗るのが遅れて申し訳ございません。

私、アインクレス伯爵家当主、リヴィエル・アインクレスと申します。……リンベル子爵令嬢に本日お会いする予定の者です」


「えええええええ!!!

も、申し遅れました。わ、わたくし、えっと。リンベル子爵家三女、エルフィーナ・リンベルと申します。あの、この度は大変なご無礼を、申し訳ございません!」


思わずわたくしも立ち上がり、バッと頭を下げる。

アインクレス伯爵……のところで息が止まり、お会いする……のところでやっと呼吸を思い出したのだけれど、驚きが口から出てしまった。令嬢として失格すぎるけれど、もう。だって。ご本人相手に練習だなんて、なんて失礼なことをしてしまったの。


「リンベル子爵令嬢、頭を上げてください。私は怒ってなどいませんよ」


その言葉を聞いて、顔を上げると、目の前のアインクレス伯爵は微笑んでいた。


「私も実は、縁談を前に気持ちが落ち着かず、庭に出ていたところだったのです」


「そうでしたのね、アインクレス伯爵も、ご緊張なさることがあるのですね」


「はい、さあ、座りましょう」


アインクレス伯爵に促され、もう一度長椅子に腰掛ける。

こんなにスマートで落ち着いた方でも、緊張するだなんて。思いもしなかったわ。


「わたくし、アインクレス伯爵はとても厳格な方とお聞きしておりましたので、まさか、あなた様がご本人とは、夢にも思いませんでした。……っあ!」


しまった!そう思って口元を両手で押さえる。

ああ!また!口から出てしまったわ。どれだけ失敗してしまうの。

これはもう、わたくしがお断りをしなくても、もう相手方からお断りされる気がしてしまうわ。

あわあわとしているわたくしを、伯爵は面白そうにみていた。


「ああ。その噂ですか。仕事関連で関わる人からはよくそのように言われるためか、その印象を強く持たれるのです。ですが、妻となる人に対して、仕事と同じように接することなどありませんよ。

そうですね、困ったことや失敗を隠さず、相談していただければ、なんの問題もありません」


「……なんの問題もないのですか?」


「一緒に考えたり、解決していけばよいではありませんか」


「そのようなお考えもあるのですね、素敵ですわ」


「ははっ。ありがとうございます。

リンベル子爵令嬢。これは提案なのですが、今回の縁談に乗り気でないのならば、私の方からあなたが困らないように取り下げる旨をお話しいたしましょうか?」


「え、そんな、ご迷惑をおかけするわけには……」


あら?わたくし、お断りをしたくて練習をしていたはずなのに……

彼の提案を飲めばお断りをしなくてよくなるのに、全く嬉しくないし、喜べないわ。

どうしたの、エルフィーナ。自分の望んだことよ。

どうして、まだお話ししていたいと、思っているの。

わたくしが悶々と考えていると、彼は胸元から懐中時計を取り出した。


「おっと。そろそろ、約束の時間が迫ってきているようなので、戻らなければ。

エスコートして差し上げたいところなのですが、二人で戻れば、両親たちにもう気持ちが決まったと思われかねません。あなたのためにも、私が先にささっと向かいますね」


ああ、どうしましょう。

今ここで、わたくしの意思をお伝えしなければ、もう彼とはお話しできないかもしれない。

けれど、お引き止めするにはどう言葉をかけたら良いの?練習していたのは、お断りの言葉だけ。

それでも、伝えなくては。茶会の席に着いたら、もう間に合わないかもしれない。


「お待ちくださいませ!あと、少しだけわたくしにお時間をください」


「?もう、練習される必要はございませんよ。それに、迷惑などではないのですよ。遠慮なさっているのでしょう。私がなんとかしますから、安心なさってください」


「いいえ!違うのです。わたくし、なんだか。アインクレス伯爵と、もうお話しできなくなるのは……いいえ。お会いできなくなるのは、嫌だと思いました。わたくしにチャンスをくださいませ」


ああ。言ってしまった。

この上なく恥ずかしい。なんだか、わたくし、好きみたいじゃない?

え?あれ?わたくし、こんな短時間で好きになってしまったというの?ええ?

