それぞれの視点
アタシ――ケイはアナウンスを聞いて仄暗い表情をしていた。
「ペア……ね。……なるほど……」
それは自分のプライドを傷付けた男への復讐だ。
マサムネと一緒にチームを組んでいた明るい表情もアタシの一面だが、このどうしようもない執着……もはや粘着と言った方がいいだろうか――そういう一面も本性なのだ。
アタシは目的の男が集団の中に紛れているのを見つけると、色気タップリで話しかけた。
「はぁ~い。また会ったわねぇ~」
「ん? あ、テメェは……じゃなくて、あなたは……!?」
男は筋肉質で横方向にガタイが良く、短く刈り込んだ髪と、顔の傷痕が特徴だ。
以前の話しっぷりからして傭兵団をまとめ上げているらしい。
その男は第二試合前にアタシからのパーティー加入を『ババア』『シワが隠しきれてない』などと言って酷い断り方をしたのだ。
アイツもそれを覚えているのか一瞬だけ態度が悪くなったのだが、アタシはゴーレム操作でムメイチームの一人として活躍している。
アイツはすぐに手の平を返して、ゴマをすり始める。
「いやぁ~、ドラゴンを手玉に取っちまうあなたの姿には感動しちまったぜぇ~!」
「へぇ、ありがとう」
アタシは飛びっ切りの笑顔で返したが、内心はアイツが本心ではないと見下していた。
ムメイのように一貫した性格ならまだしも、状況によってこうもコロコロと態度を変えてくるオトコを信頼できるはずもない。
バカなオトコは可愛いが、コイツは違う。
一番大事な部分を傷付けてきた憎きオトコだ。
コイツになら何をしても構わない、むしろしなければならない。
当然の復讐を。
正義の鉄槌を
「ねぇ、これで二度目だけどアタシと組まない? 次って、ペアがとっても大事な内容でしょ~?」
「ぜひ組ませてくれ!! あんたほどの実力者に選ばれるなんてオレは幸せもんだぜ!! オレの名前はマズガだ!」
「ケイよ」
「よろしく頼むぜ! ケイ!」
以前の態度と違いすぎてほくそ笑んでしまう。
正直なところ、アレはムメイの統率力などが高かっただけで、アタシとしては以前と何も変わってはいない。
しかし、使えるものは何でも使う。
ムメイに感謝しつつ、復讐の算段を組み立てていく。
「だ、団長!? オレら傭兵団の絆はどうしたんですか!?」
「うるせぇ! 勝ちゃいいんだよ、勝ちゃ!!」
マズガは、ゴーレム操作でも一緒だった傭兵団の部下たちを簡単に切り捨てる。
逆にここまでクズな面を見せつけられると嬉しくなってしまうほどだ。
ゾクゾクする。
「あ、そういえば、二回戦前のときに何か言っちまった気がするが……それくれぇ気にしてねぇよな?」
「もちろん、もう許しちゃってるわぁ」
そう、マズガと組めた時点で許してしまっている。
だって――すでに第三試合中に殺すことを決めてしまったから。
アタシは妖艶に微笑んだ。
***
妾――ベラドンナは、マサムネに何も言わず個室に入って横になっていた。
酷い頭痛がして誰とも喋りたくない。
「なんなのじゃ……この頭痛は……」
魔力の使いすぎの副作用……ではない。
もっと強大な魔法を使っても、このような症状が起きたことはない。
では、なぜ今回このような頭痛に襲われているのか。
今回だけの特別な何か――。
「マサムネと一緒にいるから……じゃろうか?」
特別なことはそれしか考えられない。
では、なぜマサムネと一緒だと頭痛がするのか。
自分の身体を魔法でスキャンしても、物理的な異常は何も検出されない。
つまりケガや病気の類ではない。
ついでに他者からの呪いやスキルの影響でもない。
マサムネのスキルは未知数なところが多いが、それは関係ないということだ。
であれば――。
「妾がマサムネを見て、何か精神的な影響を受けて頭痛が……?」
意味がわからない。
マサムネとは、たまたまカンザの町の鍛冶屋に行ったときに噂を聞きつけて、そこから今回のベラドンナゲームに参加させようとしただけの存在だ。
テキトーにその場で思いついた『母親の病気を治すため』という嘘に引っかかったお人よしで――。
「母親の病気……?」
そこでふと考えてしまった。
嘘というのは、自分の経験から出るというのを聞いたことがある。
たとえば、身分を偽る詐欺の場合、過去に自分がしていた職業に近いもので偽った方が知識もあるし、相手を騙しやすくなる。
そういうものが自然と出てくるらしい。
つまり妾の場合は、どこからこの嘘が来たかというのを考えてしまったのだ。
「妾の母親……思い出せない……」
転生前の記憶がかなり欠如している。
自分は公爵家の令嬢ベラドンナで、転生魔法の研究をしていたところ、王家――今はもう旧王家だが、そいつらに無実の罪を被せられて処刑されて、一族郎党殺された。
