2つ目 恋する学校
うちの学校が恋をした。それも中学校に。高校がだ。
こんなわけが分からないことになったのはつい今朝のこと。
「あんたぁ!今日学校休みだってぇ!臨時休校ぉ!」
「なんで?今日天気いいじゃん」
紛うことなき日本晴れなある日。ある訳がない臨時休校を親に言い伝えられた。
こちらとしては願ったり叶ったりなことだが、奇妙な休校なので、念の為理由を聞いてみた。
「お隣の中学校に恋したんだってぇ!」
は?
訳が分からない。訳が分からないことに訳が分からない事をブレンドされた訳の分からない事象が目の前で起きている。
「なんでそんなことなってんのぉ?」
「知んないわよぉ!気になるなら行ってみなさいぃ!」
確かに気になる。学校が恋をしたという。無機物なのにだ。そんなもの見に行くしかないであろう。
普段なら布団から起き上がるのも気だるいが、今日ばかりは違う。今後絶対にないであろう程に活発に服を着替え、自転車で学校へ向かった。朝ごはんはいらない。
「やっぱり人多いなぁ」
快晴だったはずの空は気付いたら薄暗く曇っていた。
学校に着くとガヤガヤとうるさい局団達と近所からワラワラと集まってきた野次馬の群衆に学校が囲まれていた。とにかく校舎に入ろう。うちの学校は休みでも中に入れる。防犯性の欠けらも無い。
「すみません通りまぁす、中入りまぁす」
そう言いながら校舎に入ると、すぐ先生達が井戸端会議をしていた。
「どうしたんですか?学校が恋だなんて」
「ん?あぁおはよう上田。どうしたもなにもそのままだ」
うちの担任が言う。相当困っている様子だ。
「困ったもんだねえ。先生方、どうしましょうか」
「いや、校長先生。これはどうにもできないですよ……」
「じゃあ、俺、話聴いてきますよ」
おお本当か!助かるなあ!率先して行動を提案すると先生たちが目を輝かせてきやがった。
話を聴くとはなんだ。本当になんなのだ。よくわからないが自分で言ってしまったものなのでやるしかない。
俺はなんとなく屋上へ向かった。
「ッチ。まあじでうるせえなあ人間共。人が恋愛してんのに」
「えなに学校って恋すんの?無機物なのに?」
学校が独り言を言っていたので初見の反応で朝と同じリアクションをしてみせた。
「ん?ああ上田?そりゃあ僕だって生きてるんだもん。するする」
はえぇ。不思議なもんだ、学校が生きているなんて言うのは。
そもそもどこから喋っているのかもわからないのに。
「なんで俺の名前を知ってるのかはいいから姿見せてよ。知りたい」
「いいよ〜ちょいまち」
渋られるものかと思ったがぱぱっと準備をすませて出てくる男子高校生のようにすぐ見せてくれた。学校の体はすでに見えているのではと頼んでから思ったが、見せてくれたし細かいことは気にしない。
姿はなんの特徴もないただの高校生だった。強いて言うならうちの制服っぽいだけ。
「んで、誰のこと好きなの?」
「おいおいおいおい、いきなりすぎるって!……聞いちゃう?」
「聞いちゃう聞いちゃう」
えぇ〜と渋りながら数十分してからやっと言ってくれた。そこは渋るのか。変なやつだな。
「実は隣の中学校ちゃん。百個下なんよね」
「えまじで?意外なんだけど」
意外ってなんだよと恥ずかしそうにしている。さすがは建造物。年の差カップルも驚きの年の差恋愛だ。
腹が立つくらい青春を謳歌していてうらやましい。俺もしたい。彼女欲しい。
「んで、するの?告白。しろよ」
「ええなんでよ!振られたらどうすんの」
だめだムカつく。恋してるだけで告白しないやつすごいムカつく。
「いいから、隣にいるんだからいけるでしょ」
「何その理論。まあ、いいや……じゃあ今日夕方ね」
「おし、じゃあ頑張れよ!俺も陰で応援するからな」
おし、よくやったぞ!俺!そして頑張れ学校!
じゃあまた夕方に来るからなと一旦別れた。何やってんだ俺。
時は夕方になり、俺は屋上と扉を1枚挟んで挟んだところにいた。ここが1番声がよく聞こえる。
上手くやれよ、うちの学校。
「高校くん、どうしたの?隣にいるのに呼び出してさ」
「い、いやぁちょっと言いたいことがあってさ」
顔は見えないが高校はかなり緊張しているようだった。
「じ、実はさ…僕好きなんだ!中学のことがっ!」
「えっ、!?」
高校、よくやったぞ!!だが喜ぶにはまだ早い。告白というのはここからなのだ。
中学さんはかなり驚いた様子だった。恐らく気づいていなかったんだろう。
「じつは、ね?」
「う、うん」
高校がゴクリと唾を飲むような気がした。
「私も……う付き合ってるの!」
うわあ。一番最悪なパターンだ。中学さんから放たれた言葉は彼を心を押し潰した。
「そ、そうなんだねあっははそっかそっかごめんね変なこと言って」
その後、彼女は近くにある小学校の近くへ移設された。