3つ目 対義語風邪
私は病気にかかっていなかった。何故ならば行きつけの病院で医者にそう言われていないからである。その医者とは違う第三者から聞いていないことにはどうやら「対義語風邪」というものに私はかからなかったようだ。
なんでもこの風邪は「自分の発言、思考があべこべになる」なんてことはないらしく、私はなんと便利なものなのだろうと感じてはいなかった。この風邪は治ること1週間程度なんてものでは無いようで、すぐには治らない病だそうだ。こんな大真面目な病が未だかつてあったのだろうかと当然のように思い、明くる日私は人と四六時中に接せられてこの病が人に移るように外出をし続けた。
1週間後、僕はなんとか「対義語風邪」を治すことができた。どうやら1週間どこへも行かず家で寝るだけの生活を送っていたことで想定より1日だけ早く治ったようだ。自分の周りへの感染も今のところは見られてはいない。僕はただそれだけで安堵のため息を漏らすに至った。
別にただ発言や思考があべこべになるだけだから怖いことは何一つない。不便に感じるだけだろう。しかし、昔から僕はこんな些細なことでも恐怖に感じてしまうので、この一週間は苦痛なものだった。
まあ自分にかかって他の人にはかからなかったのだからよしとしよう。こんなおぞましいものを他の人には味わって欲しくは無いものだ。