12. 向き合いたい
(竹宮くん視点)
7月に入り、やっとモヤモヤする梅雨が明けた。なのに――僕の心だけは、まだ晴れそうになかった。
奈々ちゃんに酷いことを言ったかも。つい彼女のことが気になって疑ってしまった。
僕だってサークルに行くし大学で新しい出会いだってあるのに、自分のことは棚に上げて彼女ばかり責めるなんて。
だけどあの日見た服装は、いつもより大人っぽくて……僕の知らない誰かのために選んだのかもしれないと思うと、胸がざわついた。
「何考えてんだ、もう行こう」
週末の今日、僕はサークルで卓球の練習に行く。いつもの市民体育館だ。朝から暑さでふらつきそうになりながらも、どうにか到着する。
「おはよう! 竹宮くん」
今日はピンク色のシャツを着た笹谷さんが声をかけてくれた。彼女は華やかなのでメンバーの中でも目立っている。
「笹谷さん、おはよう。じゃあ軽く始めよっか」
「うん!」
ラケットを握り、ピンポン球を追いながら打ち返す。すると、笹谷さんも軽く返してくれる。
ああ、こういうラリーっていいよな。僕が打てば、ちゃんと返してくれる。恋愛も、こんなふうにお互いが向き合って続いていけばいいのに――。
ふっと奈々ちゃんの顔が思い浮かぶ。
その瞬間だった。
カコーン!
「え……?」
笹谷さんがいきなりスマッシュを決めてきたのだ。
まさか、追いつけなかったなんて。
「ふふっ……竹宮くん、わかりやすいんだから。考え事、してたでしょ?」
「……ごめん」
「じゃあ次いくよ?」
笹谷さんがラケットを振り抜く。どうにかピンポン球に追いつき、打ち返す。
ラリーが続いているけれど、やっぱり僕の頭の片隅には奈々ちゃんが顔を覗かせている。どうして……。
すると、また笹谷さんがカコーンとスマッシュを決めてきた。
「ちょっと竹宮くん……どうしたの?」
「……あ、ほんとごめん」
「いいよ、休憩しよ?」
水筒の水を飲んで息をつく。
「あのさ、竹宮くん」
「何?」
笹谷さんは真剣そうな目つきをして言う。
「対戦相手としての私のこと、見えてないでしょ? ちょっと寂しいよ」
「うん……別のことが頭にあって集中できなかった」
「……また彼女のこと?」
「……」
笹谷さんに迷惑かけちゃいけないのに。
僕ったら情けないな。
「仕方ないわね。私が聞いてあげる」
「え?」
急にそんなこと言われても恥ずかしいんだけど。
でも、少しだけなら……何もせず進めないのも辛いし。
「最近すれ違ってるような気がして。何というかある“考え方”が少し違ったんだよ。それ以降お互いにぎこちなくなって」
「ふぅん……」
「それに、彼女が時々お洒落していて」
「……」
笹谷さんがピンクの水筒を手にしながら答える。
「他人なんだから考え方が違うことは、よくあると思うよ。それでも相手に寄り添えるかどうかかな」
「……確かに」
「あとお洒落するのは、他に好きな人ができたんじゃない?」
水筒を落としそうになる。
僕の心臓が一瞬止まりかけた。
嫌だ――そんなの絶対にあり得ない。
なのに、他の人と会ってるんじゃないかって僕は不安になって、奈々ちゃんにそう言ってしまったんだ。
「それは違うよ……そんなの……」
僕の様子を見て笹谷さんは口を押さえる。
「あ、たとえばの話よ……ごめん」
それを聞いて僕は明らかにほっとした表情をしたので、笹谷さんに「彼女のこと、すごく好きなのね」と言われた。
「うん、あの子のことはずっと前から好きだから」
こう言った瞬間、身体がふわりと軽くなった。
――本当は、最初からわかっていた。
奈々ちゃんを失うのが怖くて、疑うという形で、そして踏み込んではいけない一線を越えそうになることで、自分の弱さを隠していただけだ。
「そう……良かったわ。じゃあ続きやる?」
「うん」
僕たちは卓球台へと歩いてゆく。笹谷さんとのやりとりを通して、少しずつ心が整っていくのを感じていた。
向き合おう――そう思った。
でも、不安ってすぐに消えるものじゃない。
きっとこれからも、僕は迷ったり、ぐらついたりするんだと思う。
それでも逃げないでいたい。
その度にちゃんと奈々ちゃんの方に、もう一度向き直せる僕でいたい。




