4つ目 晴れ晴れしい爆音
とある年の、とある爆音がよく響きそうな夏。私は、私たちは蝉の声を疎みながら今日という本番に立ち向かっていた。
この場にはいま全国爆音大会地区予選にエントリーした、計38校の高校が集まっている。人数にして延べ五百人。この予選に勝ち上がった上位3校が全国の舞台へ立つことができる。
ちょうど一年前。去年の予選で見事に敗退してから更なる爆音を奏でる為に仲間と研鑽してきた。ときには寝る間も惜しんで。ときには最終下校時刻を過ぎても部室に残り、先生に鬼の形相で追いかけられて。そんな日々も今日の一瞬のため。今日の待ち望んだ瞬間があと数分。すでに38校のうち30校の審査が終了している。爆音大会は近隣住民への配慮もあり奏でられるのは原則一度だけ。審査方法は某年末お笑い番組の方式である。最高点は500点で、審査基準は気持ちいいか。どうか。
「さあ、もうすぐだな。最高の爆音を鳴らそう」
部長である私が言えば私除く15人が応える。
《はい!やってやりましょう!》
そうしてあっつい円陣を組んだ瞬間、”続いては西飛駒高校です。”という聞き飽きた進行文が聞こえてきた。
私含む部員が一斉に特設ステージへと上がり、手短に爆音発生装置の設置が行われる。設置が完了。
我々の装置はかなり昔に流行った古の黄色いチキン。あのうるさいやつを爆音が鳴るように改造したものだ。
面白さ重視ではあるが、本命はそうでない。我々が聞いた中で、一番気持ちのいい爆音を奏でるためにこれ以上のものはない。
爆音発生装置としては異様な姿形をした装置を目の前にした審査員席はざわついている。今に見てろよ。
「よろしくお願いします」
そう言ってから装置起動係に目で合図を送る。起動方法はチキンを思い切り踏みつける。
踏みつける三秒前、今までの記憶が走馬灯のように蘇ってくる。来年の雪辱を果たす。今、ここで。
3。2。1。ZUBYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaann...........
ああ。すっばらしい。今、1年ぶりに。この会場に。我々の爆音が響き渡った。
「それでは、審査の程をお願いたします」
清々しい気持ちで決まった一言を放ち審査結果をその場で待ち望んだ。
ああ。なんと素晴らしい爆音だったのだろうか。
ああ。実に。実に。晴れ晴れしい爆音であった。
その後、我々は無事に予選落ちであった。37位