三十九話 対面
まったく、アッシュ様の事情も知らないくせに、なんて酷い国王だ!
世界を救った英雄にもっと配慮しろよ! きっと偉そうで不遜で自分以外の者を道具としかおもっていない最低な顔をしているに違いない!
「私、陛下に会ったら一言物申しますね!」
「突然どうした!?」
「だって許せないですもん!」
スパン!
「あうっ!」
「ごめんなさい~~~~~~~。この子ちょっとまだ緊張してるみたいで~~。ね?」
「う、うんごめんお姉ちゃん・・・・・・」
「な、ならいいが。お腹減ってないか? お菓子とお茶があるから自由に食べていいぞ」
うう、ちょっと暴走しかけちゃったな。
ここは落ち着かないと・・・・・・。アッシュ様にも迷惑をかけることになるし。
・・・・・・しかし、この椅子ふわふわだな。一体どんな素材を使っているんだろう。スライムかな? 私の尻尾とどっちがふわふわだろう?
「どうした?」
「いえ、ちょっと椅子が気になりまして」
「ああ。良いよなこれ。うちにもこういうのがあったらとはおもうが、特注らしいしな」
「アッシュ様もこういうふわふわな椅子、ほしいんですか?」
「ほしいっちゃほしい。家にあるのは固いし古くなっているし。体が痛くなりにくいだろう」
そうか、アッシュ様は椅子が欲しいのか・・・・・・・・・・・・。
いいなぁ、椅子は。アッシュ様に求めてもらえて。
私の体が・・・・・・いや尻尾が大きかったら、代わりに座ってもらえないかな?
「でゅふふ・・・・・・はぁ、はぁ」
「?」
おっといけない。つい想像して涎が。こんなことしていたら、またメヌに容赦なく叩かれてしまうぞ。
「ふんふふんふふ~~~ん♪」
しかし予想に反して、メヌはいつまで来ようとしない。それどころか鼻歌を歌いながら何かを書いている。なんだろう?
「なにやってるんだ? メヌ」
「いえいえ。ただちょっとお城の見取り図を」
「ぶふぉおお!!」
なにやってやがんだこいつ!!
「ん?」
「ちょ、ちょっとメヌ―――お姉ちゃん!!」
嫌な予感がした。
この状況で魔族であるメヌがそんなことする理由に、心当たりがある。というか一つしか思い至らない!
「なんのためにそんなことするの?(ヒソヒソ)」
「情報収集のためだけど?(ヒソヒソ)」
「やっぱりか!!」
お前さっきよく私のこと叩けたな!? 私よりよっぽどヤバいことしてんじゃないか!!
もろスパイ活動だよ! 王族に文句言うより遙かに重罪だ!
「え~~~。だって魔界に帰ったあと、リルウル様の代わりに四天王様達への誤魔化ししないといけないじゃない~?」
「もう私が死んだあとの具体的な行動を見据えてる!? やめろ縁起悪い! 万が一バレたら帰れるどころじゃないんだぞ!」
「ありがとう・・・・・・リルウル様・・・・・・あなたの優しさは忘れません。ぐすんぐすん」
「私が身を呈して庇ったみたいな台詞やめろ! むしろお前に全てをなすりつけたい気分だわ!」
「なんだ? 二人してコソコソとなんの話をしている?」
「ひぎい!? い、いえ、あの、しょの」
「リルチャンがここにマーキング(犬の習性)してもいいかって話を」
「ちょ、おい!?」
「・・・・・・流石にやめておけ?」
く、くそう! 適当なことを! 本当のことが言えない私達の状況とアッシュ様の純粋さを逆手にとりやがって!
絶対痛いめにあわせてやる!!
「アッシュ・バーンガイズ様。お待たせいたしました、どうぞこちらへ」
怨嗟の視線を向けていると、とうとうお呼びがかかった。そのまま案内されて、玉座の間へと向かう。
高い天井と石造りの広大な空間は、清潔感と豪華絢爛さに満ちている。けれど、どこか息苦しい閉塞感があり、冷たい緊張感が漂っていた。
中央から伸びる赤い絨毯が一本、玉座へと真っ直ぐ続いて、その先に歳五十を越えたとおぼしき王が、その脇には家臣達が控えている。
一歩一歩近づくにつれて王の、そして家臣達の、多数の衛兵たちによる眼差しを具に監察することができた。無機質、尊敬、恐怖、感謝、憧憬、訝しみ、侮蔑、不信。ありとあらゆる感情の色だ。それらが全て、アッシュ様へと注がれている。
うう、こわい。
「よく来たな。アッシュ・バーンガイズよ」
王の前に来たと同時に跪いたアッシュ様に、王が声をかけた。同じように真似をしながら会話に耳を傾ける。
「それで、その娘達がそなたの?」
「は。恩返しにと訪ねて参りましたが、今ではすっかりお世話になりっぱなしです」
「そうか。しかし、最初は驚いたぞ。そなたが女性を二人伴ってくるとは。妾でも囲ったのかと口にした家臣達もおる」
「!! お、お戯れを・・・・・・!そのような間柄ではありません!」
ガーン!
「いや、別に疑っておるわけではないが」
「絶対に! 有り得ません! そんなこと!」
ガーンガーンガーン!!
「そうか・・・・・・・・・まぁならばよいが」
へへ、いやわかってたよ? 別に期待なんてしてなかったよ?
でも、ここまで必死に否定されると、うん。アッシュ様は私を完全に女性として意識していないってことでしょ? クスンクスン。
「ププ、必死だねアッシュ様」
やかましい。なに笑いこらえてんだメヌこら。一応王の御前なのに主に追い討ちかけてんじゃねぇよ。
「まぁ、それならばよい。王女も気にかけておったでな」
「!!」
王女。アッシュ様の元へ押しかけたばかりのときの記憶が蘇る。たしかゴッツ様がアッシュ様に惚れてるって言っていた。
そんな王女様は、王族だから当然このお城に住んでいるってことだよね? そしてそんな王女様がアッシュ様を気にかけているってことは?
・・・・・・・・・。
あばばばばばばばばばば。
まずい。まずいまずい!
「して、陛下。このたび、呼ばれた件なのですが」
「おお、そうであったな。そなたの仲間達については聞いておるか?」
「あちこちに出没している魔族や魔物、そして転移魔法のことで調査していると」
「そのとおり」
アッシュ様と国王がなにか話しているけど、それどころじゃない。今の私には、王女のことのほうが一番大事だ。
王女様のことをなんとかしたい!




