マサムネvs転生呪肉
「動きが止まったぞ!! 一矢報いてやれー!!」
「魔法を合わせろー!!」
あとから集まってきた宮廷魔法使いたちが魔法を放つが、相変わらず傷一つ付けられない。
ベラドンナの周りの建物内部を破壊するだけだ。
「チッ、魔法が効かないと解れ!! 私たちは撤退だ!!」
苛立つ長が命令するが、宮廷魔法使いたちのプライドがジャマをする。
「で、ですが!! 他に誰がアレを止めるというのですか!?」
「そうですよ、宮廷魔法使いである我々が逃げてしまったら誰も……!!」
「ムメイと言ったな。任せて良いか?」
妙に貫禄のある宮廷魔法使い――たぶん口ぶりからして特に偉い立場なのだろう。
彼が強者特有の鋭い視線を向けてくる。
「ああ、任された。ベラドンナは助ける、二言はない」
「ふっ、血は争えんな」
そう意味のわからないことを呟くと、宮廷魔術師たちを連れて避難していった。
「あの人たち、自分のところの問題なのに逃げちゃったわね」
「そうですね、兄君に任せすぎです」
仮想の箱庭から出てきたフォティアとコダマは不満げだった。
「いや、魔法が通じないのなら、いても死人が増えるだけだ。戦いやすくなって助かる」
さて、と胸中で呟きながら敵を観察する。
大きさはベラドンナ+謎の触手の固まりで、一見するとそこまで大きくはない。
肉で作られた草花部分で2~3メートルくらいだろうか?
しかし、油断はできない。
メインウェポンであるらしい触手は伸び縮みをして、鞭のように振るわれてくる。
その威力も、簡単に石を粉砕できるようなものだった。
「この魔法の国で魔法が効かないとなると、やっと剣士の出番というところだな……」
「人目を気にしないのなら、私たちだって……!!」
フォティアは弓を引き絞り、ベラドンナ目掛けて矢を発射した。
森のモンスター相手にも通じる貫通力ある一射だ。
「くっ、ダメね……」
ベラドンナの触手に突き刺さったが、それで終わりだ。
すぐに傷が修復されてしまった。
魔法に強いだけでなく、生半可な物理ダメージでも無駄らしい。
こうなると物理で大きな傷を与えられる刀が適正となるだろう。
「義姉君、お耳を」
「なに? コダマちゃん……ふむふむ。なるほど」
二人は何やらこそこそと話している。
「わかったわ。それまでは目立たないように攻撃を控えようか」
「俺には教えてくれないのか?」
「兄君は表情に出てしまうので」
「……反論できないな」
何か二人による策でもあるのだろう。
そこは任せて、今はできることをやろう。
「それじゃあ――死合おうか」
両脚を大きく開くような形で大地を踏みしめ、刺突のような構えを取った。
殺戮本能に支配されているベラドンナですら何かを感じたのか、ピリッとした視線を向けてきている。
マサムネはニヤリと笑う。
「と、見せかけて逃げる!」
〈兄君!?〉
〈このタイミングで逃げるの!?〉
すでに仮想の箱庭の中に避難していた二人から驚きの声があがった。
マサムネとしては同じ人間同士ならそれなりに礼節を持って戦うこともあるが、今回の相手は人外だ。
人体構造が違う触手を伸ばす攻撃や、自己再生を持つ相手と真っ正面から戦っては公平でも何でもないだろう。
父ユキミツから教えられた戦い方を思い出す。
メインは剣士としての戦い方なのだが、時には忍者がするような汚れ仕事用の戦法も習っているのだ。
「よし、狭い通路だ!」
マサムネは無銘刀をギリギリ振れるくらいの狭い通路へ辿り着くと、そこで立ち止まってベラドンナを迎え撃つことにした。
こうすることで、大きく触手を振らなければ威力が出ない相手に対して有利に動くことができる。
一方的に無銘刀で倒すことも可能だろう。
しかし、マサムネは忘れていた。
「あ……」
『太陽神よ、我が右手に宿り眼前の敵を溶かし尽くせ――〝赤光の雫〟』
「魔法……まず――」
ベラドンナが持つ妖精の杖――大量の妖精が杖の形に固められたグロテスクな物――から魔法が放たれた。
