「一緒に来るか?」
戦いが終わり、それからすぐに村人の様子を確かめた。
仮想の箱庭から出てきた村人は、ウィッカーマンによって火傷を負っていた。
「これは酷いな」
「だ、大丈夫だ……。どこの誰だか知らないが、村とフォティアちゃんを助けてくれてくれただけで感謝だ……」
村人は火傷の痛みを堪えながら、マサムネに頭を下げようとしたが痛みでよろめいてしまう。
「無理はするな。今すぐに治療をしてやるから」
「もしかして、あんた医者かい……?」
「いや、そうではないが……ヴィジョンズ――召喚魔法のようなもので直せるはずだ。さっきみたいに頼んだぞ、赤鳥」
『ピュイィー!!』
赤鳥は大きく羽を広げて、村人達に炎をまき散らした。
「うわっ!? 炎が熱……くない? それどころか心地よく傷が治っていく……」
「驚かせてすまない。先に説明しておくべきだったな」
「ここまで広範囲の治療を一瞬でする召喚獣……こんな魔法見たことがないぞ……!?」
「すげぇ!! 火傷が治った!」
「傷痕すらない……」
「ありがとう……娘の顔に火傷の跡が残るところだった……本当にありがとう……」
マサムネは、ここまで感謝されているとむず痒くなってしまう。
正体を隠しているために、サンドイッチのお返しとも言うこともできない。
他に何か照れ隠しの良い言葉はないかと考えて――
「フォティアの協力があってこその力だ」
「フォティアちゃんの?」
それを聞いていたフォティアは、ヴィジョンズ赤鳥を生み出したときの感覚を言葉にした。
「彼と繋がって、とても深い絆が感じられた……」
「繋がって!? 絆!?」
「うん、あのとき彼とひとつになった」
「ひ、ひとつに……!?」
「そうかぁ……フォティアちゃんもついに良い人を見つけたかぁ……」
「くそっ! 羨ましい!! でも、村を救った彼なら許せる……!」
「み、みんな……? 何を?」
マサムネとフォティアだけが、勘違いされたことを理解せずに疑問符を浮かべていた。
密かにそれを聞いていたコダマはニヨニヨしている。
村人の安全を確認したあと、村の状態も見ておいた。
エグオンは誰も逃がさないために周囲を炎で囲っていたが、そのためか村自体には火が付けられていなかった。
フォティアを先に焼かないように遠くに魔法を設置していたのが功を奏したようだ。
「よかった……みんなも、村も無事で……本当によかった……」
「そうだな、間に合ってよかった」
「でも、マサムネはどうやって村まで戻ってきたの? かなり前に出発してたよね?」
「あ~……それは~……」
とても気まずい。
成人男性であるマサムネが言ったら、犯罪めいてしまうからだ。
その代わりに、背後の空間からニュッとコダマが現れた。
「義姉君の家に空間魔法の出入り口を設置しておいたのです!」
「わ、私の家に空間魔法の出入り口を……? え、えーっと……なんで?」
「いつでもデートに誘えるからです!」
「デート!?」
妹の奇行に、マサムネは申し訳なさそうに口を開いた。
「面目ない……俺もあとで知った……。ほら、コダマもちゃんと謝りなさい」
「ご、ごめんなさい義姉君……。義姉君の気持ちも考えずにやってしまいました……」
「い、いいのよ。それでみんなが助かったんだし……むしろお礼を言わないと!」
「ほらほら、兄君! 褒められてますよ!」
調子に乗るコダマに何か言ってやりたいが、助かったのは事実なので何も言えない。
「それに私も……また会いたいって思ってたから……」
「そ、そうか。フォティアがそれで良いなら、俺から何も言うことはないが……」
急にコダマの眼光が輝き、何か考えを巡らせているようだ。
「ど、どうしたの? コダマちゃん?」
マサムネも、理解が及ばないらしいフォティアと同じ気持ちだ。
これ以上、困らせてはいけないだろう。
「ほら、コダマ。そろそろ出発するぞ」
「あ……」
フォティアが手を伸ばそうとしてきて、慌てて引っ込めているのが見えた。
「フォティア?」
「そ、その……まだ……」
「ん?」
「そう、まだお礼を言ってなかったなーって思ったの! ありがとう!! 命を救われたし、みんなを助けてくれた!! 私にできることがあったら何でも言って欲しいなって!!」
「俺が助けたいから助けただけだ。気にしないでくれ。それじゃあ、行くかコダマ」
ふとコダマの方を見ると、今まで見たことの無いような『マジで信じられない』という表情で口をあんぐりと開けていた。
「こ、コダマ?」
「そうだった……兄君は剣の道に生きすぎた男でした……」
「そ、それがどうかしたのか?」
「兄君、ちょっとお耳を拝借……」
コダマがこちらにだけ聞こえるように、ぼそぼそと言ってきた。
それは提案で、何かの冗談だと思った。
「あはは、それを言えばいいのか?」
「はい!」
「まぁ、どうせ断られるが、コダマが言えというのなら言ってみるが」
マサムネはひとしきり笑ったあと、フォティアに笑顔を向けた。
「フォティア、一緒に来るか?」
「行く!」
「そうだよな、来るはずな――……え?」
両手を握りしめ、宝石のような碧眼を輝かせるフォティアは本気のようだった。
***
「俺は本当に冗談だと思ってた……」
あまりの超展開に付いていけず、マサムネは放心状態になっていた。
そこからいつの間にかコダマはフォティアの家を仮想の箱庭の中に引きずり込んでいた。
一瞬で家サイズのモノを取り込むのは難しいらしいが、時間をかけて少しずつなら可能らしい。
それから村人全員に別れの挨拶と、謎の祝福の言葉をかけまくってもらって、花嫁道具なども渡された。
放心状態のマサムネが正気に戻ったあとは外堀埋めが終わっていて、照れくさそうにしているフォティアと、勝利を確信したようなコダマが横を歩いて旅に出発しているタイミングだった。
「は?」
マサムネは自らの頬を叩いてみるが、どうやらこの超展開は現実のようだ。




