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決死行

 マサムネとラブレスは、不気味な迷路のようなダンジョンを進み続ける。

 それでいくつか気が付いたことがある。


 一つは相変わらず通路の幅は一定で、他のコンビが来たら回避しながら移動するというのは難しい。

 ケイのように戦う意思がなくなったのなら何とかなりそうだが、このゲームで勝ち残れるのは二人だけらしいのだ。

 第二試合の協力戦とも違う内容なので、よっぽどのことがないと戦闘が発生する仕組みが作られている。


 もう一つ気付いたことは、別れ道がかなり多いことだ。

 枝分かれしている程度ならともかく、十字路がかなり多い。

 これは移動が遅ければ背後から狙われる可能性も高いということだ。

 前にマサムネがいても、後ろのラブレスが狙われてしまう。


「後ろは頼んだぞ、白狼、赤鳥」

『バウッ!』

『ピュイ!』


 召喚魔法(ヴィジョンズ)を呼び出して――いや、正確には空間魔法で移動してもらっただけなのでTP消費はない。

 ちなみにラブレスを空間魔法で避難させようとも思ったが、出場者の場合は失格になる可能性もあるとラブレスから拒否されてしまった。


 そして最後に気付いたこと、それは――。


「ゴールへの目印が無いな……」


 普通なら迷路とはいえど、ゴールの方向くらいは明かされている。

 端っこにゴール地点があるのか、中心にゴールがあるのかすらわからない。

 それどころか迷路の規模すらわからないのだ。

 そんな中でデスゲームが行われている。

 見る方は楽しいかもしれないが、やる方からしたらたまったものではない。


〈そういえば、迷路は左手の方向だけ行けば絶対にゴールできると聞いたことがあるわね……〉


 フォティアがナイスな情報をくれた。


「左手の方へ行き続ければゴールでき――」

「ゴールが中央にあるようなものだと無理な場合があります」

「そ、そうなのか……」


 詳しくは知らないが、そこまで言い切るならそうなのだろう。


「それに罠などで壁が稼働するものがあった場合も、無限に迷い続けることになります」

「たしかに、その可能性もあるな……」


 迷路の必勝法などは詳しくないが、そうなった場合の殺し合う者の心理は何となく予想がつく。


「となると、意表を突かれる前に出会った敵を倒そうと考える者が多くなりそうだな」


 迷路で誰も追いつけないくらいの全力ダッシュを続けられるならともかく、普通に歩いていれば背後から追いつかれることもあるだろう。

 歩き疲れて休憩なんてしていたら挟み撃ちの可能性すらある。

 一番確実なのは、対戦相手を全員倒してからゆっくりと探索することだ。


「っと、さっそくか」


 先の方に男女二人組のコンビがいた。

 遅れてこちらに気が付いたのか、剣を構えてきた。


「来るか……!?」


 こちらはいつでも戦闘態勢に移れる。

 相手の出方――予想では向かってくると思っていた。

 だが、なぜか相手は後ずさりを始めた。


「戦う気が無いのか? いや、それにしては構えを解かないな……」


 こちらが近付くと、その分後ろへ下がるような動きだ。

 これは明らかに誘っている。

 足元に罠か? いや、罠はよく見ればわかるくらいの物となっている。

 警戒しながら観察すれば大体はわかるはずだ。

 他に考慮すべき点は――十字路か。


「ならば、良し!!」

「ムメイさん、行くんですか!?」

「このまま狙われ続けても面倒だからな!」


 正確にはマサムネ自身は大丈夫だが、ラブレスを気遣っているのだ。

 子供が殺気に晒される時間など、少なければ少ないほど良い。

 敵は十字路の少し奥で待ち受けている。

 そこに勢いよく突っ込んで行く。


「かかったなぁ!!」

「バカめぇ!!」


 十字路の左右――そこに二コンビが待ち受けていたのだ。

 計三コンビ。

 六本の刃と魔法がマサムネを襲う。

 恐ろしき必殺の連携。


「だよなぁ! やっぱりいるよなぁ!」


 恐怖、否。