頬に両手を当て、視線を迷わせていると、アインクレス伯爵が目を見開いてこちらを見ていた。


「リンベル子爵令嬢、それは……」


「ああああ。とにかく!アインクレス伯爵から、わたくしのためにご調整いただくことはなしで、お願いいたします。ここでわたくしとお話ししたことは、なかったこと。そうしてくださいませ。

これからの茶会で、わたくしと婚約したいと思っていただけるか、ご判断をお願いいたします!それでは!」


わたくしはもう恥ずかしくて仕方がなくて、言いたいことを一気に捲し立てると、長椅子から立ち上がった。アインクレス伯爵に淑女の礼をして、足早にその場を去った。


***


「なんだ、あの子は。なかったことにできるはずなど、ないだろう」


エルフィーナが立ち去った後で、耳を赤くして、顔を手で覆って伯爵は項垂れた。


***


お父様とお母様のもとへ戻ったわたくしは、

アリスに『髪留めの位置がずれています!』とすこしだけお説教を受けながら、顔合わせに向けて最後の身支度を整えていた。


「いいですか、エルフィーナ。きちんと、お話をするのですよ」


「はい。お母様。お任せくださいませ」


「あら?今朝よりも乗り気ではないの。どうしたの?……まあいいわ。やる気があるのは良いことだものね」


「ああ、私は逃げ出してしまうのではないかと少し心配していたから、よかったよ。エルフィーナ」


お父様の言葉にすこしギクリとしたけれど、逃げ出そうとはしていなかったし、うっかり失言はしてしまったけれど、今は顔合わせにとっても前向きなのだから、いいのだ。

うんうんとわたくしが一人でうなずいているのを見て、お母様はまた不思議そうに見ていたけれど、気にしない。


「さあ、いこうか」


顔合わせの茶室へ入ると、先方はもうそろっていた。

先ほどまで会話していた、彼とその両親がこちらに向けて、挨拶をする。


「お初にお目にかかります。アインクレス伯爵家当主、リヴィエル・アインクレスと申します」


「お初にお目にかかります。リンベル子爵家三女、エルフィーナ・リンベルと申します。本日はこのような席を設けていただき、感謝いたします」


そこからは早かった。あれよあれよと両親たちの会話に花が咲き、婚約への意思確認になった。


「私は、リンベル子爵令嬢と婚約させていただきたいと、思っております。どうか、お受けいただけないでしょうか」


「もちろんです。お引き受けいたしますわ」


こうして、婚約がまとまり、晴れて婚約者となった。

わたくしはというと、とっても嬉しくて仕方がなかった。

けれど、アインクレス伯爵が結局婚約を受けてくださった理由はなんだったのか、そう考えてもいまいちわからず、二週間が経過していた。


明日は、顔合わせの日以来、初めてアインクレス伯爵とお会いする。

手紙のやりとりはしていたけれど、形式的なものでしかなく、きちんと顔をみてお話ししたい、そう思っていた。


そして翌日。わたくしは、馬車でアインクレス伯爵邸へ向かっていた。

ああ。どきどきするわ。まずは、ご挨拶をして、それから、理由をお伺いしたいわ。

気遣いで受けてくださったのかもしれないもの。


「ようこそ、いらっしゃいました。お手をどうぞ」


「ごきげんよう。お出迎えいただき、ありがとうございます」


アインクレス伯爵のエスコートで馬車を降り、伯爵邸へ向かう。

談話室かしら。ソファに座り、あたりを見渡すと、

窓辺に、かわいらしいピンク色のお花が、金色の花模様が描かれた半透明のガラスの花瓶に飾られていた。

まるで、わたくしの髪色と瞳の色のようだわ。自惚れかしら。


「お気づきですか?」


「えっと。わたくしの色彩に、合わせてくださったのでしょうか?」


「ええ、あなたの美しい淡いピンクの髪色と、蜂蜜のような明るい金色の瞳の印象を使用人に伝えたのです」


「まあ、とても素敵ですわ。飾ってくれた方にも、感謝を」


「はい。伝えておきます」


自惚れではなかった。わたくしのことを、気にかけてくださっている。

そう思うと、これから聞くことへの、勇気も湧いてきた気がする。


「ええと。アインクレス伯爵、なぜ、今回の婚約をお受けいただけたのでしょうか?

