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三十二話 過去

「ああああ、あ、アッシュ様! なにをしているんですか!? そんなことをしたら!」

「鈍っているからな・・・・・・少しでも早く動けるようにならないと」

「だからって早すぎます! 傷がまだ治ってないのに!」

「平気だ。それに、こうしないと君達の世話を受け続けることになる」

「!」


 アッシュ様の一言で、私は愕然としてしまった。さっきのメヌの言葉と考えが、合っていたんだと確信できてしまった。


「迷惑、でしたか?」

「なに? おい! なんで泣いてるんだ!?」

「だって、だって・・・・・・!」


 涙が止められない。アッシュ様があたふたとしだした。浮かれていた自分が馬鹿みたいだ。そして最低だ。そうおもうと、どんどん涙が流れ落ちる。


「迷惑だとおもってない。逆だ。俺が君達に迷惑をかけてしまっているからだ」

「ふえ?」

「君達に負担をかけてしまっているし、それに両親だって心配しているんじゃないのか?」

「それは・・・・・・私達のことを考えていると?」

「・・・・・・まぁそれもあるな」


 とぅんく♡


 なにこれ。やだこれ。めっちゃ嬉しい!! 真逆じゃん! なんだよメヌの奴余計な不安を与えてくれちゃって! というかアッシュ様優しい! 自分が大変な状況なのに他の人を気に懸けられるなんて!

「ありがとうございます! でも大丈夫です! 私の両親はもう死んでるんで!」

「・・・・・・・・・そうか」


 あ! まずい失敗した! あからさまに「悪いこと聞いちまった」ってテンションになったよ! 私の馬鹿!


「ああ! でもでも元々大した両親じゃなかったですし! どっちかっていうと碌な思い出ないんです! 戦争の影響で死んじゃったので苦労させやがってってすらおもってます!」

「そうか・・・・・・俺と一緒だな」

「そう、アッシュ様と同じって、え?」


 小さく笑っているアッシュ様に、きょとんとしてしまった。そういえば、アッシュ様の家族について聞いたことがなかったから、軽く驚いてしまったのだ。


「俺の家族も、戦争で死んだ。厳密にいえば、殺されたんだ。魔王軍にな」

「っ、」

「村も焼かれて住む場所も失った。それ以降、孤児院に拾われるまでは乞食より大変だったな」

「・・・・・・そうだったん、ですね」

「勇者に選ばれたときは、天啓だっておもったよ。魔族を、魔王を殺せるって」


 私が知っているのは、勇者になってからのアッシュ様だ。それ以前のことは、知らない。きっと私だけじゃなく、他の人も詳しくは知らないだろう。過去のことを短く語ったアッシュ様の瞳には、炎が宿っているみたいだった。


 それは、憎悪かもしれない。


「憎んでいますか? 魔王軍を・・・・・・魔族のことを」

「正しくは憎んでいた、だな」


 疲れたのか、それとも別の理由か。ベッドのほうに移動したアッシュ様に、私は尋ねていた。尋ねずにはいられなかった。瞳の憎悪は陰を潜め、何かを思い出すように壁に立て掛けられている聖剣を見つめている。


「君も知っているかもしれないが、聖剣は元々王国の宝でな。建国した初代国王が、様々な方法で作った特別な剣だ。初代国王以外は持てる代物じゃなかった」


 ごめんなさい初耳です。魔族ですから、勇者が所持しているとか凄い力があるってことしかわからなかったんです。はい。


 それからも説明が続くから言えないけれど、とにかく。その聖剣は誰にも扱えないから、ずっと宝物庫に入れられていた。魔王軍が襲来して滅亡の危機に瀕したとき、聖剣が日の目を浴びた。


 この剣を扱える者は、魔王軍を討ち滅ぼす選ばれし存在だと喧伝し、鞘から引き抜ける者達を募集した。その結果、アッシュ様だけが聖剣を扱うことができ、勇者と呼ばれるようになったのだと。


 それから数年間、アッシュ様は訓練をした。魔王軍と戦えるように。そうして魔王軍や魔物と戦うようになった。


「世界を救うとか人々を守るとか、どうでもよかった。ただ、殺せる力を手に入れられた。そんな満足感しかなかった」そう悲しそうに笑うアッシュ様に、心臓がきゅっと絞られる。


「仲間と出会って一緒に旅をして、人々を助けるようになって感謝されるようになっても、湛えられるようになっても、足りなかった。もっと殺したかった。殺して殺して殺して殺して。皆殺しにしたかった。目に入る魔族を、誰だろうと殺した。酷いときには楽に殺さないで嬲り殺しにした。手足を斬り落として下顎を斬り落として上半身をまっぷたつにして、死を乞わせてから殺すなんてことも、いつもやっていた」


 言葉が出なかった。残酷な行為の数々にゾッとしたからじゃない。


 私の知っているアッシュ様からは想像できない姿だ。そういう理由だけじゃない。


 話せば話すほど辛そうになっていくからだ。


 「四天王を倒して、魔王軍を追い払って。遂には魔王すら倒せた。それでも、終わらせられなかった。俺の復讐は」


 復讐。はっきりとした単語に、ついゾッとする。


「こっちに残っている魔王軍の残党も、魔界に逃げた魔王軍も、根こそぎ追った。追い詰めて狩って狩って狩って狩りまくった。徹底的にやってやる。俺が死ぬか魔族が滅びるか。そのどちらかまで続けてやるってな」

「でも、アッシュ様は今引退を?」

「そうだ。あることがあってな」

「あること?」

「俺の仕事は、魔王軍と戦うことだけじゃない。人族同士の争いにも駆り出されてな」

「え、人族同士の!?」

「そうだ」

「お、同じ種族でですか?」

「平和になったからだろうな。取り戻した領土を分けるため、手柄を奪い合って。金のため立場のため身少ない物資を分を守るため。そういう問題や犯罪が多くなってな。それを解決しなければいけなくなった」

「は、はぁ」


 そういえば、いつか聞いたことがある。昔の魔界のことを。


 魔王様が魔界を統べるまでは、魔族同士でも争うことは珍しくなかった。むしろ日常茶飯事だったって。それと似たかんじなのかな?



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