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七十一話 これからのことを話します

「いやはや。どうなるのかね~~~・・・・・・」


 呟きながら、ゴッツは城を眺める。修復作業にとりかかってはいるものの、まだ瓦礫が撤去されていないし資材の搬入も完了しきっていない。集めた職人や指示を出す使用人、途方に暮れている騎士達のほうが目立っている。


 外側から見ると所々壊れている城が、これから自分達が体験するであろう苦難を想像せざるをえないのだ。


 今回の騒動以上の・・・・・・・・・。もしかしたら、繰り広げた冒険や魔王軍との戦争以上に激しく険しい争いが待っている。そんな想像を。


 今回の事件は、それほどまでに衝撃的なものだった。仕えている王族の一人、ソフィア王女が魔王軍と繋がっていた。現在ソフィアは軟禁されているものの、関係者は枚挙に暇がない。


 四天王ドラグニルだけではなく、双方に協力し、仲介した人物達も浮び上がっているのだ。


 更には、魔王の創り出した魔道具のこともある。今回は魔王の魂を封じ込めていた類いの物でクリスタの調査によれば既に効力を失っている。


 しかし、これだけではなかったら? 魔王が創り出した魔道具が他にもまだまだたくさんあるかもしれない。それは一体どこに、手に入れた者はなにに使う?


ゴッツにつられたエリオは、城を眺めると悔しそうに顔を歪めて舌打ちをする。個人的に、交戦したベルとリルウルのことを思い出したのだ。取り逃がしてしまったという自分への情けなさが、怒りへと変わる。


「調査しなければいけないが・・・・・・・・・あの四天王達の行方も気懸かりだ。僕はそちらを優先したいとおもう。君は? クリスタ」

「ん? ん~~~~ん~~~ん~~~♪」


 エリオに問いかけられたクリスタは上機嫌だった。彼女は魔王が創り出したという魔道具に夢中だ。加えて捕らえている四天王、ドラグニルのことも調べる許可をもらっている。


「はぁ、お前さんはいつもどおりだね~~。なぁ、シド? お前さんはどうおもう?」 

「?」

「いや、そんな風に小首を傾げられても困るんだがな」


 三者三様の反応を見せている中、シドは両手一杯に食べ物を抱えている。そのうちの一つを口に入れ咀嚼、口に入れ咀嚼・・・・・・・・・を繰り返している。頬をパンパンに膨らませながら食べているシドはまるでリスのようだ。


「変わらない」

「あん?」

「今までと、同じようにする。それだけ」


 どこまでもマイペースなシドに、ゴッツは苦笑いをするしかなかった。本来なら事件の元凶に従っていたのだから、シドも軟禁か拘束されてしかるべきなのだ。


 それでも、今こうして自由に過ごせているのは英雄の一人で、ゴッツ達が国王達を説得し、そしてシド本人が情報提供をしたからだ。


「ゴッツ達が命ずるなら、王女のときのようにアッシュを監視する。お風呂にはいつ入るのか、お風呂で最初に洗うのはどこか。トイレに行くのは何回か、寝るときどんな体勢をしているのか。報告する」

「しなくていい・・・・・・・・。というかなに? あの王女、そんなことさせてたわけ?」

「まったく・・・・・・・・・恋は盲目とはよく言ったものだ。アッシュ?」

「・・・・・・・・・・・・」

「アッシュ?」

「ん、すまん。なんだ?」


 四人がそれぞれの考えに耽っている中、アッシュはぼ~~っとした様子で過ごしていた。なにも考えていなかったわけではない。頭の中ではある女の子のことについて頭が占められていたのだ。


