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二十三話 覚悟

「あの鬼畜め! 悪魔か!」

「だから悪魔だよ」

「が、あぐ、う!」


 ああ! そうこうしている間にアッシュ様が傷だらけに!


 次々と操られている人達の体から、鋭利な植物が、鞭のような茨の蔓が、飛び出し、アッシュ様を血に染めていく!手足を縛られ、碌に逃げることも避けることも叶わない!


「きゃっはっはっはっはっはっは!! ああ、良い気味だわああああ!」

「ぐ、が、が、」

「どう!? さしもの思い知るがいいわ! 我ら魔族の恨みの強さを!! きゃはははははははは!!」

「ぬ、お・・・・・・あああああああああああああああ!!」

「きゃ!?」


 咆哮、次いでアッシュ様は聖剣を振りかぶった。


 今までよりも一際大きい聖剣の斬撃が、ベルに向かって放たれた。さしものベルも歯を剥き、仰天して回避に入る。


「うっわ危ない・・・・・・。流石に今の当たってたら洒落にならなかったわね・・・・・・!」

「くそ!」


 けれど、間一髪。服を掠めた程度。斬撃は明後日の方向へと飛んでいってしまう。


「しぶといわね・・・・・・。常人ならとっくに死んでいるというのに・・・・・・。でももうおしまいよ。いくら勇者とはいえね」

「ぐ、う、」

「あ、アッシュ様!」


 聖剣を杖のようにして支えていたアッシュ様が、地面に崩れ落ちる。そのまま駆け寄りに行こうとした私の手を、メヌが繋ぎ止めた。


「ダメ、行っちゃあ!」

「は、離せよ! だってあのままじゃアッシュ様が!」

「それどころじゃないんだよ! リルウル様が危ないんだよ!!」


 いつになく真剣なメヌに、つい勢いを削がれる。今にも決壊しそうなほどの張りつめた表情には焦りと恐怖心が見える。こんなメヌは初めてだ。


「だってそうでしょ!? なんて言うつもりなの!? ベル様に!」

「それは・・・・・・」

「四天王が勇者様のこと好きだから、止めろっていうつもり!? それとも別の理由で止めるの!? なんて言いくるめるつもりなの!? 万が一、言いくるめられたって、不自然だよ!」

「そんなの・・・・・・・・・」

「もし万が一ベル様を騙せたとしても、アッシュ様は!? どう取り繕うつもり!?」

「・・・・・・・・・」 


 わかってる・・・・・・。メヌの言っていることは。


 私自身だけじゃなくって、メヌも危険に陥らせてしまう。それだけじゃない。アッシュ様と一緒にいられる時間を、失ってしまう。昔から憧れ続けていたアッシュ様の側に、いられなくなってしまう。


 わかっているんだ。私自身が一番。


「そんなのなぁ・・・・・・・・・覚悟してるに決まってるだろ・・・・・・!」

「え、」


 だからどうした。


 好きな人が死ぬかもしれない。そんなときに、自分のことだけを考えろだって? 指を咥えて見ていろ? なにもするな? 


 ふざけるな。そんなことをするくらいなら、最初からこんな無謀な行動はしちゃいない。なんのための恩返しだ。


「死ぬ覚悟もできないで・・・・・・・・・勇者に会いに来れるかあああああああああああああ!!」

「ちょ、待ってリルウル様!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「私そこまでの覚悟できてないいいいいいいいいいいいいい!!」

「きゃっはっはっはっはっはっはああああ!!」


 メヌとあれやこれやをしている間に、ベルも攻撃しようとしていたんだろう。周囲から天まで届かんばかりの大樹が、刃物と大差ない巨大な葉っぱが、大蛇さながらの茎や蔓が、無尽蔵に地面を突き破り出現し。


「さようなら、アッシュ・バーンガイズ!!」


 殺到する。アッシュ様目掛けて、巨人の繰りだす容赦ない一撃のごとく。


「きゃはははははははあああああああはああああ!!」


 パアアン!!


「ははあああああ・・・・・・・・・あ?」


 そして、破裂した。


 『魔陣紋章』によって産み出されたあらゆる植物が、次々とけたたましく破裂していく。


「・・・・・・・・・・・・え?」


 ベルも、信じられなかったのだろう。勝利を確信した高笑いを上げた表情のまま固まっている。そしてそのままでぽかんとさせ、目を激しくパチパチと瞬かせながらゆっくり周囲を見渡している。


「え? え? え? ちょ、どういうこと? え? なに? なに?」

「う・・・・・・・・・おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「あ、」

「ホーリースラッシュ!!」


 立ち上がったアッシュ様の、構えた聖剣がおびただしい光を帯びる。グングンと光が増していき、最早焼きつくさんばかりの勢いとなっている。


 初対面で私達に繰りだしたのと、さっき発生させた斬撃とは、まるで違う。見つめていると恐怖を覚える力の塊、しかし空から指す日光と同じく、どこか神々しい。


 聖剣に凝縮させているそんな光を、直接飛びかかってベルへと斬撃として浴びせる。


 その余波は凄まじく、アッシュ様を中心に台風並の衝撃を、空間が切断されたような凄まじいうねりを、そして真下の草原を消滅させてしまうほどだった。


 そしてそれを直接喰らったベルは、短い断末魔を残し光の中へと呑みこまれていった。


「あ、アッシュ様、か、勝ったの、か・・・・・・・・・?」

「う、うん・・・・・・そうだけど、今のは・・・・・・?」


 あれ? メヌの髪の毛がいつの間にか凄い逆立っている。なんでだ?


 そこで、私の意識がグラリ。視界と共に揺らいだ。


「リルウル様!? ちょ、リルウル様!?」


 全身から力という力が抜け、立っていられない。今まで味わったことがない、しんでしまいそうな疲労感も襲いかかってきた。意識を保っていられるのが難しくなってきて、メヌの声も耳鳴りがしているような朧気なかんじでしか伝わってこない。


「リルウル様! リルウル様!!」

 バチン!

「あうっ! 痛い!」


 こんなこと、している場合じゃない。


 アッシュ様の傷を手当てしないと。あれだけの怪我を負ってしまったんだから、早くしないと手遅れになってしまう。


 今度は私がアッシュ様を助けるんだ。


「ちょっと! リルウル様! リルチャン! 私だけを残さないで!! ああ、アッシュ様も危ないし!! ちょっと!!」


 心の願いとは裏腹に、私の体はピクリとも動かない。思考も段々と纏まりを欠いていき、目の前も真っ暗になっていき。


 このいろぼけだけん!! そんな失礼すぎる台詞が、最後に聞こえた気がした。

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