それは今まで見たモノとは規模が違う。
腕の太さ程度の熱線、その周囲の空間が歪んでいる。
まさしく赤光の雫、信じられないような熱を持っているのだろう。
その一滴が光のような速度で向かってくる。
周囲の壁が溶け、燃え、炭になる。
それが直撃したらどうなるかなんて、魔法を知らない赤子ですらわかるレベルだ。
しかもこの国最強の魔法使いであるベラドンナの魔力相手に、魔力防御で防げるはずもない。
容易に消し炭になる自分が想像できてしまう。
これがラブレスを名乗っていた女性の真の力なのだ。
「【消費TP10 マジックカウンター】……!!」
眼前で弾ける光。
マジックカウンターは透明な壁で向こう側が見えるはずなのだが、今は空気の歪みと白光で何も見えない。
それに咄嗟のことだったので、カウンター対象へはじき返すことも難しい。
今までにない、あり得ない圧を重みとして感じてしまう。
たとえるなら巨大な滝だ。
それを精一杯、潰されないように踏ん張りながらいなすことで限界だ。
無限とも思える一瞬が過ぎて、ベラドンナの〝赤光の雫〟が消えてくれた。
「……な!?」
見えてきた視界は散々たるものだった。
弾かれた熱線が右往左往したのか建物の中が、のたうったヘビのように溶け、燃え、炭になっていた。
幸いなことに建物自体もベラドンナが作ったものなので、火災が広がるようなことはないようだ。
「壁の向こう側が見えちまってるな……」
ベラドンナに対して思い違いをしていたことを反省した。
脅威なのは触手や再生能力ではない、あの魔法だったのだ。
むしろ殺意に支配されていなければ、冷静に魔法を選んで、連射すらしてきたかもしれない。
真の魔法というモノが少しだけ理解できてしまった。
「そうなると……狭いところで穴熊戦法なんて自殺行為だな」
マサムネは魔法で破壊された壁の向こう側へと飛び込んだ。
そこは第二回戦で使われた荒野のフィールドだった。
ここなら触手を振られてしまうが、魔法は多少なりとも避けやすくなるだろう。
「こっちだ、ベラドンナ! 人間を殺したいんだろう!」
『殺したい……人間を……』
うまく誘導されてくれたようだ。
これで無視されて、王都で無辜の民たちを虐殺し始めたらどうにもならなかった。
この特殊な荒野ならいくら暴れられても平気だろう。
「――っと、危ないな!?」
荒野の中に入ると、すぐさま触手を振るってきた。
回避したのだが、背後にあった渇いた崖が砕ける音がする。
「魔法は……撃ってこないのか」
そこから推測されるに、優先されるのは人類への殺戮衝動。
攻撃方法は基本的に触手。
それが使えないか、使いにくい場合は魔法になる。
触手が振れない通路での行動や、今までの感じから見てそう考えておく。
他の可能性はいくらでもあるが、さすがに未知の相手だとキリが無い。
いつも想定していた対人戦とは違うのだ。
「さて、どう戦ったものかな……」
選択肢は大きく分けて二つある。
一つは触手が届かないような距離まで離れて戦う。
この場合は魔法を誘発させて、マジックカウンターでダメージを与えることになる。
「いや、これは無理か……」
そもそも今のベラドンナは最強の魔法を使うのに、魔法が効かなくなっているというチート生物だ。
なぜ魔法が効かないのかは不明だ。
そこの詳細もわからないので、どうしようもない。
「となると、やっぱりいつものか」
残りの選択肢は近付いて、触手に対処しながら無銘刀で戦う、だ。
あの威力があり、複数備えている触手の鞭攻撃をどうにかしながら再生力の高い敵を切り崩していく。
かなり難易度が高そうだが、それしかない。
「それなら……まずは試す!!」
ベラドンナへ向かって踏み込んでいく。
瞬間、脊髄反射のような速さで触手が飛んできた。
低い横薙ぎの一撃。
跳んで躱す。
すると二本目の触手が振るわれる。
空中では避けようがないと予測済みだったので、無銘刀でガードをする。
