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魔法殺しの刀使い ~魔法優位の国で不遇な剣士さん、MPではなく【TP】という謎のゲージが生えてきて存在価値なしとされた件~  作者: タック
第一章 魔法使いの天敵誕生

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魔法使いの天敵誕生

 マサムネとコダマは、しつこいボルドーダから逃げるように山小屋へ戻ってきていた。

 コダマは山奥の結界からしばらく離れると具合が悪くなるので、今はゆっくりと寝かせている。

 マサムネは溜め息を吐きながら、いつものように外にある大木に向かって鍛錬用の木剣を握った。


「コダマが良いアーティファクトをもらえたのは嬉しい。だけど、俺の武具――〝TPブック〟が不甲斐なくて情けないな……」


『武具天臨の儀式』で得たアーティファクトは、ある程度の知識が頭に入ってくる。

 逆に言うとある程度以上は頭に入ってこないということだ。

 TPブックという名前はわかったが、TPとは何なのかというのはわからない。

 ただ、現状だと何もできないというのは理解できた……できてしまったというべきか。


「落ち込んだ気分をどうにかするには剣を振るのが一番だな。……いや、そういえば『楽しいときも、怒ったときも、喜んだときも、いつも剣を振っている』とコダマに言われたことがあったな……」


 改めて、剣を振るしか能の無い男だと自虐的に思ってしまう。

 もう少し器用な生き方ができるのなら、コダマにもっと楽をさせてやれたのかもしれない。


「剣を振るしかできない、か……。って、何かTPのゲージが増えているぞ」


 木剣で大木を殴っていると、1ずつだがTPが上がってきているのだ。

 十回当てれば10増えていく。

 たぶんゲージの割合的に100で満タンになりそうだ。


「ゲージを満タンにしてみるか……?」


 魔法はからっきしだが、剣に関してなら多少は自身がある。

 目にも止まらぬ速さで90発を撃ち込んでみた。

 他者から見ればすごいと思われるかもしれないが、こんなことができても大抵の魔法使いには勝てない。

 魔法というのは距離、威力などが優れている。

 剣でも勝てるというケースはあるのだが、それは剣の間合いでお行儀良く戦闘を開始してくれる相手くらいだろう。

 大抵は離れたところから広範囲や、追尾する魔法を食らってお終いだ。

 そんなことを考えながら、剣を振り続けた。


「ふーむ、ゲージは100を超えないな……。やっぱり100で限界か。これで何か起きたりは……しないな……」


 少しばかり希望を持っていたが、それも無駄だったようだ。

 TPブックを出現させ、ページをめくって再確認してみるも何も書かれていない。

 やはり見落としなどはなかったようだ。


「いったいTPって、なんなんだ……?」

「それはきっと、〝つよいポイント〟の略かもしれませんね」


 気を緩めていたせいか、いつの間にか近くにいたコダマに気が付いていなかった。


「な、なんだそれは。って、俺は強くないぞ……?」

「兄君は世界一強いです。コダマはそう信じています」


 少し情けない気持ちになってしまう。

 慕ってくれている妹は本心から信じているのだろうが、実際はまったく違う。

 町のゴロツキ魔法使いにも負ける程度だ。

 魔力のない剣士というのは、この魔法の国では最下位の存在なのだ。


「俺は弱いよ。……っと、お客様のようだ」


 今度は気配に気が付いた。

 近寄ってくるのは男性数人、あまり戦い慣れしていないというのが足運びで分かる。


「その通り!! マサムネは弱い! ゴミだ!」

「兄君をひどく言うのは止めてください!」


 コダマがそう言ってくれるのは嬉しいが、事実なので仕方がない。


「それで何のご用で、ボルドーダさん」


 木陰から見えてきたのは、貴族のボルドーダと、その護衛らしき男たちだった。


「コダマちゃんをスカウトしにきた」


 そう言われてコダマは明らかに嫌そうな顔をしていた。

 いくら貴族に仕えられると言っても、このボルドーダ相手は嫌なのだろう。


「貴方様のような人の下へは行きたくありません。もし働くのなら、兄君も信頼している鍛冶屋の親方様のところに行きます!」

