淑女
山の奥地に人間を大人にさせるマジシャンがいる。
私はその人に会ってみたくてとある山家に行ってきました。
その日どれだけ反省しても寝れば全て忘れ去って全快してしまう異常な楽観性、幼稚さをどうにかして直したかったのでしょう。
矯正されようとも図太さは図太く残っているだろうけど、なぜか直してくれる気がしてたんです。
縋る気持ちでたどり着いた山家は案外小さい所で、丸太をそのままあつらえてできたDIY色の強い建物で、暖かさを抱えながらその木のドアを叩いて聞いてみました。
「ごめんください。マジシャンはいらっしゃいますでしょうか」
宿主の返答は背後から帰ってきた。
「どうしたどうしたどうした」
不覚にも肩をびくつかせて振り返ると、若そうな男がいました。
山の奥地なのに身だしなみは整えられていて、涼しそうな灰色のシャツとその上に藍色の羽織を着けていました。
「マジシャンが修行を付けてくれるって話があって」
「あぁ、なるほど。にしてもHP見た?一回電話かけないとダメじゃない?大丈夫なの?君」
「一応連絡は…」
「おっけおっけおっけおっけ、はい入って」
「失礼します」
そういわれて私は彼の言う修行部屋とやらに連れていかれました。
部屋自体は長方形なのだが、端の方にぎゅうぎゅうと部屋の物が押されて丁度正方形の空間を創り上げていたのです。
その領域の四隅にはLEDの灯篭があって、真ん中にはアラジンの絨毯みたいなものが敷かれていましたた。
これからいったい何をするのだろうと考えているとマジシャンが絨毯に脚を乗せたとき問いかけました。
「お金は?」
「お金は別にいいです」
「ん?もしかしてちょっと頭悪い?払ってよ」
「?でもHPには書いてなかった…」
「いやいやいやw普通、常識的に考えて用意するでしょ。それは」
「お金って言っても行き帰りの交通代しかないので」
「え、それでよくいままで生きてこれたねーw、こわー」
「ちなみに払わなきゃいけませんか?」
マジシャンは私のその質問を無視して部屋の外に出てしまいました。
するとまだ私がいるのに部屋の電気を消して再び手ぶらで山奥に行ってしまいました。
何をしに行ったのか気になって彼の後をついてみることにしました。
傾斜と大きな石がある雄大な林間を彼だけの道を通っていました。
ぬかるむ土に足を滑らせながらも彼の後を追っているとついに足を止め、とある民家に入っていきました。
それは立派なバンガローで、本殿となる家ともう一つ筒状の離れが設営されていました。
マジシャンは筒状のところに入ってしまいました。
ここまでくると爛漫な好奇心が溢れてその中を見て見たくなったのです。
離れの扉上部は丁度スコープくらいのすりガラスになっていたので、見えにくくも覗いてみました。
しかしやはり状況が掴めなかったので、ログ壁の波状に阻まれながら耳を当ててみることにしました。
「でも…僕だけじゃ」
「なぜできない」
「その…なんか病気っぽくて…」
「ほう」
「ずっとぶつぶつ一人で喋ってるんですよ…。…話しても聞く耳持ってなさそうだったし、殺されそうって思ったっていうか」
「だから来いと」
「はい」
彼の虚言に腹が立って私は離れの扉を勢いよく開けた、しかしそこには丸太しか残っていなかった。