視界が急転する。
「思っていたより威力があるな……!」
身体の回転を感じながら吹き飛ばされるも、猫のように地面に着地した。
「うん、無理だ!」
〈マサムネでも無理なの!?〉
フォティアの慌てふためいた声が聞こえた。
それに対して楽しそうに笑いながら答えてしまう。
「人間の手よりも多くて、長くて、威力がある触手たちによって守られているからな! アレをどうにかしながら近付くのは、人間では無理だ!」
〈じゃあ、どうすれば……〉
「人間を辞めるような力でやるしかない――開け、TPブック」
マサムネの手に現れたのはアーティファクト――TPブックだ。
ペラペラとページがめくれていくが、その間にも触手たちが人体を破壊しようと振るわれている。
〈マサムネ、危ない!! 複数!? 回避が間に合わない!?〉
「大丈夫だ――【消費TP10 素早さ強化】」
一瞬にしてマサムネは一本目の触手を避けた。
しかし、次々と触手が振るわれてくる。
「まだだ――【消費TP10 加速】」
二段階目の強化によって、マサムネの身体がさらに素早さを増していく。
あまりのことに身体の血液が置いてきぼりになったような感覚すらある。
周囲の景色が流れて見える。
それでも音速を超える触手たちが執拗に追ってきた。
「三度がけ……これでぇーッ!!【消費TP10 超速】」
弾丸のように打ち出される身体。
異常なまでの重力がかかる。
それも上からではなく、横からだ。
(速すぎて四肢が引き千切られそうだ……!!)
触手すら余裕で回避できる速度を得たのだが、同時に脳に血液がいかず気絶しそうになってしまう。
グルンと白目を剥いてしまいそうになるのだが――。
「ッッッ根性ォォオ!!」
全身の筋肉をビキッと引き締め、強引に血流をコントロールする。
加速時における気絶のメカニズムなど知らないが、これらを本能で対処しているのだ。
「ッこれで対等に戦えるぞ、ベラドンナ! さぁ、武にて語ろう!!」
ベラドンナの懐に飛び込み、無銘刀を振り下ろしていく。
初めて本体に届く攻撃。
触手で防がれていくも、それらは削れ、弾け、切り飛ばされていく。
ベラドンナも焦ったのか、殺意よりも防衛本能が優先して意識を少しだけ取り戻したようだ。
『いいぞ……ムメイ――いや、あの時の幼子マサムネ。妾を殺すがいいのじゃ……』
その言葉を聞いた瞬間、初めての怒りがこみ上げてきた。
「何で俺がベラドンナ――ラブレスを殺さなきゃいけないんだッ!!」
ベラドンナは呆気にとられてしまっている。
『妾の意識がまたなくなってしまったら、無辜の民たちを虐殺することになるじゃろう。こんな悪役女王は何度でも殺されて当然じゃ』
「知るか馬鹿! 俺は妹よりも小さいお前を助ける、最初から言ってるだろ!」
『わ、妾は転生魔法を使っていただけで、ご覧の通り結構な大人じゃぞ。ラブレスは偽物で――』
「母親を助けたいって言ってたラブレスは……本物だっただろう!!」
自らの人生を懸けて、必死に母親を救おうとしていた一人の少女。
その魂に嘘偽りはない。
転生して記憶を消したからといって、魂の奥底に刻まれていたのだろう。
『マサムネ……』
「ちょっと痛いぞ!! 我慢しろ!!」
三度がけの【超速】の効果で、人間ならざる速度で無銘刀を振るい続ける。
ついに触手の攻撃を退け、ベラドンナ本体へと刃が届く。
「――真神流〝風来奪首〟!!」
その〝転生呪肉〟と身体の接続部らしい背中の太い管のような部分を一刀両断。
ベラドンナと〝転生呪肉〟は見事に分断された。
「大丈夫か、ラブレス」
倒れてきたベラドンナを受け止め、その安否を気遣う。
消耗しているのか非常に弱々しく感じられたからだ。
「ラブレスは偽名じゃろ……妾はベラドンナ。きちんと名で呼べ……」
そう言いながら、ベラドンナは恥ずかしそうに胸を隠しながら顔を逸らしてしまった。