「自分はなぜ転生魔法の研究をしていた……? 妾の母親は……なぜ処刑の時にいなかった……?」
思い出せない。
思い出してはいけない。
今は死のスリルに興じなければならない。
甘く、美しい自分勝手な享楽に浸ることこそが生きる原動力。
そのはずなのに――。
「マサムネの背中を見て誰かを思い出しそうになる……。もっと大きかったかもしれないが、似ている背中……。妾に希望を与え、絶望したときに助けてくれると言った誰か……」
思い出せない。
思い出したい。
「マサムネといると、とうに失ったはずの心地よさを感じてしまう……。もしかして妾はマサムネのことを大事に思い始めてしまっているのか……? ありえんじゃろう……」
何の縁もないはずの年下の青年に、こんな心情を抱くはずがない。
それでもおかしなことに以前から知っているような懐かしさを感じるのだ。
最初の目的である『此奴と一緒なら、より楽しいスリルを味わえそうじゃ』というものも引っ込みはじめ、むしろマサムネを守らなければならない、迷惑をかけたくないとまで思い始めている。
自分でも意味がわからない。
すべての人間なぞ格下の存在だと思っていたのに。
「なんじゃ……この気持ちは……」
妾の顔には不安の影が落ち、高まる頭痛の痛みで表情を歪ませていた。
***
ボク――エグオンは用意された特別な部屋で狂ったように笑っていた。
「あは……あはははうへはえはえははへへほへへ……!!」
「え、エグオン様……」
「うるさい!! 下っ端めがぁ!!」
「まだ何も言ってないですよ……」
部下たちからの冷たい視線が刺さるようだ。
普段から保っている威厳が崩れたのには大きな理由がある。
それは偉い宮廷魔法使いのボクの、さらに上の人間――〝宮廷魔法使いの長〟が下した命令だ。
今回のゲームの失態は目に余り、宮廷魔法使いの階級を大幅に下げるというものだった。
そうなれば今の部下と同等の存在になるし、独断専行でエルフ狩りもできなくなってしまう。
「くそ……くそくそくそ……!! なぜボクがこんな目に遭わなければならないんですか……!! それもこれも、フォティアちゃんへの愛をムメイがジャマをしたことが発端……。今回もムメイがゲームを突破しなければ……」
「むしろムメイ選手がドラゴン様を満足させてくれたから、この程度に収まっているという感じも……」
「うるさい!! 黙れぇ!!」
「ひっ!?」
部下の的外れな口答えが耳ざわりだ。
このボクが絶対なのだから。
「こうなったら用意していた切り札を使うか……? いや、リスクを考えると……」
ボクが気高い計算をしていると、部屋に誰かが入ってきた。
それは見覚えがある顔――カイだった。
「なぜただの参加者がここに入ってきてるんですかぁ!! 出ていきなさぁぁい!!」
「それは私が通したからだ」
「ひっ!? 長殿!?」
それはボクの上司である宮廷魔法使いの長だった。
長はベラドンナ様とも対等に喋れるような特殊な立場で、周囲からも一目置かれている。
その長が、なぜかカイの後ろから歩いてきたのだ。
「この若者は優秀でな。私が直々に宮廷魔法使いとしてスカウトしたのだ」
「な、なんですってぇぇ!?」
「実戦で観察力や、その対処力、魔力のコントロールの巧みさを見せてもらったからな。これほどの才能が見過ごされていたのがおかしいくらいだ」
「も、申し訳ないであります……あまりに目立たない人生を歩んできたもので……」
「ははは。これからは、その才能を存分に活かしてくれたまえ。そうそう……才能と言えば、そこにいる大馬鹿者も才能だけはあったのだがなぁ……」
なぜかボクの方を見てきている。
なぜ……なぜなぜなぜ……!?
「まぁ、先輩ではある。反面教師として良い役目になるだろう。上司と部下ではなく、降格してただの同僚になるだろうがな」
「ど、どうぞよろしくお願いします」
「では、宮廷魔法使いたちの他の仕事場も案内しよう。なに、キミは光るモノを持っている、私が直々に案内もするし、手ほどきもしようではないか」
「りょ、了解であります!」
二人は部屋から出て行ってしまった。
もうボクを気にもかけていないように。
「え、エグオン様……」
部下たちから視線を感じる。
それは冷たい視線ですらなく、哀れみの視線だ。
目から涙がこぼれ落ちてきた。
もうリスクなど知ったことではない。
ベラドンナ様も怒らないで、きっと喜んでくれるはずだ。
これで何もかも大逆転でうまくいく、そうだ、絶対にそのはずだ。
用意していたアレを使う。
国級封印指定物――〝転生呪肉〟を。




