第二回戦開始
「それじゃあ、俺はゴーレムを動かせないお荷物だが、指示だけはさせてもらう」
「もう、リーダーならもっと偉ぶっていいのにぃ」
「逆に考えて指示に集中できる環境とも言えるでありますな」
ケイが茶々を入れてきて、カイがフォローをしてくれた。
ラブレスは黙って俯いてしまっている。
緊張しているのだろうか?
『試合開始です』
ようやく始まった。
格納庫内を見ていた視線を目の前に集中させる。
そこには胴体と頭担当であるマサムネだけに見える、ゴーレムからの視界があった。
首を動かすことができないので前方だけなのだが、それでも充分だ。
ここを見て四肢に指示を出していくのだ。
なお、全5チームのゴーレムが配置されているのは、魔法で拡張されているであろう広大なフィールドだ。
地面は荒野で砂ぼこりが立ちこめ、植物などは一切見当たらない。
ゴーレムの巨体でも安定して歩ける環境となっている。
『前方から来る敵、およびボスを戦闘不能にすれば勝利となります』
続くアナウンス。
視界には自分たちと同じようなゴーレムが複数歩いてきているのが見えた。
敵カラーリングが緑と明確に違うので、敵味方の区別は付きやすい。
もしかしたら運営側が操っているのかもしれない。
まだ情報が少ない初手、ここは慎重に行かなければならないだろう。
「うおっしゃー! 一番乗りで敵の首を頂くぜー!!」
傭兵チームのゴーレムがドシンドシンと走って敵へと向かっていく。
「あっ、待ちなさい。そんなに前に出られるとこちらが魔法を放てないじゃないですか」
それに対して魔法使いチームのゴーレムが文句を言う。
他のチームのゴーレムもバラバラに動いていて、統率がまるで取れていない。
「うるせぇ! 首級をあげんのが戦場の醍醐味だろ!!」
「魔法使いのジャマをするゴミが!!」
幼稚な口喧嘩が始まり、あまり子供に見せたくない状況になってきた。
思わず溜め息を吐いてしまう。
敵はそこを狙ったのか、個別に突出してきたゴーレムを複数で囲んでガゴンガゴンと小気味良い音でサンドバッグにしていく。
まともな前衛もいないので、後方にいた魔法使いチームのゴーレムも近付かれ、容赦なく近接攻撃を叩き込まれていた。
「くっ、くそ!! 強い!!」
「おい、運営!! 敵のゴーレムの方が性能が高いんじゃないか!? インチキだ!!」
『いえいえ、むしろ敵ゴーレムの方が性能が低いですよぉ。弱い、というよりザコなのはあなたたちの方ですよぉ!』
突然、エグオンが横でそんなことを偉そうにアナウンスし始めた。
ドヤ顔が直接見えてしまっている。
たぶんコイツいつか刺されるだろうな……とすら確信してしまうほどだ。
「おやおや、ムメイさん。怖じ気づいてしまいましたか? 先ほどから戦場から離れた場所で棒立ちしていますよぉ」
アナウンスではない肉声で話しかけてきてもエグオンは同じようなノリだった。
絶対に友達がいないだろう。
「敵ゴーレムのことを大体理解した」
たぶん敵ゴーレムは本当にこちらと酷似したもので、スペックが低めに設定されているのだろう。
動きは遅めだし、四肢以外の武装もついていない。
それなのにこちら側が負けているのは、相手が強いというより、こちらがバラバラ過ぎて本来の力を発揮できていないからだ。
勝つために全チームに呼びかけた。
「お前ら、このままだと負けるぞ」
「なにぃ!?」
「くっ、そんなことはわかってますよ!」
「じゃあ、どうしろってんだ!!」
こちらの声に、敗戦の空気を感じているチームリーダーたちが反応してくれた。
腐っても、このベラドンナゲームに自ら参加してくるのだから勝つ気はあるのだろう。
