45. 君と未来へ
「君に渡したいものがあるんだ」
桜の木の下で彼が差し出したのは、リボンのついた小さな箱だった。
手のひらサイズのその箱が、まるで心臓のようにドクンと鼓動しているように見えた。
「あ、ありがとう……」
声が少し揺れる。どこか現実味がなくて、夢の中にいるようだった。
震える手でリボンを外して箱を開けると、そこには――淡い光が静かに灯っていた。
「え……これ、まるで……」
小さな指輪の中央には、小粒だけど光を反射する宝石がそっと埋め込まれていた。
それはまるで春の日差しそのもののように、確かに輝いていた。
「もちろん、そういうのはまだだけど……いつか、ちゃんとしたものは渡す。でも今の僕にできる“これからの約束”を、どうしても渡したかったんだ」
箱の中できらりと輝く光を見て、私は感動で胸がいっぱいになった。
「はるくん……嬉しい」
少しだけ涙ぐみながら、彼の顔を見つめる。
「貸して、奈々ちゃん」
箱を渡すとはるくんは私の左手を取って、そっと指輪をはめてくれた。指先が触れ合うだけで、全身がふわっと熱くなる。指輪がおさまる感覚と同時に、胸の奥で何かが始まった気がした。
頭にはお母さんの結婚式での指輪交換が思い浮かんで、私は顔を赤らめる。
「奈々ちゃん……」
「はい……」
「未来のことなんてまだ全部は分からないけど――どんな季節でも君の隣にいたい」
その言葉に、私の中で何かが静かにほどけた。
どんな時でも私のそばにいてくれたはるくん。
私もずっと、一緒にいたい。
「うん……」
私は彼と手を重ねる。心の中には“ありがとう”より大きな気持ちが満ちていた。
春の風がふたりの間を通り抜け、桜の花びらが舞い降りてくる。
花びらが頬に触れて、くすぐったくて笑ってしまう。はるくんも笑っていた。その笑顔が眩しくて、私はもう一度彼の手をしっかりと握った。
来年の春も、再来年の春も、ずっとこの桜の下で笑っていたい。
――季節は巡る。
でも私は、変わらず君の隣で、未来を見ている。
終わり
季節は巡っても――大切な気持ちは、きっと変わらないと信じています。
どんな季節が訪れても、彼らがまた桜の下で笑えますように。
最後まで読んでくださったあなたに、春のぬくもりが届いていたら嬉しいです。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
未来のどこかで、また君の隣に。




