軽い命
妾――ベラドンナは頭がおかしくなってしまったのか?
誰かの安否を気にするなんぞ……今までこんなことはなかった。
死のスリルを楽しむためにベラドンナゲームを主催して、今回は弱きものと偽って参加までしたのに、なぜかマサムネのケガを見てしまって心底嫌になった。
マサムネが妾のために人を殺して、悔いるような表情を押し殺していたのも胸が締め付けられるようだった。
なぜだ、妾は悪役王女と呼ばれる暴虐な支配者のはず。
生まれてから一度も、こんな感情を持ったことは――いや、本当にそうだろうか?
今回のベラドンナゲームの最中、マサムネを見ていると過去を思い出しそうになるが、なぜか思い出せないことが多いのだ。
無実の罪を着せられ、処刑される前は何をしていた……?
なぜ転生魔法の研究をしていた?
処刑の時にいなかった母親はどこに?
妾は何者だ……?
夢か現か幻か、わからない。
「どうした、ラブレス!? また参加者が組んでやってきたぞ!?」
マサムネの声が聞こえる。
心地良い、似た声と姿をどこかで見たことがある。
好きな感じだ。
でも、その人が妾のために身を捧げようとしている。
「いやだ」
「ラブレス!! おい、ラブレス!?」
もう大切な人がケガをするのは、死ぬのは見たくない。
密かに拾っていたナイフを取り出した。
「なっ!?」
これは付与魔法がかかっていない、ケイのナイフだ。
それを妾の心臓に自ら突き立てた。
スルリと入り、少し心地よさを感じてしまうほどだ。
「赤鳥! 急いで傷を治せ!! もう能力を隠しておく必要もない!!」
甘美なる死の痛み。
「なぜだ!? なぜラブレスの傷が治らない!?」
ああ、思い出す。
処刑のあの日……アレは断罪の痛みだと思っていた。
関係ない一族郎党まで殺されなければ、当然の罰として受け入れていたはずなのに。
復讐で転生して王族すべてを殺すこともなかっただろう。
「……!! ……!!」
マサムネが何かを叫びながら、妾の傷口を押さえて血を止めようとしているのが見える。
もう音が聞こえない。
目は霞みながらも辛うじて見える。
必死になっていて、とても愛い奴。
もう無理だとわかったのか、それでも襲い来る参加者たちに対して悪鬼羅刹のような形相で向かって行く。
妾のことを本気で想ってくれていたのだろう。
ああ、嬉しい。
こんなにも、仮初めの命で得られるものがあるなんて……。
目の前が暗くなり、意識と共に今回の身体は役目を終えた。
***
すぐに次の命が始まった。
城にある地下室、暗く湿った場所で受精卵が出現する。
それが急激に成長して、ラブレスのような少女の身体を経てから、大人の姿であるベラドンナへと完成する。
徐々に五感が戻ってきて気が付いた。
ここには〝転生呪肉〟と呼ばれる巨大な肉塊が設置してあるのだが、その近くに見知った人間がいたのだ。
妾以外は立ち入り禁止のはず。
入れたとしても、それなりの立場の者以外は結界に弾かれるようになっている。
では、誰が……。
「ひぃっ!? ラブレス……いや、ベラドンナ様!?」
「お主は……エグオンか……」
数々の失態をやらかし、視界に入れるのも嫌気が差していた相手だ。
五感が鮮明になってくると、嫌でもエグオンだと認識させられてしまう。
「ここで何をやって……なっ!? これの封印を解いておるのか!? 何を考えているのじゃ!?」
「あ、あはは……それはですね……えーっと……。これさえあればベラドンナ様がご所望のムメイを倒すこともできるかなと……考えてですね……」
「無能な働き者とはお主のことじゃ!! この〝転生呪肉〟は妾が転生前から封印を施していて――」
封印が破られた転生呪肉は、肉塊から触手をいくつも伸ばしてきていた。
妾はまだ転生したばかりで動けず、それに絡め取られてしまう。
「べ、ベラドンナ様!? い、今助けを呼んできますので……!!」
エグオンは脱兎の如く逃げ出した。
この〝転生呪肉〟の魔力が妾と同等だと感じ取り、勝てないとすぐさま判断したのだろう。
有能だが、無能だ。
「く、くそ……離さんか……!! 止め――」
抵抗も虚しく、妾は〝転生呪肉〟の内部に取り込まれてしまった。
そこに胎児が如く懐かしさを感じ、魔力が解かれていって、記憶を縛っていた自分の術式が解けていくのを感じた。
「これは……お母さん……? ああ、そうじゃ……。妾がこんな姿にしてしまったのじゃ……」
すべてを思い出してしまい、絶望の淵へと飲まれていった。