そういえば、先ほどまでは〝転生呪肉〟で隠れていたが、今は解放されて全裸の状態だ。
成長した大人の姿、つい意識してしまう。
触れている肌は肉付きが良くて、かなり柔らかい。
ラブレスの頃と違って胸も大きく、着地した瞬間にすごく揺れている。
何か罪悪感がすごい。
「わ、悪い!!」
着ていたマントをベラドンナに被せてやった。
それでも隙間から若干色々と見えているが、全裸よりはマシだろう。
「何をやってるのよ、マサムネは。って、これで……終わりなの?」
「いえ、義姉君。アレを見てくださいませ」
仮想の箱庭から出てきたフォティアとコダマの視線の先には、触手で自立し始めた〝転生呪肉〟があった。
このまま戦ってもいいのだが、マサムネは質問した。
「なぁ、ベラドンナ。お前はどうしたい?」
「妾は……」
マサムネはラブレスとしての目的を覚えていた。
それは母を病気から救うことだ。
あの〝転生呪肉〟が母親だったモノだというのは過去の記憶から知っている。
「おかあさんをすくいたい……」
泣きそうなベラドンナの顔は、幼いラブレスに見えた。
「……救い方は?」
「えっ?」
それを聞いたフォティアは驚いていた。
「あの身体を元に戻すんでしょ……?」
「俺もそれが最善だとは思うが……それを試していないベラドンナではないだろうな」
「あっ……」
ベラドンナはただ小さく頷いていた。
転生で魔力を高めたベラドンナでも、元に戻すことはできなかったのだろう。
「それどころか、殺すことすら……できなかったのじゃ……!!」
あの脅威の再生力は転生に絡むモノで、ある意味呪いなのだろう。
壊れた転生、不老不死、死ねない肉塊。
それをどうにかしようと、大切な人を殺すために試行錯誤した気持ちを考えると居たたまれない。
「だから――どうにかしてアレを殺してほしい……!! 妾だけでは、万が一の確率でも無理じゃった……!!」
「それがベラドンナの願いか――心得た」
彼女の涙を拭ってやると、TPブックが輝きだした。
それはいつもよりも悲しい光に見える。
ページを開くと、そこには新たな行が誕生していた。
【消費TP30 ヴィジョンズ:ノーフェイス】
どうやらベラドンナとの絆で誕生したヴィジョンズらしい。
さっそく呼び出すことにした。
「顕現せよ――【ヴィジョンズ:ノーフェイス】!」
『お呼びでしょうか、ご主人様』
「喋った……!?」
現れたのは真っ白い肌をした男だった。
正確にはマネキンのような身体で、どこか作り物めいていた。
天使の抽象画の裸像に近いだろうか。
特徴的なのは顔に何もないことだ。
それなのに喋っているし、そもそもヴィジョンズは喋らないと思っていた。
『はい、わたくしめは魔力の高いベラドンナ様から生まれたので、他のビジョンズと違って最初から喋ることが可能です』
余裕ある慇懃無礼な喋り方だ。
それを気に入らないのか、仮想の箱庭から白狼と赤鳥が出てきて、ノーフェイスに体当たりをかましていた。
『痛い! 痛いですよ、先輩方! 自分たちが喋れないからって八つ当たりは止してくださいませ!』
「……」
雰囲気的に何か役に立つような感じがしない。
『あぁ、全員からの冷たい視線が。わかりますよ、ええ。わかりますとも。新参者が、役立たずだった場合困りますものね』
「そ、それでお前は何ができるんだ? ベラドンナとのヴィジョンズならさぞ――」
『運+1でございます』
「……は?」
『いるだけで運+1でございます。あとは執事の真似事なども。とてもお役に立てると思います』
「何か胡散臭い気がするのだが……」
本当にコイツ大丈夫か? と思ったのだが、ノーフェイスの口調が冷たい氷のように変化した。
『こちら、ベラドンナ様の願いによる能力でございます』
「ベラドンナの……?」
『説明いたしますと――』
「よい、妾自ら説明する」
『はい、かしこまりました』
ベラドンナは何か思い当たる節があるような表情になっていた。