 彼女に騙されていたことに対しての憤りは、ない。助けられたことと共に戦ったことに対する、感謝の気持ちさえ芽生えている。


 しかし、素直にそれらを自身の中に落とし込むことができていなかった。長年復讐を志して、魔族を大勢殺していた過去も完全には消化しきれていない。


 要するに、今のアッシュはリルウルに対して自分がどのような感情を持っているのか・・・・・・・・・・・・わからなくなっているのだ。


 考えれば考えるほど・・・・・・・・・・・・一緒に過ごしていた時間を思い出してしまう。リルウルの笑顔が、慰められたことが、正体不明の心臓の荒ぶりさえも生じさせる。


「なぁ、アッシュ。お前はどうしたい?」

「どうしたいって・・・・・・・・・・・・・・・」

「四天王を追うかい? まだどこかに隠れているかもしれないよ。あの小娘」

「それとも、魔道具を探す? 探しちゃわない?」

「アッシュ?」


 仲間達の視線が、アッシュに集中する。


 聖剣の返上が撤回されることになったので、アッシュは今も勇者のままだ。おそらく、これからも。


 勇者としてなら、すぐに決断することができる。どのような選択をするのが正しいのかも。


 だが・・・・・・・・・。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・俺は・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「「「?」」」

「アッシュ・・・・・・・・・悩んでる?」


 シドがアッシュの袖を、クイクイと引っ張りながら尋ねた。子供っぽい仕草と純粋な瞳に、ついアッシュは言い澱んでしまう。


「なんで?」

「なんでって・・・・・・・・・・・・・・・」

「なら、簡単。すぐ解決」

「え?」

「えいっ」

「むぐ!?」


 突然、シドがアッシュの口に食べ物を突っこんできた。それも一つだけでなく、次々と突っこんでくる。喉が詰まって呼吸困難になりかけた。


「おいなにすんだシド! やめてやれ!」

「? 美味しい物食べてお腹いっぱい。そうすればどうでもよくなる」

「それはシドだからこそできる解決方法じゃないかな!?」

「というか、根本的解決できてないよ? 棚上げしてるだけだよ?」

「? 棚に上げてない。食べ物はアッシュに」

「「いや、そうじゃなく」」

「げふ! はぁ、はぁ・・・・・・! 死ぬかとおもった・・・・・・!」

「はぁ・・・・・・・・・はは! ははははははは!」

「なに笑ってるんだゴッツ!」

「いや・・・・・・ひひひ! ひ~~~・・・・・・・・・! なんだか昔みたいだなっておもったら・・・・・・難しく考えてるのが馬鹿馬鹿しくなってよ・・・・・・! それで笑いが・・・・・・!」

「お前なぁ~~~・・・・・・・・・!」

「けどよ。簡単で、いいんじゃねぇか?」

「え?」

「俺達がやらなきゃいけないのは、山ほどあるだろ? それに、これからこの世界はどうなるのかもわからねぇ・・・・・・だったらよ。アッシュ自身がなにをしたいのかで考えりゃあいい」

「俺、が?」

「あ、それいいね~~」

「うむ。ゴッツにしては珍しく同意できる言葉だね」

「ん、さんせい」

「・・・・・・・・・そんなんでいいのか? 勇者だぞ? 俺」

「勇者だろうとなんだろうと、同じだ。お前も、一人の人間だろ?」

「たしかに。昔から勇者だからこうしなきゃいけない。こうするべきだ、という考えがアッシュの行動指針になっていた節があるからね」

「ほら、クリスタとシドを見てみろよ。どこまでも自由だろ?」

「ん?」

「?」

「・・・・・・・・・そうだな」


 ふと、頬が緩みそうになった。


 先程までアッシュを支配していたあらゆるモヤモヤが、綺麗さっぱり消えた感覚さえもした。


「ありがとう、シド。それと皆」


 微笑みをたずさえながら、アッシュはシドの頭を撫でた。仲間って、良いものだとおもいながら。


 そして、一つのことが浮かんだのだ。自分の、したいことが。


「なぁ、皆。俺さ・・・・・・・・・・・・・・・」


 仲間達の反応を、半ば想像しながらアッシュは告げた。


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