命の共有脱出ゲーム
第三試合は〝命の共有脱出ゲーム〟と名付けられたものだ。
これもエグオン提案のもので、かなり性悪でマサムネに対して不利な内容となっている。
二〇人近くの参加者はコンビを組んで迷宮のそれぞれの地点から出発して、ゴールを目指すことになっている。
一位になったチームが勝利だ。
これだけ聞くとただの迷路脱出ゲームに思えるが、ここからがキモだ。
コンビは魔法の契約書によって命の共有がされている。
ソウルチェインという魔法の繋がりを持たされて、片方が付与魔法された武器で倒されると、片方も死に至るというものだ。
これによって片方だけが強いコンビは、弱い方がアキレス腱となって不利になるのだ。
そのためマサムネ以外のコンビは実力が拮抗するような者を選んでいる。
「さて、慎重に進まないとな……」
以前の試合のように、ベラドンナの魔法で拡張されただだっ広いダンジョンに入ってきた二人。
ダンジョンの通路は二~三人が歩けるくらいの広さで、直角の道で迷路が形作られているようだ。
壁の色は以前見たベラドンナと同じようなカラーリングで、暗い紫と緑で彩られていて不気味さを感じる。
「壁を破壊できるか試してみるか……?」
マサムネは手にした無銘刀をチラリと見た。
ただの石ではなく、魔法で補強されたものなら切り裂ける可能性がある。
「あの、止めておいた方がいいと思います……。大きな音で他のコンビがやってくる可能性が……」
「そのときは倒せばいいのでは?」
「それは……ウチという足手まといがいる状態だと、ソウルチェインでムメイさんまで死んでしまう可能性が……」
「気にするな、絶対守る。と言ってやりたいところだが、万が一もある。今回は残念ながら戦いを避けるのが無難か」
マサムネがラブレスを守るような形で、周囲を警戒しながら進む。
音を立てないようにしながら、十字型の別れ道などにも気を付ける。
いつ別のコンビが襲ってきても大丈夫なように体勢を整えておく。
「ムメイさん、進む道を選ぶ基準って何かあるんですか?」
「勘だ」
「勘……」
「何かとっかかりがあれば考えてもいいが、俺は謎解きが得意な方ではないからな。だったら迷いを持てば戦場では即、死に繋がる」
「とても納得できる答えです。ムメイさんは戦場に行ったことがあるんですか?」
これを答えるのは正直、剣士としては恥ずかしいが嘘を吐くこともできない。
たとえ妹より年下の子供相手でも。
「ない! 父親から口を酸っぱくして言われてたのを、俺が心に刻みつけているだけだ」
「お父さん……ですか?」
「ああ、俺の父親は数多くの戦場で首級を上げまくっていたらしいからな。剣士としては尊敬している」
「剣士としては? どんな方なんですか?」
「父親としては失格だな。そもそもアイツがいなくならなければ、妹も苦労せずに済んだ。でも、強い。剣の修業も付けてくれたし、感謝をする部分も多い」
「これが家族……なんですね」
「俺は他の家庭をあまり知らないがな」
〈兄君、身の上話をすると正体がバレてしまう可能性がありますよ〉
たしかにそうだ。
我が妹ながら頭の良い子だ……とマサムネは思った。
〈それと――〉
マサムネは踏み出した足が、少しだけ違和感があることに気が付いた。
カチッと何かの作動音がする。
〈あの方の話をすると注意力散漫になるクセは、昔から変わってませんね……〉
罠が作動する感圧版を踏んでいた。
「しまっ――」
頭上から巨大な鉄球が振ってきた。
サイズ的にマサムネ、ラブレスともにぺしゃんこに潰せるだろう。
轟音が響き渡る。
グチャグチャになった二人――は存在せず、ただそこにはへこんだ地面があるだけだった。
「セーフ……」
「ウチを抱えなければもっと楽に避けられたのに」
一瞬の判断でマサムネは【消費TP10 素早さ強化】を使って避けたのだ。
残りTPは90。
「俺はお前を守るためにいるんだ」
鉄球は鎖が付いていて、再び上へと戻っていった。
余計なことは考えず、トラップには注意しようと気を引き締めた。
「さて……トラップは回避できたが……」
通路の先の方にある別れ道から、屈強な男二人のコンビがノシノシと歩いてきた。
「音で見つかったか」
「くくく……。前回大活躍したムメイ様じゃありませんかぁ……」
アーティファクトの剣を呼び出し、ニタニタと笑っている。
明らかに敵対する気満々のようだ。
「普通なら避けたいところだけどなぁ、子供を抱えているような状態じゃカモだぜぇ……!」
アーティファクトから青白い光が出ている。
あれはソウルチェインに作用する付与魔法だ。
つまり、アレでラブレスが斬られたら、マサムネまで死ぬことになる。
「ま、まて……近付くな……」
「おぉ!? あのムメイ様が随分と弱腰じゃないか! くくく……! やっぱりいくらなんでも、その状態じゃ戦えないよなぁ!」
「ダメだ、危険すぎる……こっちに来るな……!」
「この屈強なコンビに恐れを成したか死ねぇ、ウぶシャ――」
走ってきた屈強なコンビの片方は、地面にあった罠を踏んで鉄球に潰されてしまった。
最後まで言葉を言えない状態だったらしい。
「いや、だから近付くなと……」
「ひ、ひぃー!! 狡猾に罠を使って誘導するとは何という恐ろしい奴だ……!? ここは撤退だぁー!!」
一人残った屈強な男は、すぐさま逃げ出してしまった。
判断としては正しいだろう。
これくらいならマサムネは簡単にあしらえるので、戦闘をせず逃げるのが一番だ。
「あれ、そういえばソウルチェインはどうしたんだ? 片方が死んでも、片方は生きてたよな?」
「付与魔法を施された武器じゃなかったということですかね」
「ああ、そうか。罠の鉄球は違ったのか」
事前に各自の武器には付与魔法が施されるような仕組みになっているが、現地のものはそうでないのだろう。
その状態で殺された場合、ソウルチェインは発動せずに、片方だけが生き残ってしまうのだ。
マサムネは死んだ男に手を合わせた。
「何をしているんですか?」
「いや、死んじまえばみんな同じだからな。簡単にだが祈りを捧げている。東の方の宗教だから俺は良く知らないけど、父親がやってたのを見よう見まねだ」
「そうなんですか」
「あ、子供は死体なんて見ない方がいいぞ」
「いえ、ウチもやります」
二人で手を合わせてから、先に進むことにした。




