エピローグ 救い
〝転生呪肉〟は再生する様子は無い。
間違いなく終わったと確信しているようで、この腕に抱きかかえているベラドンナも安堵の表情を見せている。
「な、なぁ……もう離れてくれてもいいんじゃないか……?」
「そ、そうじゃな」
どこか余所余所しい雰囲気で顔を背けつつ、ベラドンナが離れてくれた。
戦いの最中は脳内麻薬が出ていたのである程度平気だったが、状況が落ち着くとドキドキしてきてしまう。
それに――。
「ベラドンナ、泣いてるのか?」
彼女の悲しみを感じ取ってしまっていたからだ。
「悪役女王が泣くはずなかろう……」
そうは言っても涙を堪えているのが丸わかりだ。
なんと慰めれば良いのかわからない。
それこそこの国最強の魔法使いにして、悪役女王のベラドンナの慰め方を知っているのなんて親くらいだろう。
そこに地面を這ってくる気配に気が付いた。
「む、下がれベラドンナ」
「これは…………良いのじゃ。もうアレには何の力も残っていない。数十秒後に消え去る」
それは半分になっても、崩れつつ近付いてくる〝転生呪肉〟だった。
たしかに力はなさそうで、触手も満足に動かせないでいる。
ベラドンナは慚愧に堪えない瞳を向けていた。
「ごめんなさい……妾――いえ、私がお母さんを治そうだなんて思わなければ……」
崩れて小さくなっていく〝転生呪肉〟はベラドンナに近付いて行く。
「結局、苦しませるだけで何もしてあげられなかった……。ごめんなさい、ごめんなさい……」
触手がベラドンナの身体に伸ばされていく。
マサムネはさすがに見ておられず、抜刀の構えをしたのだが――。
「こ、これは……」
〝転生呪肉〟だったものが、年老いた女性の姿に見えてしまったのだ。
正確にはうっすらと見えているという感じだろうか。
不思議と幻覚ではなく、そこに〝魂〟がいるというのがわかってしまう。
「おかあ……さん……?」
年老いた女性の腕は、ベラドンナを優しく抱き締めた。
『もう一度あなたをちゃんと抱き締められた。ありがとうね』
そう言うと年老いた女性の腕は崩れていき、〝転生呪肉〟は天へと還っていった。
ベラドンナは抱き締め返そうとしたのだが、間に合わなかった。
虚空を彷徨う行き先のない手。
表情をなくしたベラドンナは魂を抜かれてしまったかのようだ。
マサムネは自然とそれを抱き締めてしまう。
「うぅぅぅううう……!!」
ベラドンナは幼子のように泣いた。
たぶん二回の人生分、泣いた。
***
――あのあと、マサムネは丸三日間寝込んでしまった。
ただでさえ過酷なベラドンナゲームを勝ち抜き、最後は負荷の大きい【超速】や【神狼魔力両断斬】まで使ってしまったのだ。
TPは回復できても、疲労は溜まっていく一方だった。
普通の人間なら死んでもおかしくないような消費だったが、マサムネだからこそ三日間寝込んだだけで済んだのだ。
寝覚めは意外と爽やかだった。
「色々あったな……」
ラブレス……ではなくベラドンナは直後に立ち去ってしまった。
ただしマサムネたちはVIP待遇で持てなされたので、こちらに恩は感じているらしい。
〝転生呪肉〟のことは表に出ず、正式発表では謎のムメイという男がゲームの勝者になった。
ラブレスの願いはもう叶えてしまったので、この国のエルフに対する弾圧の解除を要求した。
管理者であるエグオンが失態を犯していたのもあり、彼が主導としていたエルフ狩りは今後一切取りやめになるようだ。
そのことにフォティアが喜んでくれたのは素直に嬉しかった。
もっとも、彼女はなぜか時々機嫌が悪くなってしまうようになった。
「なぁ、フォティア」
「どうしたの、マサムネ? 果物でも剥いてほしいの?」
用意されたVIPルームのベッドの上のマサムネと、その横にいてニコニコしているフォティアがいた。
「いや、ベラドンナはアレから顔を見せないなって……」
「……ふん。女王様だから忙しいんでしょ!」
やはりなぜか機嫌が悪くなるようだ。
同じ部屋の中にいるコダマに助け船を出してもらおうと視線を向けるも、ニッコリと笑みを浮かべられるだけだった。
……どうしろというのだ。
「それじゃあ、ベラドンナには顔を見せずに出発するか」
「兄君、もう身体は平気なんですか?」
「ああ、この通り」
心配性かと思うくらいに巻かれていた包帯を解いていく。
元からそんなに傷はなかったし、宮廷魔法使いたちの看病もあって回復は早かった。
「っと、念のためにムメイの格好で出て行くか。優勝したのはそっちだしな」
マサムネではなくムメイの姿に変装してから、お世話になった建物から出て行く。
「あれ?」
そこには武器を持った男たちが出待ちをしていた。
思わず構えてしまいそうになるが――。
「ドッキリだよ、ドッキリ」
それはベラドンナゲームで戦った相手たちだった。
驚かせようと武器を持って出待ちしていたのだろう。
「いや、お前たち……。全員折れた腕に武器をくくり付けて無茶をしすぎだろう……」
「折ったムメイが言うか!?」
最初からしたら結構な人数が減ってしまったが、ベラドンナゲームを最後までやった割りには残っている方らしい。
それもこれもマサムネが戦った相手はほぼ殺さずに両腕をへし折ったためだろう。
「色々あったが、ムメイ。楽しかったぜ」