「アレを殺すためには転生の因果を斬らなければならない。その確率は約一万分の一……。妾も記憶を消す前に試した……」
「ベラドンナ……」
母親を自ら殺そうとしたというのだろう。
「防衛本能によって妨害されながらも、何とか物理的に殺すことはできる。しかし……痛みや苦しみが伝わってくる……それを一万回繰り返すなんて妾にはできなかったのじゃ……」
ベラドンナの目からは涙がこぼれ落ちていた。
「じゃから……じゃから……」
「俺が一撃ですべてを終わらせてやる」
『おやおや、すごい自信でございますね。何か確証がお有りで?』
「ふっ、何となくそうなるとわかる」
ベラドンナとの絆で生まれたノーフェイスの能力が運関係なのだ。
やたら余裕がある奴だし、きっと絶対成功するような能力になっているに違いない。
運+1とはそういうものなのだ。
ベラドンナもこちらを見てきて、何かを確信したようにコクリと頷いた。
「マサムネを――妾に再び生きる希望を与えてくれたあの赤子を信じる」
「気が付いていたのか。何か恥ずかしいな」
「ほれ、今度は妾を抱きかかえておれ。あとはこちらで転生魔法の解除式を組む、その間にアレを叩き切るだけでよい」
「了解、それならとっておきを使う。……と思ったけど、TPが足りないな」
マジックカウンターや、超加速、ノーフェイスの顕現などでTPが空になりそうだ。
とっておきはTP100にしないと使えない。
TPを増やすためにどうにかしなければ――。
「ちゅっ」
「んむ!?」
考えごとをしていたら、いきなり唇に柔らかい感触が当たった。
近くにはベラドンナの美しい顔がある。
彼女がつけている香水の魅了するような匂いがして、やっと我に返った。
「え、あ……」
「わ、妾のために戦ってくれるのじゃから……光栄に思うのじゃぞ……」
マサムネがリアクションを起こす前に、フォティアが叫びを上げた。
「あー!! き、キスをしたああああああ!?」
「ほら、皆さん。戦闘に集中してください」
意外なほどに冷静なコダマの一言で、一触即発になりそうな空気は霧散した。
現在のTPは100だ。
とっておきが使えるようになった。
「まだ慣れてないから少し溜めがいる。その間のフォローは頼んだぞ」
「わ、わかったわよ」
「はい、兄君を全力でお守りいたします」
『ワンッ!』
『ピュイー!』
『わたくしめはお茶の用意をしておきますね』
一人を除いてやる気満々のようだ。
「それじゃあ、みんな頼んだぞ!」
マサムネとフォティアはしばらく動くことができない。
とっておきのために力を溜め、転生の運命を断ち切る術式を編み始めたからだ。
それに反応したのか〝転生呪肉〟が触手を振るってきた。
途中にある岩石が弾け、その威力は分離しても健在だと告げているようだ。
『ギュイエーッ!!』
赤鳥は戦闘形態――巨大な炎を纏った猛禽類の姿を見せた。
羽根を火矢のように飛ばし、触手を地面に串刺しにして固定しながら燃やしている。
『ガルルゥ!』
白狼も負けじと、〝転生呪肉〟へ猛スピードで突進。
放たれる前の触手を狙って噛み付き、引き千切る。
「私だって……あの子に負けてられないんだから!!」
必死な表情のフォティア。
彼女は目にも止まらぬ速さで矢を放ち続け、〝転生呪肉〟をハリネズミのようにしていく。
「ふふ、皆様がんばってくださいね。兄君が選べる選択肢は多ければ多いほどいいので。さて、わたくしも戦闘能力がないなりに工夫して戦いますね」
コダマは戦闘の最中とは思えない笑顔を見せた。
たしかに空間魔法は、他の属性のように直接相手を燃やしたり、凍らせたりはできないので補助系にカテゴライズされていることが多い。
しかし、何事も工夫だ。
空間の出口と入り口を上下に作る。
そこに落ちている岩を空間魔法で放り込む。
すると上の出口から落ちてきた岩が、下の空間魔法の入り口に入り、上から出現して、再び下の入り口に入り……と無限ループする。
