第二回戦、ゴーレム制御チーム協力戦
第二回戦は準備時間が三十分ほど取られた。
まずはゴーレムの格納庫へと案内された。
格納庫と聞いた瞬間、参加者たちの全員がそのサイズ感を想像した。
そして、実際に到着したがその通りデカい。
「こ、これを使ってベラドンナゲームをするのでありますか……?」
魔法オタクっぽいカイも、さすがにこれは度肝を抜かれたようだ。
全高50メートル、人間よりもずんぐりむっくりとした円柱形を組み合わせたような太い腕と脚、シンプルな胴体と頭を組み合わせたゴーレム。
材質的には石に見えるが、この山のような巨大な自重に耐えているので魔法を使った特別製なのだろう。
「このゴーレムを作ったのもベラドンナなのか?」
「その通り! この国……いや、この世界最高の魔法使いであるベラドンナ女王にかかれば造作も無いことですよ!」
「それはすごいな」
今回はエグオンもいるので、聞いたらこのように解説してくれるようだ。
なぜかラブレスが誇らしげにしているが、きっと子供だから大きなゴーレムに興奮していてそう見えるだけなのだろう。
「さて、今回はこのゴーレムを操って、共通の敵と戦ってもらうことになります。一チームに付き一体のゴーレムが用意されていますよ」
何となくゲーム内容が見えてきたのだが、大きな疑問が一つ出てきた。
「一チーム五人なのに、与えられるゴーレムは一体なのか?」
「ふふふ……そこがボクが考えた最大の部分ですよ」
「お前が考えてたのか、このゲーム」
「普段はベラドンナ女王ご公案なのですが、今回のベラドンナゲームはすべてボクです」
「ああ、だから今回は何か強引なのか……」
他の参加者がボソッと呟いたが、エグオンに睨み付けられると黙ってしまった。
こんな奴でもベラドンナゲーム管理者なのだ。
「こほん。なぜ一体のゴーレムなのに、メンバーが五人か? それは――」
「それは?」
「五人で一体のゴーレムを動かすからですよ!」
「えーっと……?」
いまいち理解が追いつかなかった。
ゴーレムの動かし方というのは二種類あって、一つ目は自律型だ。
これは最初に命令をゴーレムのコアなどに刻み込んで自動的に動き続けてもらうタイプ。
二つ目は操作型だ。
こちらは常に術者がゴーレムを制御するタイプとなっている。
もちろん、これは一人の人間が一体のゴーレムを動かすというのが常識だ。
「察しが悪いですねぇ。少し考えればわかるでしょう。一人が右腕、一人が左腕、一人が右脚、一人が左脚、一人が胴体と首を動かすんですよ。まったく、これだから頭の悪い民衆たちは……」
「いや、さすがにわかる奴はいないだろ」
思わずツッコミを入れてしまった。
たぶん周囲も同じ気持ちだろう。
エグオンは随分と独特な感性をしているが、そうでもなければフォティアにあそこまで偏執的に執着することもないだろう。
ようするに頭のおかしい人間の、頭のおかしい考えということだ。
さすがにその空気を読んだエグオンは気まずそうな顔をしてから咳払いで誤魔化す。
「こほん……。まぁ、とにかく五人で分担作業ということですよ。お手本を見せましょう」
エグオンはゴーレムの前に設置されている五つの水晶球の内、一つに手を置いた。
そして念じると、ゴーレムの巨大な腕も連動して軽々と動いた。
「どうです? まぁ、私のように軽々と動かせる人間はそういないでしょうがねぇ。ほら、皆さんも試して無様さを見せてくださいよ」
「ちっ、いちいち鼻につく物言いだぜ」
苛立つ参加者たちだったが、その言葉の意味を知ることになる。
「うお、なんだこの魔力的な重さは……」
「ギリギリ動かせるが、軽々とはいかねぇな……」
「あの偉そうな管理者は態度はデカいが、実力は本物ということか……」
魔法が得意そうなチームで普通に動かすことができて、魔法にそこまで精通していない傭兵チームは苦労しつつも動かせるというくらいだ。
そしてマサムネチームも試すことにした。
「こ、これメチャクチャ疲れるわね……!」
「最適化が必要ですが、何とか動かせるであります」
ケイはギリギリ動かすことができて、カイは謙遜しているようで割と普通に動かせるようだ。
次はマサムネが動かしてみようとしたのだが――
「すまん、俺はゴーレムを操作できないようだ」
「「「「え?」」」」
考えてみれば当たり前だ。
マサムネには魔力というものがない。
TPブックによって魔法らしきものが発動できるのだが、それは通常の〝魔力〟ではない。
常人用のゴーレムが動くはずもないのだ。
メンバーたちは驚きの表情をして――いや、エグオンだけ嬉しそうな表情で驚いていたのだ。
「おや、おやおやおやおや! あのお強いはずのムメイが、たかが普通の魔力で動くはずのゴーレムを動かせないのですかぁぁぁあ!? こォれェは傑作だなぁー!!」
〈コイツ……兄君が通常の魔力使ってなかったことに気が付いてゲーム内容を作った……?〉
〈エグオンの奴ならやりそうね……〉
〈でも、そうなるとなぜ兄君がベラドンナゲームに参加すると予想できて……〉
