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名無しの権兵衛

だいたい三百年ちょっと前の話、江戸時代の頃、重要指名手配されている侍がおった。

通り名は「名無しの権兵衛」

奴はあらゆるところに神出鬼没に出て来ては何事かをやっていき転々と次の町へと漂流している侍だったそうだ。

かの有名は商売人の者は奴をこういった。

「あれはただの暇人だ。なにも成し遂げる夢がないから適当にほっつきまわって他様に迷惑をかけて自己満足に浸っているだけの取り留めもない奴さ」

街や町やと様々なところに訊いたとてその評判に変わりわなくただのおかしな暇人として扱われているだけだったそうだ。

おかしなというと彼がそう言われているのは帯刀している刀の諸刃がみねになっている所に由来する。

名無しの権兵衛の被害者は顔を出さないでいたのもおかしなところだ。

そういう私とて暇な藩士であったから一目見てみたいものだと心から何度思ったか。

そうしてふつふつと心滾らせてばかりで数か月がったったあるとき、藩にとある噂が蔓延した。

いわく、「名無しの権兵衛が死んだ」のだそうだ。

どうも居ても立っても居られず内容を追求してやると具に説明してくれた。

そいつが幕府にとらえられたのは一か月も前の事。

なんでも万引きをした貧乏人をひっとらえて物売りの人間に返してやっていたところが見つかって拘束されたらしい。

刀から本人だと照合されてそのまま幕府にまで持っていかれた。

名無しの権兵衛の名前は本当に何もなかった。そいつは男だったから彼と呼ぶが、彼はえた・ひにんの身分だったらしい。

なんでも身分に収まって断頭の担当になったある日、自分の中にある罪悪感や偽善の心が苛んでそのまま脱走したらしい。

それから何をすることもないから天下の大泥棒よろしく大名から金を盗んでそれを部落らに散布してやったり今回捕縛される理由にもなった犯罪者の取り締まりなんかをしてお礼の品で暮らしていたそうだ。

とここまでの弁明があって、きっと権兵衛の執行に任命されていた奴も罪悪感が苛んできたのだろう。

断頭当日となった日、お役人の前で処刑することとなった執行人のそいつは、その刀を一切振り下ろさなかった。

その下賤な心映えに苛立った周りの役人が代わりと言ってどちらの命もたってやったのだ。

俺は大笑いした。

見苦しくてありゃしない。

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