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八話 勇者の下着

 少し落ち着いて家事をすると、それほど大変ではないとおもった。


 一人で暮らしているからか、洗濯物も洗い物もそれほど溜まってはいなかったのだ。アッシュ様が普段からキチンとしているんだろう。


 やる気に漲っていたから、なんだと少しがっかりしてしまう。気持ちが空回りした気分だ。


 いや待てよ? ここで私がきちんと優秀さを見せつければ、アッシュ様の私への見方はどうなる?


 普段のアッシュ様以上に家事をやってみれば・・・・・・。


『君、凄いな。どうやったらこんなボロいシャツを奇麗にできるんだ? まるで絹のようじゃないか。君の肌と同じだ』

『えへへへへ……。なにも特別なことはしていませんよ♪ 普段通りにしているだけです♪』

『この食器も……君の手が加われば美術品と大差がないほど。これで食事をとると、いつもより美味しく感じる』

『そ、そんなぁ……♡♡ アッシュ様、褒めすぎですよおお……♡』

『もう一生側にいてほしいくらいだ』

『え……それって……?』

『結婚しよう』


 きゃあああああああああああああああああああああああああ!!


 早い!! 早すぎるよおおおおお!! まだ出会ったばかりなのに!!


 落ち着け私!! 流石にそれは安直すぎる!! もう少し冷静に考えないと!!


 そう……冷静に……!


『これ、どうやって作ったんだ? 美味しすぎる』

『えへへへ……特別なことはしていませんよ~~~♪ ただドラゴンの生き血とマンドラゴラのバルサミコ酢風の煮込み汁を組み合わせただけです♪』

『なるほど……君は天才なんだな。一生食べたいくらいだ。結婚しよう』


 きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!


 はぁ、はぁ、はぁ……漲る……!


 よ~し、やるぞ!


「はい、ストップ」

「ぐえ!」


 早速取り掛かろうとしたときだった。私の首が締まったのは。


 いつの間にか背後に立っていたらしいメヌエットが、服の襟を掴んでいたのだ。


「ちょ、主を窒息死させようとするなんてひどくない!?」

「今の私はリルチャンのお姉ちゃんだし?」


 くそ、無駄に作った設定を遵守しよってからに。しかも敬語じゃなくなってるじゃないか。


「リルチャン、家事したことないでしょ?」

「ないけど?」

「どうしてそこで堂々と言い切れるの……」


 はぁ、と溜息を吐くメヌエット。なんだか失礼でムッとしてしまう。私を誰だとおもっているんだ? 四天王だぞ?


 自慢じゃないけど、努力と根性と実力で成り上がった女だぞ? 家事なんてしなくてもできるに決まってるだろ。


「あのねぇ、リルチャン? 家事も勉強や鍛錬と一緒。やり方を学んでないのに、ぶっつけ本番で最初からできるわけないでしょ?」

「大丈夫。メヌエットがいつもしてくれているのを見ていたから」

「……見て覚えるなんていうひと昔前の職人みたいなやり方、好きじゃないなぁ。そんな簡単にできるものじゃないんだよ?」

「ええ~~~・・・・・・」

「それに、それで失敗してアッシュ様が見損なったらどうするの?」

「う、」

「もしかしたらアッシュ様に迷惑をかけることになるかもしれないんだよ? そんなんじゃアッシュ様に逆プロポーズなんて夢のまた夢だよ」


 ………ぐうの音も出ない正論だ。


 メヌエットのおっしゃるとおり。少し浮かれていたけど、一番の目的はアッシュ様のお役に立つこと。好かれることはそりゃあ優先したいけど、それで逆効果に繋がったら意味がない。


 まずはメヌエットに教わって―――――。


 って、ちょっと待てよ? 今こいつ逆プロポーズって言わなかった?


「第一、いくらアッシュ様が純粋とはいえ、会ってすぐの人にそんなこと言わないだろ

うし」


 おい。


「というか、ドラゴンの生き血とマンドラゴラで煮込んだって料理には使えないよ」

「心を読むなよ!!」

「リルチャンの口から出てたよ」

「嘘ぉ!?」


 恥ずい! まずい! あわわ、アッシュ様にも聞こえてた!?


「なので、まずはお姉ちゃんと一緒にやってみよう」


 ほ、よかった。聞こえてなかったみたいだ。


「わかった……よろしく頼むよメヌエット」

「こ~ら。違うでしょ?」

「へ?」

「お姉ちゃんでしょ?」


 ………………………………。


 そこ重要かな?


 いや、でも普段から姉妹のフリはしておいたほうがいいかな?


「お、お姉ちゃん?」

「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っっっ!」


 テンション上がりすぎじゃない? もしかして、ただ呼ばれたいだけ?


「よ~し、じゃあ張り切ってやっていこ~~~。えいえいおー」

「お、おー?」


 何故かテンションが上がっているメヌエットの隣で、家事に勤しむことになった。


 困惑していたけれど、メヌエットの教え方はとてもわかりやすかった。初めてする私でもなんなくできるくらい。そりゃあそうだ。メヌエットは私の元でずっと身の回りのお世話をしていたんだから。


 慣れない食器洗いも、メヌエットのおかげで早く終わった。次はお洗濯だ。アッシュ様は近くに流れている小川で衣服を洗っているらしい。


「じゃあ桶と手洗に水を掬って。その中でこう…ゴシゴシ―って汚れを落としてね」

「よしきた!」


 簡単な説明を受けて、手に取ったものを桶に入れる。まずはアッシュ様の下着だ。それを擦って汚れを………。


 アッシュ様の・・・・・・・・・。


「・・・・・・・・・・・・」

「リルチャン?」


 アッシュ様の・・・・・・・・・下着・・・・・・・・・って、アッシュ様が履いていたってことだよね?


 それを今私の手の中にあるんだよね・・・・・・・・・?




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