エグオンはニヤニヤとした表情で、顔を近づけて煽ってきた。
「このチームは現状、ボクを除けば動かせるのは一人だけで、ギリギリ動かせるのが一人、そして役立たずのムメイだけですねぇぇぇえ!! あははは、いい気味だぁ!! 移動と攻撃で最低三人が必要! ボクがその気になれば協力せず、このチームは負けることになりますねぇぇええ!!」
「く……」
「ほらほらほら、頭が高いですよぉ! このエグオン様に頭を下げなさぁい! 地面にこすりつけてお願いするのですよぉ! 『どうかこのザコたちにお力添えをお願いします、エグオン様』とねぇー!!」
エグオンは気持ちよくなって身体を反り返らせながら、指をビシッとメンバーたちに指し示していった。
自分の責任だと思って苦々しい表情のマサムネ、事情が分からないカイ、すでに靴を舐めようとしているケイ、そして最後の一人――
「わ~、なんかかんたんにうごかせちゃった~」
「は?」
ラブレスは水晶球に魔力を流すと、ゴーレムの腕が瞬時に動き、指先で高速ジャンケンをするくらい熟達した動作を見せていた。
「ゴーレム操作の才能だけはあったみたい? それにしても、管理者の方はすごくつまらないルールを考えたようですね。前年までのベラドンナゲームのように、生と死を行き来するスリルを極限まで求めた芸術性のようなものがないですよ」
今まで見せた事の無いような、魔女の歪な笑顔を子供がしていたのだ。
思わずメンバーたちは圧倒されて生唾を飲んでしまっていた。
「……って! ここの参加者さんのどなたかが言ってました。ウチには意味がわかりませんが!」
「そ、そうですか……。ははは……こんな子供が言うはずないと思っていました……。まぁゴーレム操作の才能だけあっても、魔法使いとして実力は微妙というのは変わらないでしょうね……」
エグオンはビビってしまったことを必死に隠そうとするも、以前のテンションの高さは感じられない。
「ねぇ、そろそろリーダーを決めた方がいいんじゃなぁい?」
「そうでありますな、ケイ。個別の戦いならともかく、今回は協力戦でありますから」
たしかにリーダーを決めないと、まとまらない話も多いだろう。
今回の戦いは一人一人が強ければいいというものではなく、どうやって協力して勝つかというルールなのだから。
「リーダー、それはボク――エグオンに相応しい。これしかないですねぇ」
「アタシはムメイに一票」
「同じくムメイ殿に一票であります」
「ウチも~」
「な、なぜですか!? こんな何もできないムメイをリーダーにするだなんて!?」
さすがにいきなりリーダーに推薦されて驚いてしまった。
「一番リーダーっぽいし~」
「決断力がありそうですな」
「すごい人がリーダーをするのは当たり前です」
「ぐぬぬ……そこまで言うのならやってもらいましょうか!! まぁボクはリーダーの言うことは聞きませんがね!!」
なぜか勝手にリーダーが決まってしまったようだ。
本当にゴーレムを動かせないし、どうすればいいんだという感じだ。
だが、できることからやっていくしかない。
それが人間というやつだ。
「さてと、それじゃあまず決めることは……メンバーの部位配置か」
「そうねぇ、まずはそこを決めなきゃいけないわねぇ」
「単純そうに思えて、テキトーに配置すると足並みが合わずに敗北が決定するでありますな!」
「そうだな。エグオンは協力してくれないから除外するとして――」
「ふふん、わかってるじゃありませんか」
必然的にマサムネも除外することになる。
ゴーレムを動かすために最低限必要なのは、常識的に考えて両脚だ。
まずは移動できなければ何もできない。
残りの戦力が一名となるので、これを左右の腕のどちらかに配置して攻撃を可能にするというのが消去法的に正しいだろう。
「右脚にラブレス、左脚にカイ」
「たしかに安定して動かせる二人を、重要な両脚に配置するというのは正しいでありますな」
「右手にケイ」
「まかせて~。必要なときだけぶん殴るくらいなら動かしにくくてもできるから。あのババア呼ばわりした奴をぶん殴って――」
「そ、そいつが敵だった場合のみでお願いする……」
ケイは場合によっては注意が必要となるかもしれない。
「残りの左腕にエグオン、まぁ何もしないだろうけど」
「ええ、もちろんムメイのために何かすることはありえません。別にボクは失敗しても何も痛くも痒くもないですからね。アナタ達とは違い、えら~い管理者なので」
「そして最後に俺が胴体。まぁ動かせないから必然的にここになるだけともいう」
〈四肢に繋がる大事な部分、リーダーの位置に相応しいですよ! 兄君!〉
コダマからのフォローらしき声が聞こえた。
我ながら情けないが、これもできることをやっていくしかない。
そういう地道な積み重ねや努力が、何かに繋がっていくかもしれないのだから。
「さて、それじゃあ開始時間まで練習をしよう」
「は~い」
「了解であります!」
「うん、頑張ろう!」
「お手並み拝見といきましょうか」
こうして、とてもおかしなチームが結成されたのであった。




