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ムメイ、参上仕る

 ラブレス――いや、ベラドンナの過去を見せてもらった三人は呆然としていた。

 アルジェントはゆっくりと口を開く。


「記憶を消されたあと、新たな人格――いや、別側面のような女王に適したベラドンナが誕生したって感じだな」

「あのラブレスちゃんが……そんな……」

「壮絶な人生ってやつだ、龍の俺様でもそう思うぜ。こんな異常な殺し合いのベラドンナゲームをやってるのだって、死のスリルを味わうためとか、狂った正当な理由(・・・・・・・・)だ」

「どういうこと?」

「記憶が無いくせに、無意識に死にたがってんだろうぜ。何度でも生き返っちまうから無駄だろうにな」

「そんなの……あんまりじゃない……」


 差はあれど、死の辛い経験を過去に乗り越えたフォティアは思うところがあったのだろう。

 言葉に詰まって目に涙を浮かべている。

 マサムネとコダマも同じような気持ちではあるのだが、一つ気になるところがあった。


「なぁ……アルジェント。もしかして、話に出てきたユキミツって……」

「お前ら兄妹の父親だな」

「やっぱりか……。そうなると、あの赤ん坊は……」

「お察しの通り、16年前くらいのマサムネだぜ」


 とても複雑な気分だ。

 なにせラブレスの昔話を聞いていたと思ったら、いきなり自分が出てきていたのだ。

 しかも小さすぎて記憶に無い。


「ベラドンナも成長した赤子だったとは気付いてなかったようだな。でも、その姿にかつてのユキミツ――お前の父親を見たようだ」

「なるほどな。それでなんでお前は、このタイミングでこれを見せたんだ?」


 アルジェントはフッと笑った。


「ところで、ベラドンナの母親はどうなったと思う?」

「どうって……アクアランツ王の妨害によって転生魔法が失敗してしまって……」


 コダマは言い淀んだ、死んだとは口に出したくないのだろう。


「失敗はしたが――今も生きている」

「えっ!?」

「刺そうが斬ろうが焼こうが、転生によって不死身になっちまった。地下に封印されている物言わぬ肉塊――通称〝転生呪肉〟がそれだ」

「そんな……」


 あまりのおぞましい言葉にコダマは口を塞いでしまう。


「そして管理者のバカが封印を解いて、偶然にも転生した直後のベラドンナを取り込んだ」

「ベラドンナ……そうか、ラブレスは転生魔法があるから死んでないのか!!」


 管理者のバカというのはエグオンだろうからスルーしておいた。


「さて、マサムネ。お前からしたらベラドンナは名を偽り、目的を偽り、スリルのためだけにお前をデスゲームに巻き込んだ相手だ。それでも助けを求めていたらどうする?」


 全員の視線が集まってきた。

 それに対して迷いも無く答える。


「俺は――」




 ***




 ベラドンナゲーム会場内――地下階段から宮廷魔法使いが吹き飛ばされてくる。


「だ、ダメです!! 止められません!!」

「我々の戦力では無理だ!! アルジェント・カオスドラゴン様に救護を要請できないのか!?」


 焦る宮廷魔法使いたち。

 それを見て宮廷魔法使いの長は冷静に呟いた。


「それは不可能だろうな。純粋な龍である彼は傍観者だ。気まぐれに戯れることはあっても、人を直接助けることはない。過去の歴史、人類の危機にも傍観していたしな」

「そ、そんな!?」


 対処に慌てる宮廷魔術師の中に、一人だけビクビクと怯えて顔を窺っている姑息な人物がいた。

 エグオンである。


「さて、エグオン。お前の報告では突如、女王の地下研究所にあった〝転生呪肉〟が暴走して、女王を取り込んで外に出てこようとしている……ということだったな?」

「は、はいぃ! そうですとも、そうですとも!! ボクは命を懸けて助けようとしましたが――」

「……嘘を言うなよ、小童が。その口を引き裂かずとも自白させる方法はいくらでもある」

「す、すみませんんんん!!!! ボクが〝転生呪肉〟の封印を解いて、それに女王が巻き込まれてしまいました!!」

「チッ……大方、女王は転生直後で油断していたか。ともあれ、アレをどうにかしないと国が滅ぶぞ」

「そ、そんな……大げさな……」


 地下階段から上がってきたのは、〝転生呪肉〟を肉の鎧として纏ったベラドンナだった。

 美しい植物の草花のように、触手を咲かせている。

 それで掴んでいたバラバラの人体のパーツを地面へと捨て去った。


「ひぃっ!?」

「偵察に行かせた宮廷魔術師は全滅か。情報を得たら引けと言ったのに……バカモノが」


 ベラドンナの目は正気ではなかった。

 言葉も発さず、ただひたすらに人間を殺そうとしている。

 それでも国民たちがいる外に出すわけにはいかない。

 長の横に控えていたカイが魔法の狙いを定める。


「ぼ、僕だって……! ファイアー・ボール!!」


 文字通りの火の玉がベラドンナに直撃した。

 爆煙を撒き散らし、普通の人間なら大火傷か吹き飛ばされて耐えられないだろう。

 しかし――


「き、効いていない!?」


 衝撃で体勢を崩すどころか、火傷の痕すら無いのだ。


「魔力障壁の感覚すらなかった……!?」

「天界と冥界、双方の契約に基づいて我が両手に消滅を宿せ――」

「長、その呪文は!?」


 長のシワだらけの右手に白い光、左手に黒い空間が出現していく。

 先ほどのファイアー・ボールとは比べ物にならない魔力量と、繊細で緻密な多層式の魔法が構築されていく。

 言うなれば天地創造を手の平に収めたような最上位魔法だ。


(ほど)けろ〝天冥地平線(ブラックホーリー)〟」


 ベラドンナに白と黒がぶつかり、空間情報が糸のように細かく渦を巻いて解けていく。

 極大の威力だが、限定された空間にのみダメージを与える脅威の魔法だ。

 修行だけでなく天界と冥界に縁のある〝モノ〟と契約して力を貸してもらわなければならない特殊さ、長だからこそできる極地。

 だが、それでも――


「お、長の魔法ですら効いていない!?」


 ベラドンナに傷一つ付けることはできなかった。


「ふむ、やはりか」

「い、いったいどういうことなのですか……。はっ、まさかダメージが発生する前に魔力を吸収している!?」

「カイ、やはりお前は洞察力に優れるな」

「で、でも――じゃあ、どうやって倒せばいいんですか!?」


 取り乱してしまうカイだったが、ベラドンナは待ってくれない。

 触手が音速を超えたソニックブームの衝撃波を響かせながら、人間を粉みじんにするような速度で振るわれていた。

 その先には長とカイがいる。


「怨嗟の呪いに取り込まれ、まるで殺意しかなかったあの頃のようだな。それは望みではないだろう……我が弟子よ……」


 長は寂しそうな顔をしながら、カイを庇う形を取った。


「長!? だ、誰か……誰かコレを止められる人はいないんですかー!?」


 直後に訪れる最悪の事態に叫びを上げるカイ、何もかも終わりだと思われたが――。


「ムメイ、参上(つかまつ)る」


 カイの前に一瞬で現れたマサムネが、無銘刀によって触手を弾いていたのだ。


「ムメイさん!? どうしてここに!?」

「俺は――ベラドンナを助けに来た」

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