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五十二話 ぶつかりあい

 相撲。元々ゴッツの故郷で盛んだった格闘技の一種だ。


 元々は別の大陸から伝わってきたものだと聞いてはいたが、皆で旅をしているときに仲間内で相撲はよくしていた。意見が対立したとき、喧嘩をしたとき、相撲の勝敗で解決を図っていたのだ。


「俺が勝ったら、お前は勇者を続ける。んでもって、リルチャンに告白する」

「はあ!?」

「俺が負けたらお前は勇者を辞めて俺達も引退する。ついでにリルチャンに告白する」

「ちょっと待て! 急すぎるだろ! そんなこと承知できるか!」


 というかどっちにしても告白するんじゃねぇか! どういうことだ!


 というか告白ってなんだ!

 

 そうおもっているアッシュを置き去りにしてゴッツは既にやる気になっている。昔と同じように服を脱ぎ、褌になって四股を踏んでいる。


「人の話聞けよ! 俺達怪我してんだぞ! 傷が悪化したら―――」

「はっけよ~いのこった!」

「くそったれえええええええ!」


 アッシュの了承など得ないまま、ゴッツはぶつかってきた。


 なんとか踏ん張ったが、不意を突かれる形となって、負けそうになる。しかし、「あああああああ、くそお!」と、ゴッツに突っ張りを喰らわせ、一旦距離をとる。


 そうして自らも服を脱ぎ、褌になってゴッツへと突貫していく。一種の諦めの境地だった。


「お前、本当に、はぁはぁ・・・・・・それでいいのか!?」

「はぁはぁ、なにが、だよ・・・・・・!」

「このまま勇者を、辞めてだよ・・・・・・!」

「ああ、いいんだ・・・・・・! 俺には戦う理由がないからな・・・・・・!」

「じゃあ、はぁはぁ・・・・・・なんで、はぁはぁ・・・・・・! 隠棲したとき返さなかった!?」

「!」

「なんで、四天王と遭遇したとき戦った!? はぁはぁ・・・・・・なんで無視しなかった!?」

「それは・・・・・・」

「隙ありいいいい!」

「ぐああああああ!」


 少し力が抜けた間を、ゴッツは見逃さなかった。褌を持ちあげ、アッシュを投げようとする。股間に褌が食いこみ、傷にも響くのでアッシュは堪らない。


「ぐ、おおおお!」

「おう!? おお、いいぞおお! はぁ、はぁ・・・・・・!」

「そ、それは、一応まだ、勇者だから、はぁはぁ・・・・・・!」

「責任って奴か!? はぁ、はぁ・・・・・・嘘つけ!」


 アッシュも負けてはいない。ギリギリで耐えて、今度はゴッツの股間を食いこませて持ちあげに入る。


 それをゴッツは耐え、二人の力が完全に拮抗する。


「おおおおおおう! ぐ、ぐううう! お前は、守りたかったんだ・・・・・・! 人々を! それにリルチャン達を!」

「!」

「昔と戦っていた理由とは・・・・・・違うのかもしれねぇけどよ・・・・・・はぁはぁ・・・・・・! そういうの優しさや正義感っていうんじゃねぇの!?」

「そ、そんなの・・・・・・ぐあ、ああああああ!」

「はぁはぁ、俺達だって、そういう優しさに助けられたんだぜ!? ただ魔王を倒すためだったら、俺達を助ける必要・・・・・・ねぇだろ!」

「ぐ、お、お、それは~~~~おおう!」

「だから、聖剣はお前を選んだんじゃねぇのか!? リルチャンだって、お前を慕ってるんじゃねえのか!?」

「!」

「悩んだっていいじゃねぇか・・・・・・! 今、戦う理由がなくったって・・・・・・わからなくったって・・・・・・! だったら、見つけりゃあいいだろ! これから!」


 そこで、限界だった。アッシュとゴッツは体勢を崩し、二人同時に倒れこむ。体力的にも限界だったので息を荒げながら、ぐったりと重なり合う体勢のまま動けない。


「はぁ、はぁ・・・・・・。それに、もし返上してもお前以外に扱える奴なんて、見つかるか? 見つからなかったらどうすんだ? それこそ問題じゃねぇか」

「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・それは、そうだが・・・・・・」

「ち。というか、なんで一人で勝手に決めんだよ。隠棲した理由だって聞いてねぇぞ」

「それは・・・・・・・・・」

「仲間だろ」


 何気ない一言だった。しかし、確実にアッシュの心に響いた。


 不意に目元が熱くなり、涙が溢れそうになる。


「はぁ、はぁ・・・・・・ゴッツ・・・・・・ありがとな」

「へ。よせやい水臭ぇ・・・・・・」


 そのときだった。


 部屋の扉が突然、勢いよく開け放たれた。


 そして「はぁ、はぁ、アッシュ様!!大変です!!」と、深刻そうなリルウルが入って来たのだ。


「この城に内通者が―――あ?」


 リルウルは、そこで止まった。というか、体が硬直した。まるで石像のようにアッシュとゴッツを見つめている。


「はぁ、はぁ、うう、なんだ?」

「はぁはぁはぁ・・・・・・だ、誰か来たのか?」

「な、な、な、」

「! いや、これは違うぞ?」


 何故かはっ!? となにかに気付いたようなゴッツが、取り繕うようにあわあわとしだした。アッシュは自分が褌いっちょうでいるのを見られているのが急に恥ずかしくなり、体を隠そうとした。


 パリ。


「?」


 なんだ今のは?


 リルウルの体から、一瞬何かが爆ぜた。小さい雷のように見えたので、アッシュは目を疑った。


 それからパリ、パリパリ。バリ、バリ、と。連続で発生する。次第に爆ぜる間隔が短く、数と規模が大きくなっていく。


「リルチャン? おい?」

「一体なにが?」


 近寄ろうとして、アッシュは不意にある記憶を想起した。かつて、今と同じ光景を見たことがある。しかし、それは絶対にありえないことだと自分に言い聞かせる。


「あ、は、」


 バリィ。


 何故なら、その現象を引き起こしていたのは、魔族だった。魔王軍幹部の四天王の一人で、『魔陣紋章』という特別な力によるものだ。魔族ではないリルチャンが、扱えるわけがない。


 しかし、これは・・・・・・。


 バリバリバリバリバリバリ。


 彼女を包んでいる、青白い閃光。そして左手に輝く見覚えのある紋章。それに気付いたとき、アッシュはゾクッとした。身の毛がよだつ、得体のしれない化け物と遭遇したときと同等の、緊張感だ。


「リル、チャン・・・・・・君は一体・・・・・・」

「は、は、は、」


 何者なんだ?


 そんな問いかけは、届かなかった。


「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 絶叫。


 次いで閃光がアッシュの視覚を、聴覚を、支配して体を吹き飛ばした。


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