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五話 発見からの危機

 アッシュ様がいたのは、人里離れた森だった。


 世界を救った英雄が住む場所にしては、ひどく不自然だ。貴族のような屋敷を持つことも贅沢な生活を送れるというのに、長閑で静か。アッシュ様以外には人っこ一人いない。狩人か世捨て人でなければ、わざわざ住むことを選ばないだろう、辺鄙な森だ。


「ねぇ、リルウル様・・・・・・・あれが勇者なんですよね?」

「うん・・・・・・・・・」


 でも、私とメヌエットは、今そんなことに対する疑問は消え去っていた。探し当てる間に苦労したことも、魔界から出て人族にバレたらどうしよう! とか。魔界との違いに右往左往していたこととか。


 やっと見つけた! という感動すらも消失している。


「間違いなく、アッシュ・バーンズガイズなんですよね?」

「うん・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 全ての思考を消し去るほどの光景が広がっていたからだ。


「・・・・・・・・・・・・なんでふんどし一丁で素振りしてるの?」

「私が知りたいよ・・・・・・」


 アッシュ様はメヌエットの言う通り。ほぼ裸だった。


 それだけじゃない。そのまま素振りをしていたのだ。

 一心不乱なのだろう。顔と体から汗を流しながら真剣な面持ちで、聖剣を振っている。


 いや、本当になんで?


「あ、わかった。人違いですよ。あの人、きっと偶然森で暮らす露出癖のある変態なんですよ」

「それはそれでおかしくない?」


 なにはさておき、あの人がアッシュ様であることは間違いない。写し絵そのままだし、ここに来るまでに聞いていた特徴とばっちり一致している。


 明るめの長い茶色の髪に、翡翠を連想させる切れ長の瞳。なにより、手に持っている剣・・・・・・聖剣があの人を勇者であることを証明している。


「でも、リルウル様の憧れの人は、変態だったということになりますけど」


「ぐ、ぐぬぬ・・・・・・! なにか事情があるんだよきっと・・・・・・!」


 本当に、なんでアッシュ様はふんどし一丁なんだろう?


 いや、なにはともあれようやくアッシュ様に会えたんだ。いつまでもこうしているわけにはいかない。草むらに隠れて眺めているだけじゃ、流石に――――。


「・・・・・・・・・あ。ねぇメヌエット」

「はい?」

「どうやって声をかけよう・・・・・・?」

「えっ」


 驚きと呆れたという二つの感情が交ざったリアクションだ。「考えてなかったんですか・・・・・・・・・?」という視線も。だってしょうがないじゃん!! あんなに恋い焦がれていた存在に会えたんだよ!? どんなことを考えていたって吹き飛んじゃうじゃん!!


「い、良い天気ですね、とか?」

「こんな森で初対面の子からその無難な挨拶は不審がられますよ・・・・・・」

「よぉ! 元気!? なにしてんの!? とか?」

「そんなフランクさじゃ怪しまれますよ・・・・・・! お友達じゃないんですから・・・・・・!」


 ああでもないこうでもない・・・・・・! くそ、まさか初手からこんなことで出鼻を挫かれるなんて!


 ああ、折角会えたというのに、こうして眺めていることしかできないなんて!


 ・・・・・・・・・・・・。

 

 ・・・・・・しかし、アッシュ様良い肉体しているな・・・・・・。


 痩せ型ではあるけど、筋肉質だ。二の腕も胸筋も良い具合に膨れている。腹筋も見事に割れていて、まさに男である! というのがはっきりわかる。


「じゅるり・・・・・・」

「リルウル様?」


 なんだろう・・・・・・不思議な感情がわき上がってきた。


 今までアッシュ様を考える度に抱いていた暖かなものじゃない。体の芯が疼き、火照ってきるような・・・・・・。


「獲物を見つけた捕食者の目をされていましたよ」

「な、なんでだろう。私狩りとか苦手なのに――――――って、ん?」


 そんなときだった。アッシュ様の視線が突然こちらに向いたのは。


「くせ者おおおおおお!!」

「きゃああああああああああああああああああああああああ!!」


 閃光が飛んできた。


 アッシュ様がこちらに振りかぶった聖剣の刃から放たれたのだろう。凄まじい勢いで轟っっっ!! とまっすぐ迫ってくる!


 間一髪、メヌエットと共に横に飛んで事なきを得たけど、危なかった。私達がつい今までいた場所は地面からぱっくりと割れ、凄まじい破壊の痕を残している。


 それを見て、さっきの閃光は斬撃だったんだと遅れて恐怖した。


「メ、メヌエット! 平気か!?」

「だ、大丈夫ですけど」

「何者だ!」

「!?」


 すぐ目の前に、アッシュ様が立っていた。冷たい眼差しでこちらを見下ろし、聖剣の切っ先を向けている。


 わぁ、アッシュ様だあああぁ・・・・・・♡♡


 本物のアッシュ様がこんな近くまで・・・・・ふわああああああ・・・・・・♡


「・・・・・・まさか魔族か?」


 まずい!! いきなりバレた!! でもどうして!?


「ち、違います! 私達は魔族じゃありません!」

「じゃあその耳と尻尾はなんだ?」


 あああああ! そこか!


 ローブでここまで隠してきたけど、攻撃を避けた勢いで出ちゃってたんだ! 


「し、信じてもらえないかもしれませんけど・・・・・・本当なんです!」

「魔族じゃないのなら、一体何者だ!」


 あ、あわわわわわわ。ヤバい。どうしよう。出会って早速バレそうになるだなんて。


 ようやく再会できたのに・・・・・・!


「ど、動物です!」

「は?」

「昔、アッシュ様に助けていただいた動物です!」

「へ?」

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