岩は一定まで加速するので――それを最後に射出方向を調整して放つ。
「えい」
可愛い声とは裏腹に、岩が猛スピードで〝転生呪肉〟へと飛んで行く。
相手は砕けた岩に吹き飛ばされ、転がっていた。
「コダマちゃん……中々にエグいわね……」
「複数の空間魔法のせいか大きさに制限があったり、加速が一定で止まったり、時間がかかったりとあまり強くないんですよね。まだまだです」
「たぶん普通の人間が喰らったら原形を留めないわよ……」
ドン引きするフォティアであった。
そうこうしている内に準備が整った。
「いけるか、ベラドンナ」
「妾を誰だと思っておる、悪役女王ベラドンナじゃぞ」
マサムネは左手でベラドンナを抱きかかえ、右手で無銘刀を持った状態だ。
お互いの顔は緊張を押し殺す笑みを浮かべていた。
触れている肌からも早鐘のような心臓の鼓動が伝わって来そうだ。
「TP消費があるからチャンスは一度……。できれば意表を突きつつ、近くに行きたいところだな……」
「ふふふ……」
急にコダマが含み笑いをし始めた。
「な、なんだ?」
「くくく……」
フォティアまで。
緊張でどうにかなってしまったのだろうか。
「私たちの合体ワザを見せるときが――」
「――来たようね!!」
何を言っているのだろうか、この二人は。
「コダマちゃん、コレにお願い」
「はい、矢に空間魔法の出口を設置!」
フォティアは矢を矢筒から取り出し、コダマがそれに魔法付与をする。
反撃のチャンスを見つけたのか〝転生呪肉〟はこれまでで最大数の触手を放ってくる。
もちろん狙うは脅威判定が最大に達しているであろうマサムネとベラドンナだ。
次の一撃しか放てないので、これを触手部分に当てて消費してしまうと非常にまずい。
「それじゃあ、行くわよ――〝陽炎通しの矢〟!!」
フォティアが放った一射は絶妙なコントロールで触手を避けて、さらに〝転生呪肉〟の真横をすり抜けようとしていた。
「今です! 直通版・仮想の箱庭!!」
マサムネは足元の感覚がなくなった。
地面へと吸い込まれているのだ。
頭上を間一髪で触手が通り過ぎる。
「うおお!?」
「これは……空間転移をしておるのか!?」
地面へと吸い込まれたのではなく、正確には足元にできた空間魔法の入り口に落ちたのだ。
そして、その出口はというと――
「目の前に〝転生呪肉〟……助かる!」
フォティアが放った矢の地点だった。
最初から矢の位置に出現させるために、二人で協力していたのだ。
あとはマサムネとベラドンナの役目だ。
「生まれ変わりの輪を断つ……! 〝|均しく与えられる最期の祝福〟」
ベラドンナは無銘刀に輪廻を断ち切る極級付与魔法をかけた。
それでも効果時間は数秒しかなく、成功率も一万分の一だ。
この国最強の魔法使いによる、最弱に近い魔法。
その微かな希望――壮絶な人生そのものとも言える魔法を受け取ったのだ。
失敗する気はしない。
「今、その命を解放してやる」
マサムネは大きく息を吸い込んだ。
肺から丹田へ。
丹田に溜まった力を、大地を踏みしめる両脚へと伝える。
あとは無駄な力はいらない。
夜風に揺れる柳のように身体を預ける。
敵滅す動作、それは無銘刀を握っている右手だけで充分だ。
「誇り高き白き獣よ、その聖牙で魔を罰せよ――【神狼魔力両断斬】」
刹那。
刀の間合い外。
脱力した状態で逆袈裟懸けの太刀筋。
何も起きない、双方とも動かず無音。
マサムネは血振りの動作をしてから、無銘刀を鞘へ戻した。
「な、何が……?」
困惑するベラドンナ。
次の瞬間、〝転生呪肉〟の背後にあった巨大な崖が斜めに斬れて崩れ落ちた。
「え?」
少し遅れて、〝転生呪肉〟の身体も同じように断ち斬られていた。
【TP消費100 神狼魔力両断斬】
それはマサムネの今の最大値であるTP100を全消費するという切り札だ。
魔力を斬り裂いて、同時にその効果も無効化する。
相手の魔力量によってダメージが大きくなるという特性もある。




