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四十三話 同志

 話し初めて、一体どれくらい時間が経っただろうか。


 正体がバレないか、恋敵だとおもわれて物騒なことをされないか。ビクビクしながら話し続けていたけど、おもっていた子とは違った。


 むしろ、めっちゃいい子じゃん!


 ニコニコと朗らかに、身分的に格下な私達にも丁寧だ。敬意と優しさがあるからこそできる振る舞い方だと、はっきりわかる。


 加えて、アッシュ様という共通の話題が私達を盛り上げた。アッシュ様の良いところ、素敵なところ、ちょっとしたことで「いいよね~!」「アッシュ様ってそういうところがありますわよね~!」とウキウキキャッキャウフフできたのだ。


 はぁ~~・・・・・・楽しいな。


 今までアッシュ様への気持ちは秘密にしていたから、こんな風に誰かと仲良く話せた体験がないから新鮮だ。もっと早く誰かとしておけばよかった。


「はぁ、リルチャンさん。今日はお会いできてよかったですわ」

「それは、こちらこそです。まさか王女様とこんな話ができるだなんて」

「私も・・・・・・・・・。アッシュ様のことをお慕いしている人はたくさんいますけれど、中々深いところまで盛り上がれる人がいらっしゃなくって」

「そうなんですか・・・・・・」

「リルチャン様は、アッシュ様のことを本当に愛していらっしゃるんですのね」

「! あ、あい、愛してりゅ・・・・・・にゃんて・・・・・・えへへへ・・・・・・それほどでも~~~・・・・・・なぁメヌ?」

「あ、お茶のお代りいただけます?」


 照れてしまいメヌに振ってみたものの、そもそも興味がなかったらしい。いつの間にかメイド達とお茶菓子について盛り上がっている。


「で、でも王女様も相当アッシュ様のこと愛していらっしゃるんじゃありませんか!?」

「はい、無論です!」


 喰い気味だった。それも誇らしそうに胸を張りどや顔をしている。ソフィアの持つ気品さと王女という身分とギャップがあり、つい吹出しそうになってしまう。


「あんな素敵な殿方、この世界に二人と存在していませんでしょう? 寡黙でクールで努力家で身分やお金や女性に興味を持たず戦いに明け暮れて真面目で優しくって」

「そうそうそれにちょっと天然なところがあるけれどそこもギャップがあって可愛いしご飯を食べているとき若干子供っぽくなるところとか」

「ああ! たしかにそういうところありますわね! 

「「きゃああああああああああああああああ!!」」

「うちの主がすみません・・・・・・」

「いえ、こっちの妹も・・・・・・」


 はぁ、楽しいなぁ。


 初めてここに来たときの緊張が嘘みたいに、もっともっとソフィアと一緒にいたいとおもいはじめている。

 こんなに共感しあえてアッシュ様のことで盛り上がれる人なんて早々いない! 私お手製のアッシュ様(人形)を渡してもいいくらいだ! きっと喜んでくれるに違いない!


「あ! そうそう! アッシュ様といえば体臭もいいよね!」

「え・・・・・・・・・?」


 あ、あれ? なにかおかしい。


 つい今の今まで盛り上がっていたソフィアが固まっている。今なにを言ったんだ? と胡乱げだ。というか部屋全体が急激に寒くなっていっているような気配が。


「体臭・・・・・・ですか・・・・・・?」

「え、う、うん?」

「どういうことですの?」

「い、いや。私、アッシュ様と一緒に暮らしているから・・・・・・」

「から?」

「家のあちこちにアッシュ様の匂いが漂っていて、常にアッシュ様を嗅いでいるみたいだな~~とか?」

「とか?」

「あと、アッシュ様の服や下着の洗濯もしているから、そのときにも・・・・・・・・・」

「にも?」

「あ、あの?」


 っていうか近い!


 段々と私の顔に自らのを近づけてきてる! しかも表情は変わっていないし、目もなんだかおかしい! からこわいことこの上ない!


 ちょ、メヌ! 助けて!


「ごめんなさい。お手洗いをお借りしても?」


 逃げやがった!


「リルチャンさんは、アッシュ様の匂いを嗅いでいられる、と?」

「え!? か、嗅いでいるというか、感じているというか。脳みそにダイレクトに伝わるほどだというか」

「なるほど・・・・・・そういうことなのですね・・・・・・」


 どういうこと!?


 なんで突然ソフィアがこんなかんじに!?


 あ、もしかして・・・・・・ソフィアってアッシュ様の匂いを嗅いだことがないのかな?


 よく考えれば、アッシュ様の香りの詳細なんて、一緒に暮らしていたり超至近距離じゃないとわからないし。


 だとすれば、私悪いことしちゃったのかな?


「他には?」

「うぇ?」

「他には、どんなことがありますの?」

「え、ええっと・・・・・・・・・」

「ソフィア様。よろしいでしょうか」


 超至近距離にまで迫っているソフィアに、メイドの一人が声をかけた。「国王陛下がお呼びです」という問いかけに、彼女の眉尻だけがピクリと動いた。


「お父様が?」

「はい」

「・・・・・・・・・・・・リルチャン様」

「は、はい」

「お会いできて、本当に楽しかったですわ。どうぞゆっくりしていらっしゃってね」


 少し離れて、ニコリと笑いながらドレスの端をちょんと掴み上げ。そのままソフィアは退室してしまった。扉が閉まってから私の体はズルズルと椅子から滑り落ちてしまう。


 生き返ったような心地に陥りながらも、急に全身から力が抜けていく。


 はぁ、こわかった・・・・・・。

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