傍観者なりの立ち回り
「あ、あのアルジェントを倒した……万が一の可能性すらなかったのに……」
呆然としているラブレスに言ってやった。
「万が一でもダメなら、億が一の可能性を掴み取ればいいだけだ」
「……」
ラブレスは何か思うところがあったのか、そのまま黙り込んでしまった。
勝利したというところで他のメンバーはホッとしていたのだが、そんな気も知らずかアルジェントは巨大な身体を起こしてきた。
「ってぇな……」
「ま、まだ動けるんですかぁー!?」
先ほどまで勝ち誇っていたエグオンだったが、もうビビり散らかしていた。
それもそのはず。
今の攻撃で立ち上がられたら、もうこちらに二つの意味で打てる手はないからだ。
ゴーレムの拳も砕けていて、負荷のせいで身体のあちこちにヒビが入っている。
殴るための手もないし、もう急激に動かすこともできない――という意味だ。
「まぁ落ち着け。人間、今回はお前らの勝ちでいい。これは殺し合いじゃなくて、ルールありの試合だからな。その中で俺様が負けちまったってだけだ。……あ、負け惜しみじゃねーぞ!」
「わかっている。今はまだ、本当の戦いをしたらアルジェントには届かない」
「ムメイ、今はまだ……な」
アルジェントは意味深に笑みを浮かべた。
「10とか30じゃなくて、もっと一気に使ってみな。……さて、名残惜しいがこれでいったんお別れだぜ」
「いったん?」
アルジェントはいつの間にか人間の姿に戻っていた。
格好良くポーズを決めてこちらを指差してきたが、全裸なので何とも言えない。
「そう、またあとで会うことになるぜ。具体的には……そうだな。十九時間後の誤差十分ってところだな」
「ず、随分と正確なんだな……」
このドラゴンが本気で言っているのか、冗談で言っているのか判断が付かなかった。
***
アルジェントが去ったあと、ゴーレムを操っていた参加者たちはドッと疲れを感じていた。
その場にヘタレこむ者や、放心してしまう者も多かった。
ゴーレムを通してでも、ドラゴンという存在はそれほどに恐ろしかったのだ。
「た、助かった……」
エグオンは涙とヨダレを垂らしていた。
そこへ疑問をぶつけてみる。
「そもそも、なぜアルジェントを第二ゲームに組み込もうと思ったんだ?」
「よ、よく知らなかったんですよ! ベラドンナ様の客人としてきていたから、ボスとして参加してくれと頼んだだけだった!! まさかここまでヤバい奴だとは思いませんでしたよ……!?」
たしかにドラゴンの話は知っていても、その力を実際に見た者は皆無だろう。
すべてを滅ぼすような力を持っていても、大昔の種族間戦争のときには傍観者を貫いた最強の種族。
人間には到底計り知れない存在だ。
「でも、ムメイ殿はドラゴンに認められたであります!」
「そうねぇ、同じように認められたベラドンナ様クラスってことでしょ~?」
ケイとカイの二人も疲労困憊だが、まだ喋れる余力はあるようだ。
「このルール内では認められたというだけだ。いつか生身で――剣を持った状態で戦ってみたいものだ」
「えぇ……」
なぜか周囲に引かれているが、本心からの言葉だ。
強い者と戦ってみたいというのは、男子なら誰もが持つ想いだろう。
「さてと、次は第三試合か。いつ始まるんだ?」
「む、ムメイ……このままやる気ですか!?」
「そうだが?」
エグオンは信じられないという表情をしていた。
何がおかしいのだろうか。
「周りを見てください! この中にまともにゲームができる者がいるとでも!?」
「む、そうか。たしかにみんな疲れてそうだな……」
「戦闘狂ですか……!?」
マサムネとしては疲れはあるのだが、アルジェントと戦えたという高揚感の方が強い。
いつも疲れは良い戦いによって吹き飛んでしまうので、周囲のことを忘れてしまっていたのだ。
