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淋しさを抱えて

雪山で遭難しても、そこが未開の地だったら誰も助けには来てくれない。

いくつ太陽が昇っても雪は解けないし、私は露出しない。

雪崩に包み込まれて安楽死したこの身体を太陽のもとにやってくれるなら、やっと私は浄化できるだろう。

凍えた時計の針が生きづらそうに軋んでいる、もし私の肌であっためられたらこの子の淋しさも紛らわせれる。バッグの中ぱんぱんに詰め込んだ食料たちは乾パンの中で閉じこもっている。今も陽の目を待って。

私は彼らの声を聴いている。

「たいちょー」と何度も呼ぶ幼気な声。

もう口のない私には答えることが出来ない。

もし誰かが答えてくれるなら、彼らの寂しさも紛らわせられる。

思えば涼しい触感も忘れていた。

年を重ねるにつれ地球の平均温度が上昇していくという異常に見舞われていたのだが、ある年から四季を冬が踏破していって、砂漠の地面も冷たくなるほどになった。地球とは到底いいがたい極寒の中で私たちは暮らしてきた。クーラーの手入れも業者に頼んだりして、あと床暖房も設置したな、その瞬間耐え忍べるだけの設備の中でぬくぬくと過ごすのが常になっていた。前々から寒い地域なんて酷いニュースばっかり流れていた。やれ水道が凍結だの、渋滞が起こってるだの、…ただ日に日に住民の方が少なくなってきたからそんな話も次第に消え失せていった。

過去のことを立ち上っていると日の光が私の白目に差し込んできた。私は氷漬けにされて海洋に浮かんだのだ。

何かに突っかかったおかげで大航海を中断できた。そこはどこかの国の沿岸で、ゴミの掃き溜めになっている。私の隣に置いてあったのは勝手に電波を受信して放送し続ける壊れたラジオ。それは途切れ途切れになりながら情勢を語り続けた。

世界人口が激減したこと、今人間にも宇井を振るっているこの超巨大寒波は他の星が原因になっていること、何処かの大統領同士が何かを締結してロケットを作っているらしいこと、そこに日本はいないこと。

それ以外はノイズばかりだった。

長い年月をかけてとどまった場所も遂に濁流がやってきて、私は再び大海原に棄てられた。

久しぶりの澄んだ空気に、冷たくなった全身が光を讃える。

照らされる私たちの行く末を視界の限り見送って、別れを告げた。

私は今どこにいるのだろう。

「たいちょー」という声はもうどこからも聞こえてこない。

他の私はどこに行ったのだろう。

氷の棺は今日もどこかで彷徨っている。

淋しさを抱えて

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