 ニヤリと口角を吊り上げていた。

 一斉攻撃に対して、流れるように左からの回転斬りをした。

 それは直線ではなく、曲線の回転斬り。

 敵の攻撃を想定した、防御の太刀筋。


「な、なにぃ!?」


 曲がりくねる河のように、敵の剣を弾き、魔法を斬り裂く。

 マサムネへはかすり傷すら付けられなかった。


「三方向からの不意打ちだぞ!?」

「そんなバカなことがあるか!!」

「ひぃぃぃ!! 来るな、バケモノが!!」


 敵から見たら、こんな対処をしてきたマサムネはバケモノに見えるのかもしれない。

 しかし、マサムネからしたら〝本物のバケモノ〟というのを知っているので冗談にしか聞こえない。


「う、うわ、やめろ!! 落ち着け、こんな狭いところで剣を振り回すと――ギャッ」

「ご、ごめ……うっ」


 焦った一人が剣で誤ってコンビを斬り殺してしまい、ソウルチェーンで一コンビが脱落してしまったようだ。

 相手の士気が落ちたのを見逃さず、マサムネは残りの二コンビの腕を峰打ちでへし折っていく。


「うぎゃ!」

「いでええええ!!」

「その腕ではもう戦えまい。これが終わったら外で治療魔法でもかけてもらえ」


 ちなみに骨が折れていたら他の参加者に殺される可能性もあるが、さすがにそこまで面倒は見てやれない。

 死ぬ覚悟があって参加したものなのだから、それくらいは承知の上だろう。

 もっとも、手加減する余裕のない相手なら殺していたが。


『ピィー!!』


 そのとき、笛にも似た赤鳥の鳴き声が後ろから聞こえてきた。

 振り向くと、そこにはマサムネが進んできた道――ようするに背後の方からもコンビがやってきていたのだ。

 偶然かどうかわからないが、十字路のすべてから襲われたということになる。

 しかも、運が悪いことに魔法使いの格好をしているコンビだ。

 まだラブレスとは距離が離れているが魔法を放たれるとマズい。

 即断即決で無銘刀を投げつける。


「ははは! 後ろがガラ空きだ!! アイス・バレット! ……うぐぉ」


 無銘刀が魔法使いの心臓に突き刺さるも、魔法はすでに発射されてしまった。

 二匹が身体を張ってラブレスを守るも、複数の弾の一つは脇の辺りを掠めた。


「つ、強すぎだろ……全員で協力したってのに……ごはぁ……」


 無銘刀には付与魔法がかかっていたので、ソウルチェインで魔法使いコンビの二人は死亡した。

 マサムネは急いでラブレスのところへ向かう。


「大丈夫か!?」

「う、ウチは平気ですが……」


 ラブレスは白狼と赤鳥を気にしているようだ。

 多少ダメージは受けているが、消滅するほどではない。


「よくやったぞ、お前たち」


 二匹を撫でてやると、すぐに元気に立ち上がった。

 そこでマサムネは自分の痛みにようやく気付いた。

 脇の辺りから血が出ているのだ。


「これは……。ラブレス、お前ケガをしただろう」

「ソウルチェインでバレてしまいましたか」

「見せてみろ」


 嫌がるような仕草のラブレスを無視して、強引に脇の部分を見る。

 服が切り裂かれ、うっすらと血が流れていたのだ。

 マサムネはすぐに自分の服を破いて包帯代わりにして、止血を試みた。

 どうやら深い傷ではないようだ。


「脇は重要な血管などがある……傷が浅くてよかった」

「ムメイさんもケガを……」

「大丈夫だ、ソウルチェインによる同じくらいの軽傷っぽいからな」

「よくないです……」


 なぜかラブレスは心底嫌そうな顔をしている。

 命が助かったのだし、軽傷で敵を倒せたのになぜだろうか?


「どうかしたのか?」

「ムメイさんはケガをしたんですよ……?」

「これくらい慣れている」

「それに……ウチのために人を殺してしまいました」

「俺は剣士だ。初めての経験だが、覚悟はできていた」


 そうは言いつつも、手は少しだけ震えていた。

 武者震いだろう。

 そのまま死体から無銘刀を引き抜いた。

 命無き骸を鞘とした刀は、いつもより重く冷たく感じられた。

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