龍種
「ぎゃはは!! こっちが全高五十メートルのバカでけぇゴーレムなのに、ボスがただの人間かよ!!」
「さすがに冗談はよせよ、管理者さんよぉ。こんなの踏みつぶしちまったら寝覚めが悪いぜ……」
他のチームリーダーたちは侮っているが、この状況でボスとして投入された男だ。
エグオンの評価は最悪だが、嫌がらせに関してだけはピカイチというのは知っている。
たぶん、このゴーレムたちに対抗しうる強さだろうと察する。
その全裸男の外見は、男でも見惚れてしまうくらいの美しい筋肉をしていた。
力強さと、スリムなしなやかさも兼ね備えていて、脂肪という概念を感じさせない。
腹筋どころか脇腹も細かく割れているレベルだ。
神々を模った彫像にも引けを取らず、並大抵の肉体ではない。
表情は自信に満ち溢れていて、腰まである長い銀髪と整った野性味ある顔立ちからして長身の〝伊達男〟というイメージだろう。
全裸なのに妙に様になる男だ。
その全裸男がようやく口を開いた。
「ははは! そうか、たしかに人間から見たら体格ってぇのは重要だもんなぁ!」
人間? そう言ったのが聞こえた。
嫌な予感しかしない。
人間以外となるとエルフ種、獣人種、ドワーフ種辺りは見たことがある。
あとは伝承などで大昔に戦争をしたという機械種、悪魔種、天使種が加われば人間から忌み嫌われる六種族となるだろう。
だが、どれも聞き及んだ話からすると、この全裸男の『体格ってぇのは重要だもんなぁ!』という言葉からはズレている気がする。
そこで唯一当てはまるのが、大昔の戦争で傍観したという最強の種族が思い浮かぶ――。
「まさか、あの全裸男は……」
「いいぜ、本来のドラゴン形態を見せてやる。俺様の美しさに悦びなぁ!」
一番危険な予想が的中してしまった。
全裸男が眼を輝かせると、その身体が大きく変化していった。
黒と銀色で彩られた五十メートル級のドラゴン。
「なっ!? ドラゴンだと!?」
「ひぃぃ!?」
「おいおいおい……無理だろ……」
別のチームたちもドラゴンを実際に目にして、そのヤバさを口々にしている。
ドラゴンは巨大な翼をマントのようにはためかせ、人間形態にも劣らない筋肉質な体付きをしていた。
ドラゴンが描かれた書物で見たことのあるタイプとは違い、鳥のように手が翼となっているのではなく、しっかりと太い腕がついているタイプのようだ。
「どうだぁ、俺様の上腕二頭筋は? この大きさなら本物の山みてぇだろう?」
五十メートル規模のサイズなので、ネタではなく本当に山のような筋肉だ。
アレと戦うと考えたら正気ではない。
しかし、ドラゴンの本当の恐ろしさは別にある。
『お、お前を呼んだエグオンです! さぁ、このボクのためにゴミ共を片付けろーッ!』
横にいるエグオンがそう叫ぶも、ドラゴンの表情は急に不機嫌になった。
「俺様が認めてるのはベラドンナだけで――」
ドラゴンは指差してきた。
その切っ先は、信じられないことに見えないはずの壁の向こう――格納庫の中を正確に指し示している。
「このアルジェント・カオスドラゴンがお前みたいなクズの言いなりになるはずねぇだろ」
光線、としか言いようのない光の魔法が指先から発射された。
ゴーレムを通り過ぎて、そのままどこかへ直進――したと思ったら、格納庫の壁から突き破り、エグオンの頬をジュッと掠めていた。
熱を感じたエグオンは震えながら、その場にへたり込んでしまった。
実際の戦場から、水晶で遠隔操縦している格納庫までは数キロ以上離れているはずなのに狙撃してきたのだ。
「本気で怒らせるなよ? ブレスなら王都が簡単に吹き飛んじまうからな」
これがドラゴンの恐ろしさ――。
「存在自体が真の魔法」
ラブレスがボソッと呟いた。
そう、肉体的にも魔法的にも頂天の種族と伝えられているのだ。
それが純粋なる龍種。
竜人などの混ざり物ではない、本物のドラゴン。
最強の歴史の傍観者。
「と言っても、ベラドンナも〝コレ〟をご所望らしいしな」
そう言い放つドラゴンの目線がラブレスの方に向いた気がする。
「それに今回は特別に楽しめそうだ」
「目が合ったか……?」
次にこちらを愉悦の表情で見てきた気がする。
「いいだろう、特別に管理者のお前が敷いたルールに従ってやる。ただし、管理者。お前も本気でやれよ。さっきみたいに何もしないでバトルの味を薄めちまうなら、今度は本当に直接魔法を当てちまうぞ」
エグオンは子鹿のように震えながら、必死に立ち上がりながら声をあげた。
「ひぃぃい!! やります! やらせていただきます!! ムメイ、早く指示をくれ!! ボクはまだ死にたくない!!」
「まさかエグオン、お前と共闘することになるとはな……。しかし、俺でもわかる。全力でやらなければ届かない相手だと」




