魔法の国のマジックカウンター使い
「ひぃっ!? なんでこんなことに!?」
町の鍛冶屋で、見習いの男は怯えていた。
突然、ボルドーダたちが鍛冶屋に攻撃をしてきたからだ。
「貴様らは存在価値なしのマサムネと関わっていた! そして、コダマちゃんをこんなところで働かせようとしていたという話じゃないか! よって、鍛冶屋を打ち壊すことにした!」
「そんな!? 強引すぎる!?」
「やれ、石魔法で店を粉砕しろ」
ボルドーダの指示で、護衛の一人が石モチーフの短杖を振りかざした。
「ストーンレイン」
細かい石が複数発射され、鍛冶屋の建物へと突き刺さっていく。
窓ガラスは割れ、壁も粉砕されていく。
魔法で生み出された石というのは、ただの投石と違って威力が高いのだ。
「ひぃぃぃ!!」
見習いの男は情けなく縮こまっているしかない。
以前、マサムネに対しては大口を叩いていたが、魔法は鍛冶にしか使ったことがなく、戦った経験がないのだ。
「おい、テメェら。オレの店に何をしてやがる……」
そんなとき、親方が出先から戻ってきてくれた。
「お、親方ぁ!! コイツら、突然やってきてマサムネがどうとか、コダマがどうとかイチャモンをつけてきて……」
「なるほどなぁ……大体わかったぜ……」
親方は何度か見たことがあるコダマが捕まっているのを見て、思わず嘆いてしまう。
「いい大人たちが、子供相手にこんなみっともねぇところを見せて……。情けねぇったらないぜ……」
「き、貴様! 私は貴族で魔力レベル5だぞ!?」
「奇遇だなぁ、オレも魔力レベル5だ! 店をぶっ壊した落とし前を付けさせてやる! 見せてやらァ! オレのアイアンマッスルを!」
親方は見事にそり上げたスキンヘッドを光らせながら、その逞しい筋肉を隆起させた。
すると表面の光沢が高まり、鈍色になった。
その姿はまるで鋼鉄の男――アイアンマッスルマンだ。
護衛の男が急いで魔法を放つも――
「す、ストーンアロー!!」
「痒いぜ」
鋼鉄の筋肉の前に、細かい石弾は弾かれていく。
そのまま護衛の男にラリアットをぶちかます。
「ぐえぇっ!?」
護衛の男は吹き飛び、遠くの時計塔に突き刺さっていた。
「こ、これが魔力レベル5……さすが親方……」
「ちっ、私自らやるしかないか……」
ボルドーダは雷モチーフのアーティファクトを出現させ、親方に向けて呪文を唱える。
「動けなくなってしまえ、スタン・サンダー!」
「くっ」
直撃。
親方は身体をビクンとさせるが、まだ立っていた。
「ビリビリくるが、一発じゃ倒れねぇぞ」
金属の身体になる魔法と、雷の魔法では相性が悪い。
しかし、魔力のレベルが高ければ、魔力で防御をするのである程度は軽減ができるのだ。
「くそっ、相性では勝っているはずなのに……魔力による基礎的な防御か……」
「ははっ、難しいことはとんとわからねぇ。オレが立っていられるのは根性だ」
親方はそのまま鋼鉄の弾丸となって突進。
ボルドーダは焦る。
何発か攻撃を当てれば動きを止めるかもしれないが、ただ単純に最短距離を突進されてはひとたまりも無い。
「ひぃっ」
思わず小さな悲鳴が出てしまう。
そのとき、親方の後方から下品な声が聞こえた。
「ひゃっはー! 後ろががら空きだぜ、親方さんよぉ! エアロ・ボム!」
「なに!?」
それはマサムネから金を奪おうとしたゴロツキ男だった。
親方は注意を払っていなかった後方から風の魔法弾に体勢を崩され――
「チャンス! スタン・サンダー!」
「ぐおぉっ!?」
親方は同時攻撃を受けて、ガクリと片膝を突いてしまう。
鋼の肉体も硬化が解けてしまっている。
「テメェら……魔法使いのプライドってもんはねぇのか……」
「ふはは! 魔法使いのプライドぉ? 私は他者を思い通りにして、従わないものは電撃で動けなくして無様な姿を晒してやるのが好きなだけだ!」
「同意だぜぇ~」
「……クソ野郎が。テメェらなんかより、魔力がなくても立派な志を持っているマサムネの方が百倍マシってもんだ……」
ボルドーダはそれを聞いて血管をピキピキと浮き上がらせていた。
「そのマサムネと関わったから、お前は店をボロボロにされ、こうして倒れているんだろうがぁ! 馬鹿なのぉ? 状況を理解できないのぉ?」
親方は蹴り上げられ、地面を転がってしまう。
目が覚めたコダマは、拘束されながらもその場面を見て悲痛な叫びを上げる。
「やめてください!! その人は関係ない!」
「コダマちゃん、よーく見ておくんだよぉ……」
ボルドーダは剣を取り出し、雷を纏わせた。
その切っ先で親方の腕をなぞっていく。
電撃と刃物の鋭さによって、まるで刺青のように肌がえぐれ、焼け焦げる。
「ひどい! なんてことを!」
「コダマちゃんが言うことを聞けば、止めてあげなくもないよ? 私の下で服従して、そのレアな空間魔法を使ってくれるよね?」
コダマからしたら、結界のない外の世界で空間魔法を使い続けるというのは死ねと言われているようなものである。
しかし、兄のマサムネが世話になった人の危機を見過ごすわけにはいかない。
「わかり……まし――」
「うるせぇ! 乳臭いガキが大人の喧嘩に口を出すな! これはコダマもマサムネも関係ねぇ!!」
「チッ、この期に及んで強がりを……。だったら、そのまま死ねぇ!」
ボルドーダの剣が高く振り上げられた。
親方の死、そう思えた。
だが、そこに一人の声が響いた。
「それなら、その喧嘩は俺が買った」
「兄君!?」
「マサムネ!?」
何も持たず、ただフラッと歩いてきたマサムネだった。
存在価値なしと言われたマサムネが勝てるはずがない。
しかし、何か以前とは違った雰囲気を感じる。
「男子三日会わざれば刮目せよ、とは東の国のコトワザであるが……。こりゃあ……」
親方だけは眼を見て何かを悟ったらしく、それ以上は何も言わずマサムネに任せることにした。
「ちっ、あの場で殺しておけばよかったか! 即死させてやる!」
「へへ……オレも貸しがあるんで……」
「スタン・サンダー!」「エアロ・ボム!」
ボルドーダとゴロツキ男の魔法が同時に放たれ、マサムネに直撃した。
――はずだった。
「なにぃ!?」
「なんでオレが自分の風魔法に……うぎゃああああ!!」
自らの攻撃によって、ボルドーダとゴロツキ男はダメージを受けていた。
「俺はお前たち――魔法使いの天敵だ」
ギロリと睨むマサムネは、今や狩られる立場から、ドブネズミを狩り取る猛禽類の眼になっていた。




