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二話 お祝い。そして発覚

「お疲れ様です。リルウル様」

「ただいま」


 私室に戻ると、使用人のメヌエットが出迎える。ケットシー、猫の特徴を持っている獣人の娘で、古くから私に仕えてくれている年齢は私の一つ上。ほんわかとしている雰囲気を持ち、柔和な笑みを常に浮かべていて、こちらの疲れを癒やしてくれる、凄い優秀なメイドだ。


「いかがでしたか?」

「むっふっふ・・・・・・聞いて驚け。四天王に就任したぞ」

「・・・・・・!」


 ふふん。驚きすぎて声が出ないか。可愛い奴め。


「お、お、お、おめでとう~!」

「わぷ!?」

「頑張ってたもんね~~。凄いね偉いね~~~」

「ちょ、むが、おい!?」


 どうやら勘違いだったらしい。メヌエットは感動していただけだった。


 まるで私を自分の子供か妹のようにぎゅううっと抱き締め、喜びと祝いを表現している。


 完璧な仕事をするメヌエットだけど、ここだけは難点だ。主である私を、常庇護頃から子供扱いをする。私が年下で昔からの知り合いで・・・・・・加えて私の体格と身長が小さいのも理由の一つだろう。


 たま~に敬語を使っていないときもある。主従なのにだ。主、私なのに。


 この年齢になってもされるのは恥ずかしいし、若干の悔しさもある。


「本当におめでとう~。自分のことのように嬉しいですよ~」

「はぁ、はぁ、そうか・・・・・・」


 ようやくハグ、もとい拘束から解放され、楽になれた。そのまま会議の内容と四天王になってからの仕事を説明する。


「今日はお祝いですね! 食べたい物なんでも言ってください!」

「はっはっは。大袈裟な奴だな」

「大袈裟じゃないですよ~~。それくらい凄いことですもの。それに、リルウル様が入隊してからずっと頑張っていたのも見ていましたし」

「そ、そうか・・・・・・?」

「ええ。それに、あのリルウル様がですよ?」


 ・・・・・・あのっていうのが気になるな。どういう意味だ?


「本当に・・・・・・ご両親が生きていたらなんて言われるか」

「・・・・・・きっと当然だ。むしろ遅いくらいだって怒ったんじゃないかな」

「そんなこと・・・・・・」

「まぁ、なにはともあれご馳走を作ってくれ」

「はいっわかりました! でも、勇者の調査か~」

「四天王としての実力を示す、良い機会だ」


 そのまま勇者の調査についての話になった。四天王就任と同時に説明をしたけれど、少しだけびっくりしたという反応を見せていた。今は若干不安そうな顔つきをしている。淹れた紅茶を受け取りながら、メヌエットの不安を受け流す。


 魔族が、それも四天王が勇者のことを直々に調べにいくことに危険性を、メヌエットもわかっているんだろう。主に対して身の危険を危惧する。使用人としては、至極当然の反応だ。


 それでも、私はやらなきゃいけない。いや、やりたいんだ。


「これは魔王軍の、いや魔界の未来に関わる重要なことだよ」

「うう~ん。それはそうかもしれないけど、大丈夫なの?」


 なんだろう。心配をしているんだろうけど、なんだかおかしい。どちらかといえば、なんとな~~~く言い辛いな~っていう反応だ。


 もしかして、私がいなくなって不安なのだろうか? ふっふっふ。うい奴め。


「だってリルウル様・・・・・・・・・勇者様のこと好きでしょ?」

「・・・・・・・・・ん?」


 今、メヌエットはなんて言った?


 聞き間違いかな? なにか変なことを言ったような?


「熱! 唇熱!」


 紅茶を飲もうとしたままだから、カップを口につけた状態のままだったことを慌てて思い出す。あ~~、熱かった。

「もう、大丈夫~?」

「あ、ああ。ありが―――って違う! そうじゃない!」

「ほえ? どうしたの?」


 動揺しながら、私は聞き返した。


 メヌエットはもしかして・・・・・・私が勇者を好きだと言わなかったか?


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


 ははは。いやいやそんなことあるわけない。


 魔族にとって、勇者は敵。仇。そして私は魔王軍の就任したばかりとはいえ、四天王だぞ? いずれは戦う立場にいる。その四天王がどうして勇者様に恋愛感情を抱く?


 どうしてそんな発想に繋がる? まともな魔族だったらありえないし、発想すること事態がおかしいのだ。


 そう。いくらメヌエットが主に対して若干距離が近すぎるとはいえ、そんなことあるわけがない。

 つまりは私の聞き間違い。もしくは言い間違いに他ならない!


 ・・・・・・・・・・・・そうだよな?


 ある不安が、私の頭を過ぎった。それだけで血の気を引いていき、冷や汗が流れる。


 さっきの会議でも感じていなかったほどの緊張。魔王軍に入隊したばかりの頃や補佐役だったときにも、四天王と対面したときにも味合わなかった恐怖。生きた心地がしない感覚が、徐々に私を侵食してくる。


 いや、最早これは魔王様が生きていたときと比べても遜色がないレベルだよ。


 つまり、それくらいのヤバい事態になっているのでは? と考えずにはいられない。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まさか?


 いや・・・・・・。いやいや。


 いやいやいやいや!!


 間違いだ! 間違い間違い! 聞き間違いか言い間違いだよ! うん! あるわけない!


「い、いい、や~~~~(震え声)。い、いいいいいい、今、き、聞ききき間違いじゃあなければ、私が勇者様のこと・・・・・・す、好きって・・・・・・き、聞こえたんだけど・・・・・・(震え声)」

「もう、変なリルウル様ですね~~」


 なに言ってんだこいつ。メヌエットの反応はそんなものだった。


 そんな彼女を見て、ホッと胸を撫で下ろす。


「はは! ははははは! そ、そそそそそそそうだよな~~! へへへへへ変だよななななな! うん!」


 ほ、よかった。そうだよな、うん。いや~、やっぱり聞き間違いか。心配して損しちゃったよ、無駄に動揺しちゃったし!


「たしかに私はそう言ったんですよ? リルウル様」

「ぶうううううううううううううううう!?」


 飲んでいた紅茶を、勢いよく吹きだしてしまった。


 やっぱり、ヤバい事態になっている。


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