「またベラドンナゲームをしような!」
「それは御免だ。もうちょっとマシな趣味を見つけろよ、おまえら」
生死を共にした戦士たちは、お互いに大笑いをして親睦を深めた。
殺し合いが終われば、そこに残るのはただの人間たちなのだ。
「それじゃあな」
彼らに別れを告げ、三人は歩いて行く。
ただ歩いて景色を楽しむというのも久しぶりで良い気分だ。
しばらくしてコダマが質問をしてきた。
「兄君、次はどこへ行きましょうか?」
「そうだなぁ……」
コダマの言う嫁探しというのはスルーして、当初の目的は色々なところを見せて回りたいということだった。
そうなると、国境を越えてしまうのもいいかもしれない。
風景や文化がガラリと変わるはずだ。
「隣国イエネオス帝国――通称〝勇者の国〟なんてどうだろう」
「ふむ、勇者の国か。じゃが、国境を越えるにはそれなりに手続きが必要になるのぉ。まぁ、妾がいれば一発でオッケーじゃがな」
「なるほど……って、なんでここにいるんだ。ベラドンナ」
いつの間にか妖精の杖にまたがって空を飛んでいる彼女がいた。
「ベラドンナ? 聞いたことがないのぉ。妾はラブレスなのじゃ」
「た、たしかに大人の姿じゃなくて、子供の姿に戻ってるけど……」
ベラドンナ――もといラブレスは、空中で逆さになりながらこちらを見ていた。
完全におちょくられている感がある。
「実は『ゲームの賞品は妾じゃった~』というのも乙なものじゃろうて? そういうわけで、妾を同行させると良いのじゃ」
「だ、ダメに決まってるでしょ!!」
なぜかフォティアが大声で喚いている。
「妾はマサムネに聞いたのじゃがな~。ほれ、望むならいつでもTP補充させてやってもよいぞ」
「さらっと何を言ってるのよ! この悪役女王!! 大体、国のトップがいなくなったら大変でしょ!」
「妾は元々、政にはあまり絡んでおらんかったからのぉ。即位したときから側近にお任せじゃ。それに影武者もおるしのぉ」
「あー、もうこの国は本当に終わってるわね!!」
フォティアは戦闘時の白狼もビックリな怒りの表情をしていた。
怖い。
そこへコダマがニコニコしながら言った。
「賑やかな方が楽しいですよ」
「う……コダマちゃんがそう言うなら……」
「それじゃあ、決定じゃな!」
何か勝手に三人で決まってしまったらしい。
「俺の意見は……」
マサムネはやれやれと溜め息を吐いた。
これからの旅路は騒がしくなりそうだ。
遠くまで広がる晴天を見上げながら、魔法優位の国で元不遇だった剣士はそう思った。
これにて魔法の国の物語は終わ――……いや、そういえば。
しばらく歩いてから、ふと思い出し【ヴィジョンズ:ノーフェイス】を呼び出して聞いてみた。
「なぁ、そういえば運+1の詳細な効果って何なんだ? アレのおかげで一万分の一の確率でも100%になってたけど」
『おや? 100%? それはいくら優秀すぎるわたくしのことでも過大評価しすぎかと』
「じゃあ、もうちょっと確率が低かったのか? 70%? もしかして50%くらいか?」
『ははは、ご冗談を。常時発動型なので、そこまで高くはありません。運+1というくらいですので――』
ノーフェイスはコッソリと耳打ちして伝えてきた。
「……聞かなかったことにする」
これにていったん完結とさせて頂きます!
ここまでお付き合い頂き、ありがとうございました!
(何か賞とかに出して、受賞したらまた続きを書きたいですね。ネタはあるので)。
さて、終わりがあれば始まりもある。
ということで、新連載が開始されました!!
タイトル
『配神が支配する異世界で【クズカメラ】に転生した俺 ~「お前は配信向いてないからw」と追放された華の無いヒロインをSランク冒険者にプロデュースしようと思います~』
あらすじ
推しVTuberがアンチに追いつめられて卒業したことがトラウマの俺は、異世界に転生し、100年かけて『配信』という概念を生み出した『配神』となった。
だが、その世界で配信を楽しむ前に寿命が尽きてしまい――気が付くと、俺が作った最弱種族【クズカメラ】に転生していた。
視点は低い、戦闘力ゼロ、歩けて声を出せるだけの縛りプレイ。
ダンジョン配信者のカメラとしてはポンコツすぎる身体で、俺は一人の少女と出会う。
「お前は配信向いてないからw」と嘲笑され追放された16歳の少女クロ。
陰キャで華がなく、誰にも注目されなかった彼女を、俺は最高の配信者にプロデュースすることを決めた。
前世の知識を駆使して、サムネ、挨拶、雑談配信、コメント拾い。
炎上対策に、アンチ貴族へざまぁ!
目指すは登録者数100万人の最強冒険者――この異世界で史上初の『推し育成プロジェクト』が始まる!
いわゆるダンジョン配信ものに分類されるかもしれませんが、ちょっと変わったところは主人公自身が異世界で配信インフラを魔法で作り上げて、そこから現代知識を使って配信者をプロデュースして成り上がっていくお話ですね。
いつものように作者が作者なのでバトル重視だったりします。
というわけで、ぜひ今投降されている三話まで読んで頂けると幸いです!
そして、面白かったらブクマや評価などを頂ければ……!!
これからもWEB小説で活動するために必要なので、よろしくお願いします!




