三話 誤魔化し
「な、な、な、なにを言っているんだメヌ・・・・・・そ、そそそそそそんなこと、あるわけがないだろう?」
まさかの異常事態に、私の頭は爆発寸前だ。視界は台風みたいにグルグル回っているし、思考が纏まらない・・・・・・!
お、落ち着け・・・・・・! まずは落ち着いて対処しないと・・・・・・!
「わ、私は魔族だぞ! 誇り高き獣人族の長にして、四天王の一人だ! 魔王軍を率いる立場だぞ! なのに我々の天敵にして仇敵である勇者に恋愛感情を抱くだなんて、ありえるわけないだろ!」
よし、完璧だ・・・・・・! 隙が一切ない完璧な理論武装! 対するメヌエットは「んん~~~・・・・・・」って、反論できずにいるし! ふはは! 勝った! 伊達に四天王にまで成り上がったわけじゃないんだよ!
わかったらさっさと吹きだした紅茶とカップを掃除するんだな!
「というか、根拠はなんだ!? 私が勇者、アッシュ・バーンズガイズに恋愛感情を抱いてるという根拠は!?」
「写し絵持ってるよね?」
「!?」
「あと、勇者を模した人形も。等身大で」
「が、あ、あぐあ?」
な、何故・・・・・・それを?
細心の注意を払っていたのに・・・・・・。
メヌエットが挙げた物は、たしかに所有している。だが、それらは自宅のクローゼットの中と机の引き出し、それと本棚の中に隠していた! 常人ならばそんなところに何か隠しているなんておもわない! というか、詮索しようとなんて考えないはず!
こわい! 今まで親しみを抱きすぎていたメヌエットが恐ろしい悪魔におもえる! いつものように浮かべている柔和な笑顔が、何かの企みを隠している怪しいものに感じてしまう!
「あと、恋文も書いてるよね? 何枚も。文章の量が多いから、読む方が疲れちゃうとおもうな~」
「がはぁ!?」
「あと、自作のポエムも」
「げふぅ!」
そ、そこまでバレているだなんて・・・・・・!
「あなたは太陽、私はお花。どんなに届きたいと願い伸ばしても届きはしない。ただ光を浴び、見上げることしかできない」
「げぼぁああ!?」
喀血した。
それほどの羞恥心と衝撃を味わってしまう。
「あなたの熱が、私を照らす。あなたのまぶしさが――――――」
「やめろおおおおおお!! 暗唱するなああああああ!!」
はぁ、はぁ・・・・・・! くそ、なんてメイドだ! 仮にも主にこんな仕打ちをするだなんて・・・・・・!
しかし、自分で作ったポエムを他人に読まれるのがこんなに苦しく恥ずかしいだなんて・・・・・・最早拷問じゃないか! 書いているときは気にならなかったのに!
・・・・・・とにもかくにも、これ以上隠し続けるのは困難だ。メヌエットは私がこれまでしていたあらゆることを知っていたんだろう。そして、勇者様に対する恋愛感情を抱いていると結論づけた、と。
・・・・・・くそ、一体いつから知られていた?
「それに・・・・・・一番重要なことがありますよ?」
「? な、なんだ?」
「私が聞いたのは、好きですよねってことですよ?」
「? うん?」
「でも、リルウル様は恋愛感情だと、自分の口ではっきり言いましたよね?」
「あ、ああ?」
「好きって意味はたくさんあるんですよ?」
「!」
「憧れとか人としてとか。家族にも使うときあるでしょう? なのに、リルウル様はそのどれでもなく、恋愛感情だと答えた」
「あ、あ、ああああ・・・・・・・・・・」
「恋愛感情として聞かれている、と捉えてしまったからでしょうけれど、そう捉えてしまったのは・・・・・・そういう意味で好きだと考えているに他なりません」
こ、こいつ・・・・・・! 鎌かけてやがったのか!?
私は知らず知らずのうちに墓穴を掘ってしまったということか!?
メヌエットは、私が勇者に抱いているのは憧れ。子供が親を慕うような純粋な好意であるというニュアンスとしても聞いた。けれど、私は自分自身の感情から恋愛的意味合いだと拡大解釈、テンパっていたというのも加わって、自ら暴露した形に・・・・・・。
ちくしょう・・・・・・! 四天王にも匹敵するレベルの頭の回転、そして策謀じゃないか! 主に対してそんなことをする度胸も信じられない!
「お前、悪魔か!?」
「いいえ。ケットシー族です」
くそ、負けた。
どのような形であれ、私の恋心が知られていたのは事実。このまま捨て置くことはできない。万が一にも、メヌエットから他の魔族に伝わりでもしたら、身の破滅だ。
折角就任した四天王の座を追われる。いや、魔王軍からも解雇される可能性が高い。そうなれば、ここまでの苦労が全て水の泡だ。
「メヌエット・・・・・・今欲しい物ないか?」
「唐突に深刻な顔で買収しようとしないでください。目がバッキバキですよ・・・・・・」
なんとかメヌエットの口を塞ぐ。それしかない。ようやく勇者様に、合法的に会える機会が
巡ってきたのだ。なのに、こんなことで台無しになってたまるか。自慢じゃ無いけど、貯金もけっこうあるし。
「旅行とか興味ないか? 食べたい物は? なんだったらお金でも良いぞ」
「お金とか物で人を釣るなんて、将来碌な大人になれませんよ?」
やかましい! こっちはそんな綺麗事に拘っていられないんだよ!!
「それより、結局リルウル様は私の質問に答えていませんよね?」
「四天王奥義、お口チャック」
「リルウル様・・・・・・」
「さ~~ってと。情報収集のために準備でもしてくるかな」
そう言って誤魔化そうとすると、メヌエットは呆れたように溜息を吐いた。もう全てバレているのは承知だけれど、あからさまに認めたくはない。
「往生際が悪い。わかりました・・・・・・なら私にも考えがあります」
「? なんだ」
「え~~、コホン。拝啓、アッシュ・バーンガイズ様。突然のお手紙をお許しください」
「!?」
「あなたは覚えていらっしゃるかわかりませんが、一言お礼を申し上げたく、筆をとった次第であります」
「ま、待て! おい!」
「最早貴方への恋心は太陽と同じく、放っておいたら貴方への想いが私の身と心を焼き尽くしてしまうほどに激しく大きくなっております」
「やめろおおおおお!!」
それは恋文の内容じゃないか!!
それも一番最初に書いたけど、流石にやりすぎたとおもって書き直した奴! 引き出しの奥の奥に封印していた奴!!
なんでそんなものの文面を全部覚えてやがるんだ!!
「やめろって言ってるでしょうがあああああああああああああ!!」
おもわず跳んでメヌエットの凶行を止めようとするけど、ヒラリ。軽く身を翻して避けられてしまった。
「好きです。大好きです。好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き大好き愛して――――」
「みぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
そのまま追いかけっこの様相になるけど、メヌエットは止まらず。二枚目の恋文を読み終えて私が恥ずか死寸前に陥るまで、続いたのだった。