11. 女子会
「ハァ……ハァ……」
急いで家に帰ってきた。まるではるくんから逃げるように――そんな自分が嫌になる。
誰かに会ってるんじゃないかって言われてしまった。
そろそろ気づかれるかもって思っていたけど、実際にああ言われると胸が痛くなってくる。苦しい。
でも今日は……松永先生に会ってきた。
だから嘘をついてるのは私のほう。
一緒にウィンドウショッピングをしてきた。用事も決めず、街中のお洒落なお店に入って2人で話した。
先生がいてくれたので、大人びた雑貨店にも足を踏み入れることができた。
初めて見る世界、隣で笑ってくれる先生――ただ、ふわふわした気持ちになってるだけ。苦しさから目をそらしたくて、先生の優しさにすがっている――そんな気がする。
怖いものから逃げて、甘い場所ばかり探して……本当にこんなのでいいのかな。
先生に会えて嬉しいはずなのに、何だか不安になってくる。
テーブルにバッグを置いて、スマホを取り出すとメッセージが1件――これは。
『奈々美ぃー! 彼氏と別れた! 会ってー』
すみれちゃんだった。
別れちゃったんだ……私もすみれちゃんに話したい気分。
『うん、会おう!』
※※※
7月に入った。梅雨が明けてジリジリと厳しい暑さになる。週末、すみれちゃんと美味しいランチを食べに行った。
「奈々美……つらいよぉ」
向かい側でうつむくすみれちゃんに私は「いくらでも話聞くよ」と言う。
「あのさ……相性が合わなかったの」
「ふぅん」
「……身体の」
思わず手が止まった。
からだの……?
頭の中で言葉がリフレインする。
「毎回つらくて、お互いに良くないねっていう話になって……しかも浮気された」
「はぁ……」
まるで漫画に出てきそうな話だ。
私は前菜のサラダをフォークで食べながら頷く。
「男の人って結局……それが目当てなのかなって思っちゃう。そんなことない人もいるだろうけど」
「あぁ、わかるかも」
私がそう言うと、すみれちゃんがじっとこちらを見つめた。
「……竹宮くんもそうなの?」
飲み物の氷が溶けてカランという音が響く。
「……うん。5月ぐらいだっけ。急に押し倒されて」
「それで?」
すみれちゃんがその後を期待するかのように、私の言葉を待っている。
「……怖いって言ったら、ゆっくりでいいよって」
「……いいじゃないの、それ」
コーンスープのスプーンを置いてすみれちゃんが絶賛している。
「男の人だから、そういう欲があるのは仕方ないんだよ。だけど……ちゃんと奈々美のこともわかってくれてるじゃん」
「うん……そうなんだけどさ、それ以降なんか気まずくて」
「なるほどね、実はショックだったのかもってやつね」
チキンの香草焼きが運ばれてきた。すみれちゃんは嬉しそうにスマホで写真を撮っている。
「やっぱりはるくんのこと、傷つけたかな?」
男の人のことは、まだ完璧に理解したわけではない。本当は何を考えてるのだろう。つまらない女だって思われていたらどうしよう。
「奈々美、男の人って私たちが思った以上に拒まれると辛いんだって。プライドもあるじゃない。だけど女の人だって体調とか事情もあるでしょう? お互いさまだと思うの」
「お互いさま……?」
すみれちゃんはチキンをほおばりながら頷く。
「結局、好き同士なら相手のこと考えられるでしょう? 事情を話して納得して……2人のペースでいくしかないのよ」
「そうか……」
「けど、竹宮くんはすでに奈々美のこと受け入れてくれてるから、普通にしてたらいいんじゃない?」
……そうかもしれない。
だけどもうひとつ私には……あの人のことがある。
すると、すみれちゃんが全て知っているかのように口を開いた。
「で、本当は松永先生のことが気になってるんでしょ?」
――言葉に詰まる。
やっぱりすみれちゃんにはわかってたんだ。
「……そう。時々会ってるの」
「え……!?」
目を見開いて静止するすみれちゃん。
そうだよね、はるくんがいるのにこんなこと……。
「それ、もちろんお母さんは知ってるよね?」
「最初に会ったのは知ってるけど、それ以降は知らないと思う」
「それはまずくない? いや、先生がもし義父になるなら、会っててもいいのかなって思っちゃうけど……え? でも、やっぱりわかんない!」
お水を一口飲んで、すみれちゃんがふぅと息を吐く。
「奈々美は、先生のことどう思ってるの?」
「うーん……一緒にいると癒されるかな。いっぱい褒めてくれるし優しいし。何でも知ってて尊敬できるの」
「……それって、ただ先生に甘やかされているだけかもよ?」
「確かに。そんな気はしてた。けどつい……」
すみれちゃんがうーんと腕組みをして考えている。
「義父だとして、多少は甘えてもいいと思うからセーフかもしれないけど、恋愛感情はアウトだからね?」
「そうだね」
「竹宮くんとも、仲良くするんだよ? あんな一途な人いないんだから」
はるくんの一途さが、時々プレッシャーになるんだけど……。
それでも自分をこんなに好きでいてくれるのは、きっと彼だけに違いない。
私はすみれちゃんに「ありがとう」と言った。
少しだけ、気持ちがすっきりして前を向ける――そんな気がした。
今度こそはちゃんと歩いていきたい。誰かに甘えてばかりではなく、自分の足で。