わたくし、とっても失礼なことをいたしましたし、お気遣いなのでしたら……」


「気遣い!?」


向かいに腰掛けた伯爵がとんでもなく驚いた顔をしてこちらを見ていた。


「えぇ。わたくしが困らないように配慮すると、おっしゃってくださったでしょう。

わたくしが望んでしまったから、お優しい閣下は、あんな失言をしたわたくしでも受け入れるしかなかったのではないかしら。そう思いましたの」


ぶんぶんと首を横に振った伯爵が、立ち上がってわたくしの隣に座り直した。


「なにをおっしゃるんです。そんなわけがないでしょう。

私は、ああやって自分のことよりも相手を困らせないかと考えていたり、違う意見にも耳を傾け、自分で考えてくれたり、最後は勇気を出し、私に会いたいと言ってくれたあなたに惹かれたのですよ」


「え?そうなのですか?」


「そうです、リンベル子爵令嬢。ああ、エルフィーナと呼んでもいいかな?婚約したのだし。私のことも名で呼んでくれると嬉しい」


「はい。もちろんです。……リヴィエル様」


名前呼びといい、直球な物言いといい、とっても照れる。

ああ、照れ臭いわ、お顔が見られない。でも、わたくしも呼べた。毎日眠る前に心の中で、リヴィエル様って呼んでみて、練習しておいてよかった。


「エルフィーナ。先ほどの続きだけれど、私はあなたと話していたあの時間が楽しかったし、もっと一緒にいたいとも思った。だから、正式に婚約を結んだんだ。決して気遣いなどではないよ」


「わ、わかりました。勘違いをして申し訳ないですわ。けれど、お手紙が、その。形式的でしたので、もしかしたらと思ってしまいましたの」


「手紙か……。婚約したての手紙だし、もしかしたらお父上なども目を通されるかもしれないだろう?そこに、あの時のことは書くべきではないと思ったんだ。

それに、あなたはなかったことにしてほしいと言っていたからね、今日も話題にしていいのかすこし迷っていた」


ああ、そうだったんだ。

わたくしは恥ずかしくて、ついつい口にしてしまっただけだけれど、リヴィエル様は律儀に気にされていたのだわ。


「あの、わたくしあの時はとっても恥ずかしくて、思わずあのように言ってしまいましたの」


「そうか。あの時は本当に、お互い戸惑っていたからね。今日はどう話したらいいのか、随分悩んでいたよ」


「まあ、わたくしもです。わたくしたち、同じことを考えて、悩んでいましたのね」


ふふっとわたくしが笑うと、リヴィエル様が少々硬い表情で、立ち上がる。

そして、わたくしの前で跪き、手をとり、指先に口付けた。

――もしかして、わたくしが不安に思っていたから求婚のやり直しをしてくださるのかしら。


「エルフィーナ。どうか私の妻になってくれないだろうか。あなたの素直で可愛らしい姿に心を奪われてしまった。どうか共に、生きてほしい」


「リヴィエル様。もちろんですわ。わたくしも、あなたのそばにいたいのです」


思わず、瞳が潤んでしまう。

せっかくアリスが可愛らしくお化粧を施してくれたのだから、涙はこぼせないわ。


「だきしめてもいいかな?」


「はい!」


リヴィエル様がわたくしの隣に腰掛け、抱きしめてくれた。

彼の胸に頭を預けると、心臓の音がとても速かった。緊張されているのかしら。


「ねえ、エルフィーナ。フィーと呼んでもいいかな?」


「!もちろんです。……リヴィ様」


「ああ。可愛いフィー。早く共に住みたいね、これからの話をしよう」


「ええ!二人の生活のための、お話をいたしましょう」


リヴィ様。そう呼ぶだけで、ドキドキする。

フィー。そう呼ばれるだけで、リヴィ様からの好意がよくわかる。


「ねえ、リヴィ様。わたくし、あなたにハンカチを贈りたいのだけれど、どのような図案がお好みでしょうか」


「フィーが私を想って刺してくれるものなら、なんでも嬉しいよ。楽しみにしている」


「では、一目で当てられるか、勝負をいたしませんこと?」


二人で目を見合わせて、笑う。わたくしの不得意な部分までまるごと受け止めてくださる方。


お断り練習をご本人に聞かれるだなんて。

なんて失態と思っていたけれど、あの裏庭での出来事がなければ、こうして心を通わせることはできていなかったかもしれないわ。


張り切りお母様に感謝しなくてはね。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。

はじめて1万字以内にまとめてみました。

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