「勝てる方法を教えてやろう、だから俺の言うことを少し聞け」
「必勝法があるのか!?」
「……ああ」
正直言うと勝負に百パーセント勝てる方法など存在しない。
しかし、こういう場合は見栄を張ってでも言う事を聞かせなければならない。
実際に合戦で活躍した父の教えだ。
それで負けたら酒でもおごってやればいい――と教えは続くが、さすがにそこまでは真似したくない。
「まず突出している前衛は、後衛の盾になれる位置まで下がれ。次に後衛は前衛のサポートだ。これを基本の形にしろ。適宜追加の指示をし、あとのフォローはこちらがする」
それぞれのチームには得意分野がある。
近接戦闘が上手いチーム、魔法による遠距離攻撃やサポートが得意なチーム。
それらを適切な位置で運用すれば、性能が劣る相手には勝つことができるだろう。
「ちっ、勝つためだ。仕方ねぇ」
「イノシシたちのお守りをしてあげましょうかねぇ!」
なんとか陣形を整えつつある。
敵側も気付いたのか、うまく前衛を躱して後衛を叩こうとしてきている。
いち早くそれに気がつけるのは、離れていて大局を理解している者だけだ。
「ラブレス、カイ。あの敵ゴーレムを倒しに行くぞ」
「任せてください!」
「うん、それじゃあ練習通りに――」
ラブレスのパワーある右脚の踏み込みで、まるでゴーレムが翼を持ったかのように跳んだ。
その着地を左脚のカイが巧みにアシストして、再び右脚のラブレスが大きく跳ぶ。
「な、なんだあのゴーレム!?」
「尋常じゃない動きだぜ!?」
周囲が驚きの声をあげる。
一瞬で距離の離れた敵ゴーレムまで、空を飛ぶかのように遊撃しに行ったのだから当然だろう。
もっとも、視界がすごい揺れ動いていて吐きそうになるのを我慢するのが辛い。
うぷっ……と、なりながら指示を続ける。
「この勢いを使って、ケイ! 頼んだ! たぶん頭部を殴れば終わる!」
「このケイにお任せよー!」
前方に大きく跳んでいる状態での右ストレート。
ゴーレムの重さが乗ったそれは凄まじい威力で、敵ゴーレムの顔面を打ち貫いた。
敵ゴーレムの頭部は激しく回転しながら、そのままノックダウンとなった。
「やはりな……。頭部と連動していて、激しく動かされると地獄を見ることになる……」
俺のように、とはギリギリ言わなかった。
馬車や船などの乗り物酔いはしたことなかったが、これは特別に過酷な酔いだ。
魔力の無いマサムネですらこれなのだから、魔力で密に繋がっている五人ならダメージが大きいだろう。
「みんなも敵の頭部を狙うんだ」
「っしゃ!! そうとわかればこっちのもんよ!! ついてこい後衛チーム!」
「まったく、サポートするこちらの身にもなってくださいよ。前衛チーム」
後衛が魔法で敵ゴーレムの地面を凍らせ、その隙を狙って前衛が敵ゴーレムの頭部にパンチを叩き込んでいく。
これによって次々と敵ゴーレムを沈めていくことができた。
後衛を先に叩こうとしても、マサムネチームのゴーレムが遊撃でガードしてくる。
まさに鉄壁の布陣だ。
そうしている内にすべての敵ゴーレムを倒すことに成功した。
「これで私たちの勝利ですね」
「チョロい、チョロすぎるぜぇー!」
「このゲームを考えた奴、前年と違って質を落としすぎだな。ベラドンナ女王とは格が違いすぎる」
「クビにした方がいいぜ、ははは!」
言われ放題のエグオンは、こちらを逆恨みするように睨み付けてきたあと、大声でアナウンスを始めた。
『み、皆さん! 忘れちゃいませんか!! まだボスが残っている……さぁ、出でよ!!』
転移の輝きがフィールドに見えた。
そこにいたのは全裸の細マッチョな男だった。