「ま、まぁ元の予定でも、第三試合は次の日に行うことになっていましたから! 今日は施設内に泊まっていただくことになりますよ! ボクも疲れたので、今日はもう休ませていただきます! 明日の昼頃まで自由時間で!! 少しあとにこれを次のルールと共にアナウンスする予定です!」
口調的には元気そうだと言いたい。
エグオンはそのままどこかへ去って行ってしまった。
「さてと、明日の昼頃まで自由時間か……」
もう今日は戦うことができないと思うと、疲れが出てきた気がする。
「誰か暇な奴がいたら修業に付き合ってくれないか?」
「うへぇ~……。ムメイ、あんたまだ戦い足りないの?」
「戦ったあとに修業をするのは普通だろう」
「普通ではないわよ……。疲れたからアタシはパス、それに明日に備えて少しやっておきたいこともあるしぃ~」
ケイもどこかへ立ち去ってしまった。
まだ残っているカイの方をチラリと見てみた。
「あ~……僕はここでリタイアしようと思っているであります」
「ここまで来てリタイアでいいのか? 何か優勝して叶えたかったことがあるんじゃないのか?」
「いえ、元々僕はそういうのはなくて、何も成せなくて、ただ何となく生きている毎日が嫌で参加してみただけですから……」
「そうか……」
違うタイプの人間だが、何となく気持ちはわかる。
自分に力が無くて、何も成せないというのは過去のマサムネも経験している。
その気持ちはバカに出来るものではなく、本人にしかわからないが辛いものだろう。
「これまで違う世界のキラキラした人たちを分析して、解説するオタクだったであります。自分というモノがなく、他者に依存する存在……」
下を向いたカイはメガネのレンズが反射して、その瞳が見えない状態になっていた。
「ですが……」
カイは顔を上げて、優しげで強い意志が込められた視線を向けてきた。
「ここに来て色々なことを経験しました。ハーポン殿を助けられなかったり、何もできないと思っていた自分でもチームの役に立てたりと……。だから――」
「良い笑顔を見せるようになったな」
「だから、外の世界でもう一度がんばってみようと思うであります」
「ああ、応援する。お前はやれば出来る奴だからな」
あのドラゴンとの戦いでも、土壇場で力を発揮し続けたカイだ。
きっと、どこでもやっていけるだろう。
「はい、感謝であります! ムメイ殿の大きな背中を忘れず、これからも精進するであります! 貴殿の優勝を応援しているであります!」
実は優勝する気はなく、ラブレスと二人になった時点で棄権して優勝を譲ろうと思っているのだが、せっかくの別れに水を差すわけにもいかない。
その辺りは黙っておいて、男と男の熱い握手を交わして別れたのであった。
残ったメンバーはラブレスだけになった。
途中から様子がおかしかったのもあり、話しかけようとしたのだが――。
「ムメイさん、私も早めに休みます」
「そうか、寝る子は育つっていうしな。それじゃあ、また明日。優勝を目指そうな!」
「……」
ラブレスは返事をせず、ただ去って行った。
「うーん、俺一人になってしまったか」
〈マサムネもドラゴンと戦ったあとだし、早めに休んでおいた方がいいんじゃない?〉
〈義姉君、たぶん兄君のいつもの感じだと……〉
何やら空間魔法の向こう側から二人の声が聞こえてくるが、気にせずこれからの行動を決めた。
「よし、アルジェントと戦った感覚を忘れないうちに一人で修業するか!!」
〈剣術バカ……〉
〈さすが兄君です!〉
――そのとき、会場内にアナウンスが聞こえてきた。
『参加者の皆様方、第二試合お疲れ様でした。第三試合は明日の昼頃になりますので、それまで用意された個室でお休みになってください。なお、第三試合は〝命の共有脱出ゲーム〟となります。自らペアを選んでいただき、ゲーム中に一人が特殊な武器で攻撃された場合、ダメージを共有することになります。慎重にペアをお選びください』