「チッ、これだから東の国の血を持つ奴らは……。まぁいい。その鍛冶屋の奴も魔法でわからせてやればいいんだからな」


 ボルドーダは何やら物騒なことを言い始めた。

 嫌な予感がする。

 マサムネはコダマの前に守るように立った。


「おっと、存在価値なしのお前は何ができるんだ? やれ」

「了解! ファイアーボール!!」


 ボルドーダは護衛の男たち――魔法使いに指示を出した。

 すると、火の魔法が飛んできた。

 こぶし大の球状のそれを避けると、背後にいるコダマに当たってしまう。

 剣と腕を盾にして防ぐ。


「兄君!?」


 爆発、衝撃、焼けるような熱風。

 直撃した腕は火傷で痛み、全身も衝撃波によって打ちのめされていた。

 耳がキーンとなり、目がかすみ、倒れてしまいそうになるのを何とか堪える。


「おい馬鹿、コダマちゃんにも当たったらどうするんだ! 大切な空間系魔法だぞ!?」

「す、すいやせん……でも、ボルドーダさんがやれと……てっきりオレたちの魔法も把握しているものかと……」

「ええい、うるさい! 役立たずめが! 私自らやる!」


 ボルドーダは雷がモチーフの杖を出現させ、呪文を唱えた。


「スタン・サンダー!」


 それは片膝を突いていたマサムネと、兄を心配していたコダマに放たれた。

 細かく枝分かれした雷が二人に突き刺さる。


「きゃあ!?」

「うぐ……」


 ビリビリとした感覚のあと、身体が動かなくなってしまった。

 地面に倒れ込み、土を舐めることになる。


「どうだ、これが私とお前の違いだ……マサムネ。お前のために小銭だが、教会に金を払ってしまったからなぁ。そのツケとしてコダマちゃんをもらっていくぞ」

「アレは……お前が勝手に金を払って……」


 辛うじて動く口でなんとか喋るが、ボルドーダが顔面に蹴りを入れてきた。


「うるさい、黙れ! 魔法に対して何もできないお前が、私に盾突こうなんぞ百年早い!」

「待て……コダマを……連れて行くな……。妹はここを離れると死んでしまう……」

「はっ、苦し紛れの嘘か。貴様を殺そうかと思ったが、あまりにも滑稽で笑わせてもらったから生かしておいてやる。どうせ存在価値なしのお前が生きていても何もできないからな」


 そう言うと、気絶しているコダマを男たちはヒョイと担ぎ上げ、連れ去ってしまった。

 腕を伸ばすも届かない。

 無力感に苛まれながら、一人になってしまった。


「コダマ……。くそっ、俺に力があれば……」


 こんな状況になってしまったのは、力がないからだ。

 力さえあれば、コダマにもっと楽な生活をさせてやれた。

 力さえあれば、コダマを連れ去られることもなかった。

 力さえあれば――。


「俺に……魔法から大切な者を守れる力さえあれば……!!」


 湧き上がる強い感情、自分自身の願い。

 そのとき、輝きを見た。

 TPブックが勝手に出現して、文字が浮かび上がってきていたのだ。

【消費TP10 マジックカウンター】

 たった一行だが、とても強調されて見えた。


「これは……?」


 そんな効果か探ろうとする前に、ボルドーダの護衛の一人が戻ってきた。


「お前のせいでボルドーダ様に怒られちまったからな……。気が済まねぇ……やっぱり殺すことにしたわ! 死ね、ファイアー・ボール!!」


 とんでもない八つ当たりだ。

 雇い主と似過ぎている。

 放たれる火の玉、直撃すればひとたまりも無いというのは一度経験している。

 迫ってくるのは死の運命か?

 いや、違う。

 そんな運命は跳ね返してやる。

 本能的に、覚えたばかりの〝TPスキル〟を使っていた。


「マジックカウンター……!!」

「なっ!?」


 勝利を確信していた魔法使いの前に、ファイアーボールが跳ね返ってきていた。

 通常なら、何かに当たれば爆散してダメージを与えるはずだ。

 跳ね返ってくることなどあり得ない。


「馬鹿なぁぁああああああ!?」


 ドォン! と大きな音が響き渡る。

 爆発の衝撃で吹き飛び、倒れる男。

 マサムネは今自分ができることを確信し、立ち上がった。


「これが俺の力……。待っていろよ……コダマ……!」

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